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1章 10話:限界突破

10話:限界突破(オーバーリミット)


「ちょっと、ちょっとーそこのお姉さん待ってください!」

 お姉さんって俺は無視ですか。何だこいつ?と男に目をやると装飾された鉄の全身鎧に身を包んだ二十代中盤くらいの男がいた。兜だけは装備していないが背中に両手剣を背負っていた。

「何ですか?」

 折角、クエストも終わって後は商業ギルドで換金すれば帰って寝れるところだったのに……とスーパー不機嫌前回でクレアが答える。

「さっきのお姉さんのクエスト報告の時、俺後ろに並んでたから偶然聞いちゃったんだけどさ!アンデッド浄化できんの?ああ、ゴメンね俺はカース。お姉さんは?丁度俺のチームで今度アンデッド狩り行こうとしてたから声かけちゃった!どう?俺らと行かない?一応、俺はこの街【ダンテリア】じゃ数少ないAランクだから頼りに……」

「行かない。アキ君、早く換金行こ」

 カースとかいう男の引っ切り無しに発せられる言葉を途中でクレアは遮った。

 というか何?こいつクレアをナンパしてるのか?

「おい、ちょっと待てって!」

 男は咄嗟にクレアの手を掴んだ。

「何ですか?行かないと私は断りましたけど?」

「そんな事言わないでさ、聞いたことあるでしょ?俺のチーム【クリムゾン】って言…」

「知らないし、行きません。いい加減離しなさい」

 あまりの強引さと、しつこさにクレアが強めの言葉できっぱり拒絶する。

 でもこういうタイプの男はプライドが一番だから面倒なんだよな。はぁ……

「人が下手に出てりゃ駆け出しが調子に乗りやがって、少し顔がいいからって調子に乗ってんじゃねーぞ!痛い目見なきゃ分からないってか!?上等だ!って?あん?何だお前は?」

 勝手にナンパして相手にされなくてプライドを傷つけられて、それをクレアに暴力でぶつける?そんなの許す訳ないだろ。カースはクレアを掴んでないほうの手で殴ろうとした為に、俺は咄嗟にその手を掴んだ。

「何だって?その子の彼氏だよ。人が黙って聞いてればいい加減にしろよお前?」

「アキ君、彼氏って?ええ?」

 そんなに赤くした顔で小声で呟きながらこっちをチラチラ見ないで下さい。

「はは~騎士(ナイト)様登場って訳だ。おいお前ら!新人さんに教育してやるとしよーぜ」

 ぞろぞろと酒場ゾーンから立ち上がり、色々な種族の人が『へへっ』と集まってくる。三十人はいるだろう。

 はぁ……今度は数の暴力ですか。本当にクズだなこいつ。

「そんな目で見るなよ、お前がボコられてる間、俺はこの子と仲良くヤってるか・ら・さ!」

 俺はカースに蹴られ集団の中に弾き飛ばされる。ふざけんな!と俺がカースを見た時、あのクズは舌なめずりしながらクレアの胸に右手を伸ばそうとしていた。

 

 『プツン』

 

 俺の頭の中で何かが弾ける音がする。

 そして、『ヒュッ』と風を切る音だけが残り……


「は?」


 本当に一瞬の出来事だが、俺は自分の身体とは思えないスピードでカースに駆け寄り力任せに右腕を肩から()ぎ捨て、カースの足を払いその場に倒すと、クレアを腕の中に抱いた。

「あ、アキ君?」

「クレア大丈夫?」

「あのねー私これでも女神なんですけど?……それよりアキ君大丈夫?体から黒い煙出てるよ?」

 そりゃそうか、でも許せないものは許せない。特にあのカースだけは許さない。……って煙??

「うわっ?何これ?クレア知ってる?…………ふぅ、そんな事聞いてる場合じゃなかった。今回は俺にやらせて、今なら何でも出来る気がする」

「アキ君も男の子だね。わかったよ。でも程々にね。その煙は心当たりがあるから後でね!」

 クレアは何故かシーナのいる窓口へ向かって行った。

「りょーかい」


「痛え?何で?俺の腕が!俺の腕がー誰か!誰か助けてくれ!おいお前ら俺の腕を治してくれよ!おい!」

 必死に右肩を自分で押さえ止血を試みているカースの下へ俺は向かった。傷口が大きすぎて止血ができていないのか顔は真っ青だった。そしてカースの両足を踏みつけ骨を砕く。

「ぐ、ぐぁぁぁ、ふぐぅ、ぐぁぁぁぁ」

 醜い男の悲鳴が響き渡る。ギルドの職員は遠くから見ているだけで介入はしてこない。寧ろカースの仲間達が俺を止めに来てもいい筈なのに、カースの姿に恐怖を覚え皆が動けずにその場に貼り付けられていた。

