ムカツクから殴れ借りれ
『そんなわけで、協力はしてやれない。オレ達はあんたに何もしない。いいな?』
「……、……。――え?」
しばらくして、彼女はその言葉の真意に気が付く。
そうして頭を挙げたとこにろに、その黒い手のひらが置かれた。そのまま、彼は人員の元に戻って行く。
そうして、戻った瞬間に、彼は味方であるはずの人員から殴られた。
がつん、と結構な音を響かせて。その衝撃に彼女が驚愕する。
まさか、この中にも復元がいたのだろうか、という危惧だろう。
まあ、確かに殴り方は本気ではあるが、あれは違う。空気感で分かる。
あれはただの遊びである。
人員からのリンチが終わり、その場に倒れた黒いアーマーに、彼女ははっとなったように近づく。
「あっ、大丈――」
『――ぶっ。うん、全然問題なし』
むっくりと、本当になんの問題もなさそうに、ハリヤマ・ネズは起き上がった。
「そんな、なんでこんな」
『気にしないでください。いつものことなので』
人員の中でも数人の傍観に徹していたハツカが彼女に軽く言う。
『ああ、そうだな。おまえらいつか絶対殺してやるから』
笑いながら言うトップランカー。まあ、事が終わったならいい。
『おい、アマカワ――とか言ったか?』
その場で、彼は初めて俺の名前を呼んだ。
「ん? 何カナ?」
『今、彼女を護ってやれんのはおまえだけだ。この件はおまえに投げてやる。もし彼女に何かあった時は、まあ、ここにいるおにーさん達が怖いから、そのつもりで』
「そりゃ、コワイね。コワイコワイ」
いや、その発言は本当にシャレになっていない。怖いどころでは済まないだろう、それ。
『で? これから何かやる事とかあるのかよ』
「うん、それはね。その前に、ここにいる皆さんとは情報を交換しておきたいな。あ、にーさん達誰かパソコンみたいなの持ってる? それがあったら貸してほしんだけど」
まあ、別にいいけどと向こうが応える。
さて、物事の整理を始めよう。推測ではなく確定へ。そしてこの後の行動へ。
◆
Processingに言い渡されたのは、出動待機命令だった。
技術廃棄街への進行の準備をキカク地域でしろ、という命令だそうだ。
つまるところは、キカク地域で問題が起こった場合に傍にいないのは困るから、とりあえずはここにいろ、ということだそうだ。実質の出動取り消しである。
これから何かが起こることをまるで知っているような命令だが、その点は上で何かあったのだろう。そして、彼らは自分達の下の組織にはその事実を伝えないことを選択した。
これは、言ってしまえばスラム街への進行よりも重要な出来事がキカク地域で行われているからであり、その発生がハッタリなどではないことを現していることくらい、彼らにも容易に推測ができる。なので彼らは、実質的にこのキカク地域自由に行動できるようになったらしい。まあ、おかしいと言えば、どうして彼らにその上の人間の護衛を任されなかったのか、ということなのだが、そこはリーダーのハリヤマ曰く「そういう組織じゃないから」とのことだ。
元々、Processingは護衛などの防衛の仕事をする組織ではない。どちらか言えばその方針的には攻撃に特化した組織である。そんな彼らが護衛などに白羽の矢が刺さることはなく、ただ現地の見回りという仕事が与えられた、ということだった。
ずさん、としか言えないような命令である。彼らのようなものが、人的鎧を纏ってキカク地域を徘徊するなど、それだけで人民に何か問題があることを伝えるようなものだ。
しかし、逆に言えば、そうまでしてまで、彼らには防衛しなければならない状況があるということだ。そのために、彼らは未だここに残っている。
交換した情報は少なかった。
どちらかと言えば、こちらから提供した情報の方が多いだろう。
モモタビ・マイリの正体。
復元身体の正体。
そして、彼女。オリガ・カナエの正体。
この三つの情報をProcessingに伝えた時点で、情報量とその質については、明らかに俺達のほうが上回ったと言える。何の勝負をしているのかは分からないが。
「なるほど、要するに、統括者同士のいざこざかよ。くだらねえ」
人的鎧のバッテリー温存の為に鎧を脱いだハリヤマが発した感想は以上のものだった。まあ、斜に構えた発言をすればそうなるか。
「かもしれないが、少なくとも復元身体くんは少し違うようだネ。彼はマイリと同じ目的を持っていない。彼には、彼の別の目的の為に動いているみたいだ。それは、今も」
ふーん、とハリヤマは興味のない素振りを示した。
「それはそうと、そいつらに本当に勝てる手立てはあるのかよ。おまえの話じゃあ、不死身、みたいに聞こえたんだが」
「電子の存在ならネ。希望があるとすれば、モモタビ・マイリ。彼はおそらく不死じゃない」
「あ? なんでよ」
「彼は統括者だからね。自身と同じような存在が複数いると困るのサ。それは、彼の保身的な行動を見れば、容易に考えられるデショ。幾らでもコピーできる存在が、個を護る必要はないのにだ。彼は、単一の存在であるからこそ意味があるんだよ。だからその能力は高速的な移動にしか使われていない」
「といっても、復元身体は無限にコピーが可能なわけだろ。それこそ、一秒につき一体くらいに。そんな存在に、どうやって肉薄するんだ?」
「対策はある。だからこうやって、下準備をしてるんデスヨ、と」
言って、PCの操作を終える。ここから先の作業は個人が持ち得るコンピューターのレベルでは不可能だ。
「重ねて悪いんだけど、このPC貸してもらえない? いや、少しの間だけでいいんだけど」
「オレのだぞ? いいが、レンタル料は貰うぜ」
「ん? いくら?」
「一時間に二万、が条件かな」
「悪徳だねえ、イイ商売だ」
「で、どうする?」
「ツケと、現金支払い以外が可能なら考えよう。どうカナ」
結果的に、交渉は承諾された。どうにも甘い借金である。




