世界最悪の細菌事件の残存
復元身体は、モモタビの事をちらりと視野に入れると、ぽつりとつぶやく。
「少し、無視できないことが起きた」
「さっきのくだらない事故が?」
「その事故に残されていた内容だ」
ふーん、とモモタビは興味のないような声を出す。
「あの車に乗っていたのは、彼と彼女だった。そのどちらかが遺したメッセージが、そこまで重要なことなのかな?」
復元身体は、どう見ても余裕がなくなっている。焦燥と言ってもいい。
「最重要、かな。もしかしたら、ボクらは」
「僕らは?」
「単一の個人に、敗北するかもしれない」
その発言は、あまりにも突飛で、今の現状には全く即してはいなかった。
なので、その言葉を個人が受け入れるのに、少しだけ時間を有した。
「んー。それってさ、僕達の計画を一時中断してでも排除するべき事柄かな?」
「いや、そうじゃない。計画はむしろ早めに進めるべきだ。そうでないと、計画そのものが破綻することになる」
「計画が破綻、ね。それって、どういった理由で?」
復元身体は、その先を口にすることを躊躇っているようだった。
しかし、一度興味をもってしまったモモタビ・マイリを抑えることはできない。
「つまんないシャレだよ。何の捻りもないメッセージだ」
そんな、誰についているかも分からないような悪態を吐いて、彼は言う。
「火の星。そして子は野水に至る。ヒとホシ、コはノ水に至る。合わせれば」
ヒコボシ。
数十年前の最悪の細菌事件の首謀者。
そして彼、復元身体のオリジナルにあたる人物である。
「で、日にあたる水辺。これって、キカク地域のダムのことだろう? さすがに地下に都市を築いていも、ある程度の生活用水を得るためには上から降ってくる水を濾すしかない」
つまるところ、そこに行け、という馬鹿げたメッセージだ。
「父に会いたくば、と言っていたね。つまりそれは、そこにきみの父親がいるということかな」
「そんなはずはない」
そのことには、彼は強く否定を示した。
「彼は亡くなっている。だからこそ、ボクを作ったんだ」
「では、誰が?」
「それが分かればここまで焦らない」
焦っているという自覚があるのか。
「でも、例え彼が出て来たとして、どうしてそこまで恐れる必要が?」
「理由は、単純だよ。でも――」
ふう、とそこで彼は息を吐く。
「そこまで警戒することでもないか。ほぼ、九十五%くらいで偽者だ。そんな都合のいいことはあり得ない。例え、彼がもし『持っていた』としても」
その発言は、モモタビには聞き流せないところではあるだろう。
「でも、一応聞かせてくれないか? 何度でもコピー可能なきみが、ほとんど不死身に近いきみが、どうして自分を主体にした計画が崩れると思ったのか」
それは、まあ、私からみても、当然の発言だった。
復元身体。彼は、その小さな体躯をこちらに向けて、話し始めた。
「下手をすれば、ボクはあっという間に消滅するかもしれない。どれだけハックを行っても、どれだけのプログラムを作成しても、それには到底太刀打ちできない」
何かに怯えるように、彼はそう発言した。
「つまりは、そういった細菌が、まだ生きているか、生きていないか。それくらいの危機だってことさ」