「おい先輩?誰を教育するって?誰と楽しくヤるって?」

「ひぃ!来るな!来るんじゃねえ!このバケモンが!おいお前ら!俺を助けてくれよ、リーダーだろ?頼むよ!助けて、助けてくれよーーーー!」

 小便を垂れ流しながら悲鳴を響かせ続けるカース。先程までの威勢はどこへいったのか。まあいい。

「おい、カースだっけ?お前、今までも数の力で同じようなことやって思い通りにしてきたんだろ?それが、ひとりになったらこの様か?お前本当にリーダーなのか?誰も助けに来ねーじゃん?あいつらの顔見てみろよ、皆が俺は関係無い。カースが勝手にやったんですって顔してんぞ?」

「おい、お前ら、何で?何で?誰も俺を助けない!殺されちまう!おい!俺はクリムゾンのリーダーだぞ!?」

 するとひとりの男が震えながら前に出た。

「か、カース。悪いけど、お、俺は今クリムゾン抜ける……お、お前が悪いんだ。そんな人に手を出すから……倉庫に預けたアイテムは好きにしてくれて構わない。世話になったな。

 そ、それとあんた。俺達は手を出しちゃいけない人に手を出してしまったようだ。今俺が差し出せるのは武器と金しかない、こ、これで勘弁してもらえないか」 

 武器と小袋を差し出し、土下座したのは牛の獣人だった。


「はぁ、俺はあんたには何もされてないからそこまでする必要はないよ。

 でもさ、皆だって大人だろ?いつまでも弱い者虐めなんて惨めな事はやめようぜ。

 子供がいる奴だっているんだろ?どうすんの?『父ちゃんも皆で嫌いな奴虐めてるから、俺も嫌いなやつ虐めたっていいだろ?』なんて子供に言われたら反論できるのか?どうせなら「俺も父ちゃんみたいに格好良い冒険者になりたい!」くらい言わせてみろよ」

 言い終えると、男達は武器を置く際にそれぞれが「俺もクリムゾン抜ける」と口にする。

 そして、「「「「すいませんでした」」」」と一斉に土下座した。

 まあ誰だって子供には好かれたいよね。少しは考え直してくれればいいさ。


「で、残りはカースお前だけだ。どうする?このまま死ぬか?」

 流石に血を流しすぎているし、このまま放置したら本当に死ぬだろう。

「ああ、俺が悪かった。誰もいなくなっちまったしチームも解散だ。腕もこんなだしもう冒険者もできねーしな。このまま放置してくれ」

「そうか」

 俺は、スキルスクロールで覚え理解した回復魔法を使ってみるが、違和感しか生まれずできなかった。

 あれ?ヤベえぞ?このままじゃ本当に人殺しになっちゃう!焦った俺は、「おいそこの魔術師?魔法使い?メイジ?何でもいいからちょっと来てくれ」という。

「お、俺ですか?」とオドオドした人間の魔術師を呼び出した。

「魔法の使い方を簡単に教えてくれ」

「えーっとです……」

「はいはい。流石に酷すぎて見てられないよ。私が手伝った方が早いでしょ?」

 いつの間にか用事が終わったのか、『どいてどいて~』とクレアが戻ってきた。

「ゴメン!」

「気にしなくていいわよ。こいつに死なれるとクエスト失敗しちゃうし」

「はい?」

 クエスト?何の事?

 クレアがカースに【回復(ヒール)】を唱え、腕を止血する。切断した腕は元に戻さなかった。

「何?お姉さん、俺を助けてくれたのか?なんだかんだ俺に惚れちゃった系?」

「そんな訳ないでしょ。それであなた『カリーナ』を知ってるわね?」

 その名前にカースだけでなく数人の仲間だった男達がビクッとし冷や汗をかいた。

「何?誰?そんな人間の女、俺は知らねーけど?」

「そう、じゃあ今ビクッとしたそこの人間こっちへ来なさい」

「お、俺ですか?」

「そうよ、お前は『カリーナ』って人間の女を知ってるわよね?」

 明らかに挙動不審になりキョロキョロと周囲に助けを求めるが皆が顔を合わせ様としなかった。

「ねえ?知らないの、知ってるの?どっちなの?」

「し、知りません」

「そう。じゃ……」

「俺が話します!」

 三メートルはある蜥蜴人がはっきりと答え、決意を秘めた表情で歩いてきた。

「知っています。カリーナはもう死んでます」

 俺たちの前で、蜥蜴人は正直に事の顛末を話し出した。

 ちなみに、この蜥蜴人はリザードマンという種族で名前をレイズと言うらしい。


 それでカリーナだが、カリーナは赤毛の新人の冒険者で幼馴染達六人とパーティを組み小鬼(ゴブリン)の討伐へ行こうとしていた。カリーナにとって初めてのクエストという事もあり、集合時間よりもだいぶ早く冒険者ギルドに到着し期待と不安でソワソワしてたらしい。

 そこへクリムゾンのリーダーであるカースが話しかけ、最初は初心者の注意点などをアドバイスしていたが、次第に俺達が一緒に行ってやると言い出した。それでも幼馴染達と行くのでと断り続けるカリーナだったが一向にメンバーは来なかった。幼馴染達はクリムゾンンのメンバーに集団暴行を受けていたからだ。

