2章 12話:新たなる神
12話:新たなる神
まあ分かっていると思うが、俺らを取り囲んだのは冒険者チーム【クリムゾン】の元メンバーだった。
クリムゾンはあの後、リーダー失踪、高ランク冒険者は犯罪奴隷落ちで、強制解散。現在残ったここにいる奴等は重犯罪は犯してないがランクもいまいちな奴等だった。とはいえ俺らのFランクよりは随分と上であることは間違いないけど。
「で、チームって?」
俺とクレアはパーティは組んでいるけど未だにパーティ名すら決めてないんだぞ?チームなんていわれたって『知らんがな』って感じですよ。
「はい、ダンジョン攻略や、遠征をする際に最高六人しか組めないパーティだと効率が悪いですよね?なのでチームを組んで全員で協力して攻略するんです。報酬は分ければ低ランクの奴等も高ランクと一緒に行動できて実戦を積ませる事ができるので」
「成る程ね。でもチームを組めない理由がある」
「なんでしょう?」
「第一に俺らはまだFランクって事。それにクエストも二回しかクリアしてないからまだ当分は上がらないって事だな。確かチームって組めるのEランクからだろ?」
Fランクで組ませると、高ランクに寄生して実力がないままランクを上げる奴が増大したとかで最低限Eランクまでは自分で上げるように決められたらしい。その為FからEに昇格する際は試験まである。
「まじっすか?あんなに強いのに……じゃあ俺らはどうすれば……」
「それなら私達がEランクに上がるまで、あなた達も自分を鍛えたらどうかしら?なんなら少しだけ協力してあげるわ」
「「「「お願いします!あねさん!」」」」
クレアがそんな事を言い出したけど、何するつもりだよ……それにあねさんって(笑)
クレアに連れられて来たのは教会だった。とはいえ、もう神の信仰が無いこの土地では必要にされておらず、誰も手入れをしていないため中は荒れ放題になっていた。
「クレアこんな所でどうするつもり?」
「大丈夫よ私にまかせて♪じゃあ皆、まずは掃除から始めましょうか」
「「「うっす!」」」
文句をいうのかと思ったら、意外と皆が素直に従った。
一応班分けもした。
直せる物と直せない物に分ける班
直せる物を直す班
直せない物を解体し,使える物と使えない物に分ける班
床と壁を掃除をする班
結局、朝から日暮れまで掛かって掃除は完了した。
「お疲れ様。じゃあ仕上げの後に何でこんな事をしたのか説明するわね」
クレアは片付いた教会に【浄化】を掛けた。途端に清潔感を今まで以上に感じ床に寝転がっても気にならないだろうと思った。
「よろしくお願いします」
クレアが話した内容を纏めると
何故、回復魔法の効果が悪くなったのか
それを元に戻すにはどうしたらいいか
希望するものには、スキルを与える
こんな内容だった。
神の加護は邪神が世界を侵食し、阻害ていると誤魔化したのは笑った。
それを聞いた皆は真剣に考えていた。まず、この世界の住人は神の名前すら知らない。教会にあった筈の女神をモチーフにした御神体も破壊され顔も分からない。それ程までにこの世界はナイアに放置されていたからだ。
そこでクレアが取った行動は、新しい信仰の神を無理やり作った。ポケットからスマホを出しどこかに電話を掛ける。
「あーもしもし、レスティ?お母様いる?うん。変わって?
