復元身体 3
未だに、彼女の言いたかったことは復元身体には分からない。
ただ漠然と分かったことは、おそらく彼女は復元身体が何らかの複製体だと知っていたこと。
そして、おそらくは彼女自身も、なんらかの普遍ではなかったということだ。
ともあれ、ことは済んだ。
刺した本人である復元身体は治安委員会に拘束され、早急に裁判にかけられあっという間に死刑が決まった。秘密裁判、といってもいい。
理由は分かる。
裁判の前に、口にしたからだ。
「ボクは復元身体だ」――と。
そこまではモモタビ・マイリとの筋書き通りだった。彼女の殺害には成功し、復元身体という犯罪名はキカク地域に拡散する。
そして復元身体は、その後もキカク地域を攻撃し続ける。そこに、復元身体という傀儡がいる限りは。
しかし、その様子を、すべての復元身体は確認した。
そしてそれは、すべての異変へと通じた。
アレはなんだったのだろうか。
彼女は死の間際に何を言ったのだろうか。
すべての復元身体は記憶している。しかし数百の思考回路を以てしても、彼女の言葉は理解できない。
安易な結論で済ませ、くだらない死にぞこないの発言にすることもできた。
しかし、それを行うことは躊躇われた。理由は、ない。
――もしも彼女の言う通りに、自身に理解者、などというものがいたのならば、復元身体という単一の媒体はどうなるのだろうか。
彼女。オリガ・カナエは何をしたかったのだろうか。
記録媒体に残る、彼女の発言を調べてみれば分かるだろう。
彼女が行いたかったことは、キカク地域の改正だった。
曰く、単一の他者ではなく、人間は人間との関わりを持って生きていくべきだと。
ふざけた性愛者のようなことを言う。しかし、彼女の発言はそうではないだろう。
もっと愚直だ。
しかし、何かが違う気がした。
映像に映っている彼女と、復元身体が視た彼女。
姿形が同一でも、その存在は、何かが圧倒的に違っていた。
言語化が出来ない何かが、違う。
魂――とでも言えばいいのだろうか?
馬鹿馬鹿しい。
人の存在を御霊で表そうなど、古代の思想だ。
映像も魂魄も関係はない。
復元身体は、確かにあの少女を殺害した。あの、死にぎわにこちらに口を開いた、彼女を。
結果は自明だ。実際に手を下した復元自身がそう認識するのだから、間違いはない。
彼女を殺害した後、キカク地域には小さな波紋のようなものが広がった。
オリガ・カナエ。通称オリヒメだとか馬鹿な渾名を付けられていた彼女が死亡したことが報道されたのだ。
分からない。
その目で見たこともない人間の死を、どうしてそこまで身近に感じられるのか。
実際に手を下した自身は、何も感じられないというのに。
彼女の存在が、そのときどれだけ絶対的なものかを知った。
その彼女が、モニターに映った彼女で、自身が殺害した彼女なのかどうかは疑わしいが。
だが、ここに来て分からないことが一つ、ある。
モモタビが彼女を殺せと命じた理由である。
彼女の死は確かに人民のキカクへの不信感を買うことはできた。だがそれだけだ。誇張されたのは彼女の死と、彼女を殺害した一人の女性と、そして復元身体の名前のみ。
彼女の死に、そこまでの意味があったとは思えない。
――では、彼女は一体何に殺されたんだ?
「簡単だよ。彼女は、彼女自身に殺されたんだ」
モモタビ・マイリは、澄んだ声でそう肯定した。
曰く、自身の存在による行為そのものに殺されたのだと。
各人の行動は、すべての因果に繋がっているのだと、そんなことを口走った。
そう考えることも、できるだろう。
彼女は、彼女の行動によって、自身の死因を作ってしまった。彼女の思想、彼女の行動さえなければ、あの少女は、あんな最期を迎えることもなかっただろうに。
強引に、怠惰に考えればそれで納得できる。
でも、そう安易に押しこめられない自分がいた。
殺害した実行犯は他でもない復元身体だ。それは、どのような弁明を行っても揺るぎがない。
自身が彼女の未来を奪ったのだと。
彼女の夢を、未来を、命を、体温を、思考を、時間を、すべて奪ったのだと。
では殺害とはいかなるものか?
何をもって行われたのか?
彼女のそれらを奪い去ってまで、止めるべき事柄が自分にはあったのか?
否、そうではない。
復元身体はただ従っただけだ。
自身の行動に。他者の望みに。
だからこそ、彼女はその命を失った。




