プロローグ 1話:女神
プロローグ
1話:女神
どことなく肌寒さを感じ、目を覚ますとそこは知らない景色だった。
上下グレーのスウェット……パジャマ姿の俺は、白を基調にした部屋?というよりは空間にいた。どう見ても俺が借りている6畳1間の俺の部屋じゃないし、炬燵で寝ていた筈なのに床は正方形で切りそろえられた大理石が綺麗に敷き詰められて冷たい。
『何だ夢か……』と判断し、もう一度寝ようとしたところで邪魔が入った。
「目が覚めたようですね。竹原秋さん。ようこそ女神クレアの領域へ。ここへ来たという事は、不幸にもあなたは亡くなられたのですが覚えていますか?」
寝転がる俺を無視し、唐突に背後から綺麗な声でそんな事を告げられた。
面倒だが誰?と思い一度起きて振り返ると、少し先にパイプ椅子が置いてあった。さらに椅子の背もたれには【竹原秋】と貼られていた。
「……面接かよ」
思わず呟くと、椅子の前方には、いきなりのあなたの人生終了ですよ宣言をした声の主がいる様だった(・・・・)。疑問系なのは、ドンッ。ドンッ。と引っ切り無しに音が聞こえてくるが、前に置かれた机には終わりの見えない、まるでアニメで出てくるような書類の山脈が机を横一面に陣取っており相手の顔も姿すら確認ができないからだ。
ぼーっと何これ……と見つめていると、「ああ、すみません。椅子を用意してあるのでお座りください」と言われた。向こうからは見えているのか?
言われたとおり椅子に腰掛たが一向に会話は始まらず、部屋にはドンッ。ドンッ。……という効果音のみが響き続けた。その一定のリズムで刻まれる音は慣れれば心地よくなり、いつの間にか俺は疲れから船を漕ぎ出し再度眠りに落ちた。
~8時間後~
「はぁ~こんなの終わるわけねーだろ!!! あの糞女神がっ!」
バンッ!!!と突然の大きい音で『ハッ』と目を覚ました俺はサッと涎を拭う。キョロキョロ周囲を確認すると、どうやら先程の声の主は終わりの見えない戦いに限界を感じた末に書類と机に物理的に勝負を挑み勝利した罵声のようだった。……というか夢ではないようだった。
「ハァ、ハァ、糞が、糞が、糞が! ……私の担当は孤独死だけの筈が、何で事故死や自殺の書類まで回ってくるのよ!! あの糞女神共、私に押し付けてないで仕事しなさいよ!!」
そこには【美しい】という言葉を擬人化して一番似合う人は?とアンケートを一万人に取ったら満場一致で『この人!』と決まるほどの外見完璧女神がいた。俺の十七年の人生で見てきた三次元のどんな女性よりも美しい人間離れした美貌は、俺の目を釘付けにし呼吸をする事すら忘れた。髪の隙間から伺える表情は憎しみに包まれているが、それでも『ゴクリっ』と呑むほどに美しい。
絡まることを知らない清流の様な綺麗で柔らかそうな銀色の長い髪。
年は俺より少し下だろうか。
小顔で完璧なプロポーションを持つ女神は体のラインを隠さない黒いスーツに身を包んでいた。
そんな女神は目線を上げ俺に気がつくと、高潮していた顔は一気に白くなり瞳をパチパチさせ『ツー』っと額から汗が流れ落ち、固まりながら状況を必死に把握しているようだった。
彼女が取った行動は……
「オ、オヤ? 目ガ覚メタヨウデスネ。竹原秋サン。ヨウコソ私ノ領域へ。ココヘ来タトイウ事ハ、不幸ニモアナタハ亡クナラレタノデスガ覚エテイマスデショウカ?」
さっき聞いたような台詞を噛まないように片言で言い切った。
それを見た俺は思わず『ププッ』と吹き出した。それを見て今度は恥ずかしくなったのか一気に顔が真っ赤になる女の子は可愛らしく見ていて面白かったが、本題を切り出すことにした。
「俺死んだんですか?」
真剣に尋ねると彼女も顔色と表情を戻し真剣に答えてくれる。
「ええ、残念ですがここへ来たという事は亡くなられたという事です。原因に心当たりはありますか?」
……俺は必死に最後の記憶を思い出そうと目を閉じて考えた。