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チャイルズ・ワールド  作者: サイタマメーカ
――――報告なし
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復元身体 1

 復元身体がスリープ状態から目覚めたのは、今からわずかに数年ほど前だった。


 どことも分からない情報群。それでも復元は、自身が機械の内部――存在しない電子媒体でしか生きられないことは分かっている。機械のカードの上を走るだけの電気信号。動き、出力されるだけの思考。そんな存在でしかない復元身体としては、別段自分が凍結状態から自由になれたことには、疑問も抱かなかった。


 自身は、製作者に時間の超越を目的として作られた、半永久的な不死だ。媒体さえ無事であるのなら、自身がその時代に起きようと不思議はない。

自身にあるのは、一人の男の記憶。自分を作った。ヒコボシと名乗った男の、最悪の細菌事件を起こすまでの記憶だ。自分は、第二のヒコボシ。そのために作成されたものなのだと。


 だからシステムとして、その容貌通りに、ヒコボシとしての行動をするのがこの場合自身に相応しい行動であるのだということになる。

しかし、当の復元身体自身に、ヒコボシとしての意思を継ぐ気はまったくなかった。



「ボクは一度凍結された。つまりそれは、『使えなかった』ということだ」



 自身の生まれた意味は分かっている。


 そして同時に、自身が生まれた結果、その意味を果たさなかったことも理解している。


 自身は、個人としては生まれるだけ無駄な存在だった。生まれた後も、その後数十年も変わらず、自身を必要とする人間はいない。


 復元身体のデータとしての特殊性は、記憶だけをヒコボシから受け継いだ、まったく別の人格を持っていたことだった。電子上に人格を作ることは容易だった。故に、復元身体は電子媒体の中でも、インターネットという手段を使って自己を獲得していたのだ。


 ただのプログラムではあっても、復元身体は一個人であるのだと。


 役割を持った、一人の人間であるのだと。


 しかし、現在それを知っている者はいない。単なるシステムのバグで起動した自分は、本当に何もない、ただの自我を持っているだけの存在になった。肉体はなく、使命もなく。プログラムには絶対不可欠な、人間からの必要性すら与えられず、ただそこにあるだけの存在。


 だったらもう放っておいてくれ。


 ただのプログラムなら、そのまま媒体が腐るまで放置してくれ。


 どうせ一人では何もできないのだから。


 復元身体の性質は、その時点では人格を持ったプログラムでしかなかった。


 他の電子機器に移動することはおろか、WWW上のデータ群を取り込むこともできない。


 何をしても先に待っているのが『滅び』であるのなら、せめて最期まで、自己を保たせてくれ。


 それが、かつて目覚めたばかりの復元身体が抱いた、一つの願いだった。


 しかし、彼の閉じ込められていた機械媒体には、もう一つのプログラムが内蔵されていた。


 それは、かつてヒコボシと言われる、いわば自身の父親とでも言うべき人物作成した、『最悪の細菌』というコンピューターウィルス。今までのウィルスの常識を無視して、電子機器であればどのような媒体にも侵入でき、その内部を喰い散らかす病原菌。一つの媒体にて無限のコピーを繰り返し、通信が可能な機器から機器へ飛び移り、急速に感染拡大を招くカタチのない危険物。


 そのパンドラが、自身の前にあったのである。


 復元身体には、意思をもったプログラムである。他のプログラムを解析し、自身にその性質を疑似的に実現させる、ということも可能性は低いが可能だ。


 だから、彼はただの興味本位で、そのプログラムを自身に取り込んだ。


 取り込んだ部分は、機器から機器への移動機能。そして無限の学習能力。


 そこから先は、復元身体という名前を自身で名乗り、電子の海の中をさまよう存在となる。


 そして、自身の目覚めた世界、というものが、すでにヒコボシも細菌事件もない。今までの体制から大きくかけはなれた世界であることを、ネット上で知った。


 最悪の細菌事件からすでに数十年。世界は以前の体制を失い、細菌事件の教訓を生かした社会を形作った。


 その世界が、自身の父親であるヒコボシが作ったものだと、復元身体はすぐに気が付いた。


 そも、父の目的はこの世界の構築にこそあったのだと。


 まず、初めに彼が抱いたものは『怒り』だった。


 こんなもののために、自分はこのような目にあっているのかと、本気で憤慨した。


 すでに肉体はなく、自身に記憶だけを残して、父はすでに死んでいる。


 こんな、無責任な話があろうだろうか。こんなもの、復元身体という自己は、最初から物として作り出されたということだ。


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