……あーお母様?うん私、クレア。……うん。そうなのよ。それでちょっと相談があるんだけど……うん。そうそう全然帰れそうになくて……あーゴメン聞こえにくい?こっち電波悪いのかも……
それでおじい様には私が言うからこの世界の女神引き受けて欲しいんだけど?えっ?レスティにやらせる?お母さんも手伝ってくれるの?ならお願い!それは勿論よ、帰ったらいっぱい絵本読んであげるって伝えて……うん。レスティもオッケー?よかった~ありがと。うん。うん。私も大好きだよ。はーい。バイバーイ」
「誰に電話かけてたの?」
「え?お母様と妹のレスティだけど写真見る?まだ六歳で本当に可愛いの」
スマホの見せられるとクレアに似た綺麗な女性が幼女を笑顔で抱きしめていた。どちらも幸せそうだった。って!確かに可愛いけど……
「それで、加護を取り戻す為には神への信仰がどうしても必要なの。この世界はもう神ひとりの力では加護を取り戻せない程にダメージを受けてるのだから、皆に協力して欲しい。勿論メリットはあるわよ」
「それで俺達はどうすれば……」
「神の名前を教えます。この世界の神の名前はレスティ。まずはレスティに祈りでも捧げてみなさい」
男達はそれぞれが膝をつき目を閉じて両手を握り合わせた。そして口々にレスティ様と呟いた。
「祈りが終わった者からギルドカードを更新して来なさい」
ぞろぞろと教会から男達が冒険者ギルドへ向かって行った。最後の男がいなくなるとクレアは再び誰かに電話をかける。
「もしもし?おじい様?報告したいことがありまして……え?お母様から連絡を受けてる?では……はい。分かりました。え?アキ君ですか?分かりました。少々お待ちください」
「何?」
「おじい様が変わってほしいそうです」
「お電話変わりました。はい。アキです。ええ、オーバーリミットは発動しました。ええ。魔法ですか?使おうとしたのですが、まだ使えません。ええ。試してみます。それでは」
爺さんからは近況報告と魔法の使い方のコツ、固有スキル解放のキーワードを教わった。早速試そうとスマホをクレアに返し、気合を入れる。
「【創造】!」
固有スキルの解放のキーワードを唱え、そのままスキルを発動させる。
想像し創造したのは体中に廻る血管の様な魔力の回路だった。爺さんから教えてもらったコツは、『あらかじめ体の中に魔力を循環させる道を作り出口を決めておけばいい』だった。俺は出口を右手に決め魔法を使う。
「【炎魔法(燃えろ)】!」
床に右手を向け唱えると、床には炎の玉が放たれる。ここでの問題は、床に着弾した炎が燃え続け消えない事だった。
「あ、あのクレアさん?」
「ん?何?アキ君まさか消せないのに炎魔法使ったの?」
笑いながらクレアは【創造】で水を炎の上に造り出し無事消化した。
そんな珍事も終わった頃に、男達が戻って来て全員が土下座した。
「「「一生付いて行きます!あねさん!」」」
この者達が後に各地で【大神官】と呼ばれるようになる事は、女神ですら今は知らなかった。
~レスティ~
こんにちは、わたしはレスティ六歳。まだ神殿でお仕事はさせて貰える年齢じゃないけど、お母様の女神アリアからいつでも働けるようにって女神の勉強を家で教わってるの。
今日もお母さんと勉強してたら家の電話が鳴ってわたしが『もしもし、わたしはレスティです。わたしは六歳なのできょーざい?はいりません。とーし?にも興味ありません』って出たら、電話は大好きなお姉様からだったの♪
なんかナイア叔母さんに意地悪されて異世界に行っちゃったって聞いてたから心配してたけど声が聞けて嬉しかったの♪
本当は、もっとお話したかったけど、すぐにお母様と変わってっていわれちゃったの……
でもね、お母様が『レスティ、お姉ちゃんがレスティに助けて欲しいって言ってるけど、どうしましょうか?』って聞いてきたから『わたしやるの!』って答えたの。そしたら今度いっぱい絵本を読んでくれるって約束してくれたの♪
お姉様の優しい声で読んでもらう絵本は聞いてると、とても温かくていつの間にか寝ちゃうの。でも目が覚めるとお姉様がいつも『続き読む?』って聞いてくれるの。本当に優しくて大好きなの。
そんな訳で、わたしは世界【ナトライア】の管理女神になったの。
そんな女神としてのわたしの初仕事は、ナトライア住人の祈りを聞くことだったの。
『彼女が欲しいです。レスティ様』『嫁さんが帰ってくるよう協力してくれませんか?レスティ様』『子供が健康に育ちますように見守ってください。レスティ様』『あねさんのパンツが見たいです。レスティ様』…………etc
色々な祈りがあったけど、お母様が今回だけ『あなたに祈りを捧げた者達に【恩恵】をあげなさい』といったから少しだけ加護をあげたの。
今後は世界を見ていく上で状況を見ながら【恩恵】をあげる者を選ばなきゃいけないの。一気に難しくなったの……
でも、お姉様に任されたから私わたし頑張るの!
今日の最後の仕事は、ギルドカード?とかいう身分証に私が恩恵をあげた証明が刻まれるらしいの。
だから、確認した人に神託?っていうお告げをしなさい。ってお母様に言われたの。
わたしは、『クレアの言う事を聞きなさい。彼女ってよく分からないの?女の子が欲しいの?女の子は物じゃないの!』『クレアの言う事を聞きなさい。お嫁さん帰ってこないの?早く探しに行った方がいいと思うの!』『クレアの言う事を聞きなさい。ちゃんと見守るの。わたしと同じくらいの歳なの』『クレアの言う事を聞きなさい。パンツは見るのもじゃないの!病気とかを守る物なの!』…………etc
……生まれて初めてこんなにいっぱい話したの。もう疲れたの。
でも、わたし、お姉様の役に立つの!
今日の仕事は終わったけど明日からも頑張るの!
とりあえず今日はもう寝るの……おやすみなの




