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チャイルズ・ワールド  作者: サイタマメーカ
――――報告なし
98/110

討論の果てに

 彼女は、それを終始無言で聞いていた。口を挟もうとした箇所もいくつかあったが、結果的にそれは口には出されず彼女の下の上で消えて行った。彼女としても、それが一番適切な方法だと分かっていたのだろう。


 語り終えた後、復元身体はふう、と息を一つ吐くと、その小さな体躯の女性の顔で、こちらを向いた。


「これがボクだよ。大した理由なんてない。そんなくだらないことで、何人かの命を奪ったが、それに対して後悔はない。ボクは、ボクが信じた方法で行動をおこしているだけだ。いや、それが、本来のボクという存在だ」


 殺害をするのも、行動を起こしたのも、誰かに触発されたからではない。 


 復元身体という存在が、元々そういった存在なのだと。


 本質的に、彼はそういった手段しか思いつかなかったのだと。


「でも、そんなの、『彼女』の望んだことじゃない」


 勢いを失った声で、彼女――本物のオリガ・カナエは言う。


「『彼女』は、あなたの現状を思って言葉をかけたんだから。それは――違う」


「何が違う。ただのクローンであるきみに、彼女の何が分かる」


 その瞬間、その時だけ、復元身体は本気で憤慨した。


 おかしなものだ。彼は、そのことについては何も知らないのか。


「彼女は本物だよ。オリガ・カナエとして活動していたのは、そこにいる娘だ」


 こちらから声をかける。おそらく彼女自身は間違っていてもそれを口にしないだろうと思ったからだ。


 それを聞いた時、彼はこちらを異常な眼力で睨みつけた。

 おそらく、寄生主であれば、そんな貌はしないだろうと思われるような顔で。


「ふざけるのもいい加減にしろ。それとも、息子をからかって楽しいか、父さん」

「別にからかっているわけじゃないよ。きみが出会ったのはオリガ・カナエのクローン。彼女はね、生まれて間もなく、自身の本物と入れ替わったんだ。結果的に。、きみが刺したのは偽者の方だ」


 復元身体は、その事実を聞いた後、大した反応を見せなかった。


「それが、どうした。ボクを狂わせたのは彼女だ。本物であっても、偽者であっても関係はない。オリガ・カナエなんていう名前でさえ関係はない。彼女は、彼女としてボクに殺害された。結果なんてどうでもいいんだ。行動原理なんてどうでもいいだ。ただ、彼女が彼女であったという記憶だけが、ボクにとって最重要だ」


 ――なるほど。


 この人物、この子の言いたいことがようやく分かった。


 つまるところ。彼にとってそれほど彼女という存在は絶対的なものになっている。


 それは、失われてからの話だろう。


 だから彼は、誰にも届かないまま、その行動を続けている。


 終わりがない、その行動を。


「――は」


 思わず、笑ってしまった。


「いや、いい。面白い。復元身体くん。きみは何も間違っていない。きみにはその行動を続ける必要もあるだろう。何もおかしくはない。否定するなんてとんでもない。きみは、自身にとっての答えを模索しているだけに過ぎない。それに大小の犠牲を伴ったとしても、きみにとってその犠牲が答えに向かうプロセスとして必要だったというだけのことだ。気にする必要はどこにもない。いや、犠牲は消費だ。あって当たり前のものなんだ。犠牲なくして何も得られるものはない。つまりこれは、物々交換と同一だ。きみは健全に手順をこなしているにすぎない」


 そう、彼の行動に間違いはない。真っ向からの否定など無意味だ。


 ヒトの行動に他者が干渉することの無意味さを、私は知っている。


 正しい方向の成長など意味がない。


 だから父親としては、このまま彼の行く末を、放任してしまうのが、私の方針なのだが。


「けど、まあ譲れないものもあるかな」


 彼が自身の正義を行うように、私にも正しいと思った義がある。


 個人の思考上の問題であるなら、それが衝突しないことは、すなわち人間の思考が乏しいという結果になりかねない。


 だから健全に、ごく当たり前に、私も私の義をぶつけよう。


「キカク地域を変えさせるわけにはいかない。悪いけど。、現在の制度は私が望んだものだ。それを変革させようと主張するなら、きみはここで排斥する」


 持って来たアタッシュケースを地面に落とす。その中に入っている人的鎧(ヒューマノイド)を起動する。


 復元には、それをただ見ていることしかできない。


 ただの小柄な女性の体躯しか持たない彼にこちらを撃退することは不可能だ。仮に拳銃でも所持していれば話は別なのだろうが、それでも有力な手ではない。


 彼にすでに戦力はない。


 自身のコピーもすべて失い。人的鎧(ヒューマノイド)の中に入り込んだ彼らもすべて消滅した。


 彼に、人的鎧(ヒューマノイド)に対抗する術はない。


「忘れているね。お父さん」


 言って、彼は白い白衣の中から何かを取り出す。


 それは、通信端末だった。画面全体が操作パネルになっている、やや古いタイプの操作盤。


 それが、あの小さな手の中に握られている。


「ボクが今借りているカラダは、天才技術者のものだ。その彼女であれば、自由にできる人的鎧(ヒューマノイド)の一つや二つ、持っていても不思議じゃない」


 瞬間、彼のとなりに上空から何かが落ちて来た。


 確認するまでもない。それは、白い人的鎧(ヒューマノイド)。最強の人的鎧(ヒューマノイド)とキカクでは謳われている、天才技術者が作った平気だった。


 しかも。ご丁寧なことに、きちんとその体躯に合わせるように小さめに作成されている。


 リモートの操作が可能なのか、それは自身でこちらに飛びながら接近し、ここにきた。手には人的鎧(ヒューマノイド)専用と思われる銃器などが握られている。


「ここで決着を付けよう」


 言って、彼はその人的鎧(ヒューマノイド)の中に入り込む。人的鎧(ヒューマノイド)の前面全体が開く仕組みになっている桶のような乗り込み口で、復元身体はその部分から人的鎧(ヒューマノイド)に搭乗する。


『敗したほうにこの先はない。ボクは、ボクの目的のためにあなたを殺す』


 その発言に、答えない訳にはいかないか。


「いいだろう、復元くん。親としてきみの期待に応えよう。武力――という面が気にいらないけど。まあ、それもいいだろう。口での攻防が成立しないのなら、あとはそれしかない」


 人的鎧(ヒューマノイド)に乗り込む。古来から、交渉失敗からの行動は数えるほどしかないのだ。


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