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チャイルズ・ワールド  作者: サイタマメーカ
――――報告なし
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復元身体の拡散現象

 人的鎧(ヒューマノイド)の中に復元身体が侵入した時点で、その場はあっという間に制圧した。


 人的鎧(ヒューマノイド)の出荷を待っていた人間は、自身の商品がハックに遭ったと考え、人的鎧(ヒューマノイド)の強制終了を行おうと端末を操作していたが、そんなものは機能を掌握した復元にはきかない。やるだけ無駄な行為だ。


 別に人を殺害する必要もなかったので、それらは放っておいた。彼らが標的にしなければならないのは、ある特定の人間である。


『乗っ取りには成功した。これから襲撃に向かう』


 キカクの地下道路にまで復元身体が乗り移った人的鎧(ヒューマノイド)が到達した時点で、そう連絡を入れる。通信先はあの美しい統括者へだが、彼からはなんの返事もない。


 当たり前だ。今回の件は、彼が協力関係にいないことこそが彼の狙いなのだから。下手な通話をして、自身の関係性を提示してしまっては意味がない。


 支配した人的鎧(ヒューマノイド)は三百五十と幾つか。そのすべてが復元身体ではあるものの、彼らに仲間割れなどというものは起きない。


 彼らは電子の世界から三次元の世界に分離した際に、衝突を起こすだけの個を、まだ獲得していないからである。まったく同一の存在が、自身との意見の食い違いという誤差を獲得するまでには、まだ時間がかかる。


 そう、復元身体は一つではあるものの、コピーを行った時点でそれは個人ではなくなっている。まったく同じ記憶と能力、そして本質を持ち合わせた存在が、別々の個として存在したならば、その経験則はどれだけの誤差を生むのか。彼、復元身体の父親であるヒコボシが目指したものである。


 事実、復元身体は、最悪の細菌事件を起こしたヒコボシの記憶を所持している。復元身体は父親のコピーとして造られた。故に彼は父親が死亡した後に自身の機能を、かつて父が世界に向け手ばら撒いたコンピューターウィルスの機能を取り込み、どの電子媒体にも侵入できるように強化した。ほとんど無意識の強化だったと言ってもいい。自身を成長させることに興味はなかったが、電子というのは自身のスペックの向上にはほとんど無意識に取り組むようにできている。かつての電子時代がそうであったように。


 人的鎧(ヒューマノイド)を纏った自身が、キカクの中で発見されないはずもなく、キカクの住民は自分たちを見ると悲鳴を上げて逃げて行った。


 おそらく、治安委員会でもない自分達が人的鎧(ヒューマノイド)を纏っているという現状に恐怖したのだろう。誰も、こちらに向かってくるような者はいなかった。


 いや、それはそうだろう。最強の兵器に抵抗を示すような人間がいることが異常なのだ。


 そんなものは賢い者のとる行動ではない。


 しかし、それでも、その人物が暴力という行為に出ないのであれば、こちらの説得にでも出るのが人間なのではないか?


 なぜ、こちらの意見すら無視して、敵と認識できるのか。

 まあ、それも仕方のないことだろう。復元身体は初めから、理解されようなどという行動はとらなかった。


 始めの暴動。人的鎧(ヒューマノイド)の展覧会を襲ったのも、脅迫状を送り、それが無視されたため、多少の暴動を起こすことになった。警備をより導入していたため、それを退かさなければならない状況になってしまった。


 オリガ・カナエの殺害などは、ほとんど不意打ちに等しい。


 電車の事故はモモタビ・マイリの誘導であったため、最初から犠牲者を出す気などなかった。それでも無理矢理であったのは確かだろう。


 それで一体、誰に理解を求められると言うのだろう?


 他者を攻撃するものは、等しく誰にも理解などされない。


 でも、分かっていたか? その攻撃は、自身の苦痛から捻出されたものなのだと。


 こんなことで、一体、誰に理解されればいいというのだろうか?