 結局、カースの誘いは断り続け、最後には『しつこいです。誰か助けてください!』と叫ばれギルド職員によって解放された。その事を根に持ったカースは、ギルドからの帰り道でカリーナを攫い、チームのホームに連行し、好き者数人で暴行し続けた。朝には事切れていた為、火山遠征のクエストを受け、火口に死体を投棄し証拠隠滅を図った。暴行された幼馴染達も後遺症が酷く今でもまともに働けていないらしい。


「レイズ、関わった者を全員教えてくれる?」

「ええ、リーダーのカースに、先程の人間のヘイダ、人間のエクシに牛人のミオル……それと俺です」

「リザートマンは人間に性的興奮は覚えない筈だけど?」

「違います……火口に遺体を投げ捨てたのが俺なんです。

 ……俺はずっと後悔してました。

 俺は、いつもパーティの荷物持ちであの時の遠征も変わらなかった。今思えばその為(証拠隠滅)に行ったのに……

 ですが一応、遠征という事もあり、普段と変わらない量の荷物を準備して挑みました。

 火山に来て五日目の夜だったと思います。

 リーダーが『そろそろ帰るからゴミや必要のない物は纏めておけ』と言ったんです。 ……そして次の日の朝に『レイズ、これらを火口に捨てて来い』って俺に命令しました。

 火山では前も同じ事をしていたので特に疑問も無く、火口から容器の蓋を開けゴミをバラバラと捨ててました。そして、そのゴミの中に以前ギルドで見かけた赤毛の女の子がいたんです……」

「そう、カースだっけ?どうなの?事実?」

「事実?そんな訳ねーだろ。俺はそんな人間の女は知らねーよ」

「人間の女だなんて私は言ってないんだけどね」


【アースバインド】


 クレアが唱えた魔法で、盗賊なのか気配を消し、入り口から逃げようとしていた人間の男が地面から伸びる岩により拘束された。

「ぐぅ、何だこれ、離しやがれ!」

 逃げ出そうともがくが、岩の拘束は解けないようだった。寧ろ徐々に絞まっているように感じる。


「後は、ヘイダさんとミオルさんかしら?」

 クレアが呟くと、抵抗もせず俺たちですと名乗り出た。

「で、事実なの?さっきは知らないって言ってたけど?」

「すみませんでした」

「事実です」

「そう、クエストの報告です。シーナさん」

「承りました。では警備団が来るまでもう少々お待ちくださいませ」

 

 結局、警備団の尋問で他にも罪があることが発覚し、レイズ以外は犯罪奴隷になった。


 予想外の展開で疲れた俺達は商業ギルドでの換金は後日にし、家に帰り泥のように眠った。


 あっ、もう二日も風呂に入ってねぇ……


~カース~


 カースは完全に治っていない足の痛みに耐えながら寒い牢屋で耐えていた。

「糞が!散々面倒見てきてやったのに裏切りやがって!糞が糞が糞が」

 残った左腕を床に叩きつけ八つ当たりをするものの、血が足りず直ぐに倒れてしまう。

『うふふ、いいの怨みを持った子がいるじゃない』

「誰だ?面会か?」

『私が誰でもいいじゃない。力が欲しい?』

「力?」

『そう力、全てを破壊できる程の力、その力を使いこなせればさっきの女にも小僧にも復讐できるかもよ?』

「詳しく教えろ」

『教えろ?まあいいわ。まずは口の利き方からかしら?私が鍛えてあげる』


 翌日には牢屋からカースのみ姿が消えていた。

 その後カースを見た者はいない。


一章終了時のアキのステータス


Fランク アキ タケハラ Lv12 SP:19

職業:女神騎士 Lv 1

所属パーティ名:――  

所属チーム名:――


ステータス

【生命力 Lv5】

【魔力】

【筋力 Lv8】

【敏捷力 Lv10】

【精神力 Lv17】


所持スキル

【剣術 Lv1】【槍術】【斧術】【弓術】【杖術】

【盾術】【投擲術】

【炎魔法】【水魔法】【土魔法】【風魔法】【回復魔法】


所持固有スキル

【鑑定 Lv1】

限界突破(オーバーリミット) Lv1】

【Unknown】

【Unknown】

【Unknown】


称号

【限界を超えし者】

【女神と共に歩む者】


SPは通常のレベル1~9までが1ポイントずつ、10~19が2ポイント、20~29が3ポイントになっています。

女神騎士はレベルが上がりにくいのですがレベル1~9まではSPが2ポイントずつ入り10~19は4ポイント入ります。その後は+2ずつです。

他には固有スキルがLv1上がるごとにSPが1ポイントずつ入ります。


ギルドカード上のステータスはレベルで表示されます。

【鑑定】で確認した時は数値で表示されます。

ちなみに鑑定のレベルが1の場合は物しか鑑定できないのでまだ後になります。

スキルを実際に使用することでレベルが存在し、使用し続ける事でレベルが上がります。その際に新しいスキルが頭に浮かび、実戦で覚えていきます。

例としてクレアの【アースバインド】は土魔法レベル5で覚えます。


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