2章 17話:ルーニャ
17話:ルーニャ
「はぁ……体調はどう?」
「幸せ……じゃないもう大丈夫だよ」
俺は魔法の使いすぎで体調が悪くなったが、ぐったりしているところを風呂上りのクレアに見られ【魔力贈与】で魔力を分けてもらった。体調はよくなったのだが膝枕され、ルーニャに頭を撫でられていた。
俺の真の天国はここにあった。
「さあ、もう逃げられないからね。何でひとりでクエストに行ったのか教えて?」
「実際そんなに深く考えてなかったんだよ。家の外じゃ魔法なんて使えないなーじゃあ外行くかーどうせならクエスト受けるかーみたいな流れでさ……でも次からは絶対に相談するよ。今回は色々と思うところがありすぎた」
「そうだね……結果だけ見ればアキ君が勝手にクエスト行った事でこの子を助けられたからいいんだけど……やっぱり心配だよ。アキ君はこの世界の事を知らなすぎるんだから」
確かに今回に関して言えば、結果論だけどクレアを連れて行けばルーニャのふたりの友達を救う事ができたかもしれない。その事はずっと抜けない棘の様に俺に引っかかっていた。
「ゴメン」
「じゃあお説教は終わり、今日はルーニャちゃんもいるんだしパーッとご飯食べに行きましょう。ルーニャちゃん何か食べたい物ある?」
「え?わたしが選んでいいの?」
「好きな物選んで良いよ。こう見えてもお兄ちゃん達は結構お金持ってるから遠慮しなくていいよ」
「じゃ、じゃあわたし、パンとシチューが食べたい!」
「他には何かある?」
「え?もっと選べるの?だってパンとシチューだよ?誰かが仕事で買われて出て行った時にしか食べられないご馳走だよ?」
俺とクレアは顔を見合わせた。普段は多分、芋みたいな物しか食べさせてもらえないのだろう。俺らは頷き冒険者ギルドの酒場へルーニャを連れて行った。行く前には教会に寄りレスティ信者になった男達にも声をかける。今回は借りも作ったし食事くらいは俺が出すつもりだ。
「一番美味いパンと……それからシチューを作って欲しい。この子にパンとシチュー以外のご馳走を食べさせてやりたいからさ、他にはあんたの自慢の料理も頼むよ」
冒険者ギルドの職員は酒場で働いているのも含めて、ギルドマスターを除き全員が【猫人族】だ。これはギルドマスターの趣味らしい。今度一晩語り合いたいものだ。
そんな事は置いておいて、酒場の料理長は目を細め「わかった。この子がニャくくらいの美味しい物を食べさせてやるから待っててくれ」と言った。首輪を見て察したのだろう。
俺らのオーダーが終わると、男達がテーブルでエールと適当に量のある飯を頼む!とオーダーしていた。今日くらい選べば良いのに。
料理を待っている間は俺がルーニャを肩車してギルド内を回った。勿論隣にはクレアがいる。冒険者ギルドは夜にしか行えないクエストもあり、大分遅くまでやっている。会う人達に「こんばんわ。ルーニャです」と挨拶をするが、始めは『可愛い』といわれるが首輪を見て皆が同情の目線を送ってきた。子供はそういうのに敏感な筈だが、ルーニャは最後まで同じ挨拶を続けた。
酒場に戻ってくると「ルーニャちゃん俺の方が高い景色見れるぜ?」とか「俺と遊ぶか?」みたいに、昨日からレスティ信者の男達が寄ってくる。ルーニャは「お兄ちゃんがいい。でも、ありがとうございます」と俺の上から断り、お礼をいっていた。でも「ルーニャちゃん私の方においで~」とクレアが言ったら「うん!」とすぐに俺から降りてクレアのほうに抱きついてしまった。寂しい。
そんな感じで皆でワイワイやっていると食事が運ばれてくる。それを見てルーニャは右から左へ首を忙しなく動かし、その目を輝かせていた。
「じゃあ食べようか。ルーニャちゃん食べる前は何ていうのかな?」
クレアが優しく問いかける。