 おしえてください。



 ……、…………、………………



 やはり、答えなどない。


 電子からでは、そんなものの答えは算出できない。


 モモタビ・マイリと自身の計画に狂いはない。あるとすれば、それはあの、車の炎上事に、わずかな不安がある程度だ。


 本当に遂行するのだろうか。


 ――いや。


 しなければならない。


 そう、忘れるところだった。自分が、復元身体と名乗っている自分達が、一体何のために行動しているのか。


 そうだ。ボクは、ボク達は、あのヒトに――。



『よお』



 その時、背後で声がした。


 複数の人的鎧(ヒューマノイド)がそちらに振り向く。


 それらすべてが復元身体の目であり、すべては彼の体だ。


 それが、捉えたものは。


 黒い嵐のようなものを纏った黒い人的鎧(ヒューマノイド)と、その後ろに見える集団だった。


 ああ、ここが。


『やあ』


 そんな風に、復元身体は発言する。


 あくまで彼らの敵らしく。キカクの治安を乱すだけの、ただの不穏分子として。


 キカク地域における最強の人的鎧(ヒューマノイド)部隊。彼らが自分に刃を向けたのだ。


若干、そのとき安心した自分がいる。


『気が付かなかったぜ。それ、おまえと統括者の意向だったんだな』


 黒い人的鎧(ヒューマノイド)は、その指でその場に何十といる人的鎧(ヒューマノイド)の内の一つに指を向ける。


 何を指しているのかは言うまでもないだろう。復元身体が乗っ取った人的鎧(ヒューマノイド)は、すべてcleanに届けられるはずだったものだ。そこにペイントされた文字は、彼らの纏っているものとは異なる。


『これは、立派なサブミナルだ。反乱宣伝だ。そのペイントを付けた人的鎧(ヒューマノイド)がキカク地域を襲撃することで、おまえは自身の行動を世界に表明しようとした。おまえにとって、ここは、そういう場所だと表す為に』


 自身の根幹が分解される。不快なものだ。自己を他者に把握されるというのは。


『我が青春は陰惨たる嵐に似たり』


 それは、かの詩。一説には時を敵だと言った、焦燥の唱。


『お笑い草だな。時間を超越したおまえが、それを引用するなんざ』


 彼は、誰から何を訊いたのが、復元身体のことを知っている。

 彼が何者であり、どういった存在なのかも。


『ボクは、新しき花を目指しているだけだ。それらが、無事に咲けるように。今までのように、踏みにじられないように。誰にも、脅かされないように。そのために行動している』


 口にできたのは、そんな意味の分からない言葉。

 しかし目の前の男は、その真意を汲み取ったように、口にする。


『それは、誰のことだ?』


 ああ、知っている。この男は知っている。


 ボクの目指しているものを、知っている。


 でも、それは。


『口にしたところで、意味がないのだよ。ハリヤマ・ネズくん』


 肩に背寄った熱刀を掴む。嵐の中にいる人物は、復元の行動に嘆息した。


『ボクはきみ達の敵だ。違うかい?』

『ああ、その通りだな。復元身体。だから容赦も悔恨も、懺悔もいらないな?』


 無論。


 自分は人間ではない。そんな、情緒にまみれたものは不要だ。


『ボクはキカク地域を崩壊させる。きみ達では護り切れないことを証明しよう』

『別にいいよ。護ることがこっちの専売特許じゃない。オレ達は白血球だ。広がった穴は、まあ誰かがどうにかしてくれんだろ』


 それでも、戦力は歴然。


 幾らキカクの中での戦力が戻って来たからと言って、統括者の犠牲は避けられない。


 そういう計算になっているのだ。


『おまえの考えなんてどうでもいいよ。それは、おまえの頭の中での結果だろう。演算なんてのは、数値の上での結果だ。それを現実に適用しようとするところから、考えが甘い』


 そんなことは分かっている。そこまで、浅はかではない。


 だから、復元身体の中でも、わずかな数は、ここにいるのだ。


『時間稼ぎ――か。でもおまえら、それでいいのかよ』

『何が?』

『おまえらコピーだ。それでも、個人には変わりがないんだろ?』


 そう。彼らは一つのものから派生した。しかし、今この場にいる彼らは、紛れもない一個人として存在している。


『ボクは個人じゃない。すべての復元身体は同一の目的の為に動いている。その目的のため要素として死ねるなら、ボクは幾らでも、自身をないがしろに出来るんだ』

『ふーん』


 そこで、ハリヤマ・ネズは完全に彼に興味を失ったようだった。


『じゃあいいや。おまえ、今自分を救う手を離したぞ。他は? 今なら投降と降伏を許してやるよ。こんなところで潰れていいのかよ?』


 その場にいる復元身体は答えない。


 ハリヤマは、本当に嫌だというような息を吐いた。


「一人もなし。んじゃ殲滅させてもらうぜ。さっさと先にいったおまえの同体の場所まで追いつかせてもらう」


 黒い嵐は、キカクの広い地下街の中を覆っている。


 地下において、莫大な規模の闘争が行われようとしていた。


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