「はい。あなた達への感謝を忘れません。いただきます」
「「「「いただきます!」」」」
レスティ信者もルーニャにならった。
「はむっ……!?お兄ちゃんこんなにおいしいパン食べた事ニャいよ!」
右を向いて初めての美味しさに驚いたルナが俺に言う。
「そう?料理は逃げないからゆっくり味わって食べるのよ。ここにあるの全部食べてもいいからね」
「全部!?でもルーニャはそんなに食べられニャいから、お兄ちゃんとお姉ちゃんと食べたいの。ダメ?」
左を向いてクレアに尋ねる。
「ダメじゃないよ」と俺が言い「一緒に食べましょう」と微笑んだクレアが言う。
ルーニャはシチューを食べながら泣いていた。その後にも出てくる料理を食べるたびに更に泣いた。そんなルーニャを何とかしようと、酒場にいた男達が笑わせようと馬鹿をしだす。それを見たルーニャは泣きながらも笑顔になった。
料理も殆ど食べ終え、お腹がいっぱいになったルーニャはクレアの膝の上で寝ていた。そして、後ろからシーナさんに声を掛けられる。
「私の村の者がお世話にニャりました。しかし……こう言ってはニャンニャのですが契約もしていニャい奴隷に美味しいものを食べさせるのは……」
「その事なんだけどね……クレア、俺はルナを家族として受け入れたいんだけどダメかな?」
「それは、あとのふたりを助けられなかったから?……それとも猫人族だから?」
後者はジト目で見られながら言われる。
「後者はともかく、そうだね……その事が無いとは言いきれないよ。結果論だけどさ、俺がクレアとクエストに行ってたら助かったかもしれないし……でもさ、純粋にこの子を幸せにしてあげたいんだよ。シチュー食べただけで泣いちゃう子だよ?これからもっと楽しい事があってもいいでしょ?」
「じゃあ、アキ君はこれからもこうやって不幸な奴隷を家族として迎え入れるつもりなの?」
「それは違うよ。やっぱり俺はこの子に何か惹かれるものがあるんだと思う。でもさ、こういう状況を知ったから、孤児達への助けは出来る範囲でこれから行おうと思う」
「でも向こうに戻れなくなるかも知れないよ?」
「あ!まあその時はその時だよ。この子の傍で最後を迎えるのも悪くない……と今は思う」
「そこまでアキ君が決めてるなら私はいいよ。私も一緒に受け入れる」
「ありがとう」
「でもお金は?あるの?」
「うん。アンデッドの報酬が金貨100枚入ったんだ。クレアに半分渡しても足りると思う」
「そう、なら私には渡さなくていいから一緒にお金を出しましょ!私もこの子の事は好きだから」
ルーニャを撫でながらクレアが答えると、ルナの目から涙が零れたように見えた。
そして、口を摘むんでいたシーナさんが言葉を搾り出す。
「……ありがとうございます。私に協力できる事はニャんでもしますので、ニャにかあったら教えてください」
目を赤くして言い切ったシーナさんは足早に去っていった。
「「「「俺たちも手伝いますからね!」」」」
「聞いてたのかよ。あとそんな大きい声だすと起きちゃうだろ!」
男達にも全部聞かれていたらしい。まあ今言った事に偽りは無いからいいけど。
その後は酒場の会計をし、クレアとどっちがルーニャを抱えて帰るかジャンケンをして勝利を収めた俺が帰り道でお姫様抱っこしている。
「それにしても、まさか酒場の料金を割り引いてくれるとはね」
そう、料理長が「この子にお金は必要だろう?今回はこんだけでいいよ。残りはウチら職員が出すから」って言ってくれたのだ。「男達の分もあるし……」っていうと、「あいつらも真剣に、この子をニャンとかしようってしてくれた。たまにはこんニャ日があってもいいさ」ってお金を受け取らなかった。
「そうね。でも責任は重大だよアキ君」
「ああ。絶対に幸せにするさ」
決意を胸に家に帰った。




