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チャイルズ・ワールド  作者: サイタマメーカ
――――報告なし
80/110

制作者の確認

「きみは――」


「ああ、話すのは初めてになるか。始めまして。ボクは、復元身体だ」


 その口調は、彼女の物ではない。完全に他者のものだ。

 そして私は、彼女とは十年近くの付き合いになるが、彼女のそんな姿は見たことがない。


「復元、身体?」


「そう。今、このキカク地域で騒動を起こしているやつだよ。といっても、ボクはそのたった一部にすぎないんだけどね。今は、あくまでこの彼女の体を借りているだけにすぎない」


「借りる、だと?」


「ノウスイ・ソウフさんに免じて、あなたには話しておくよ。ボク、復元身体の正体は、人間と機械に直接のインストールが可能な意思をもったプログラムでしかないんだ。だから誰の意識の中にでも入り込めるし、乗っ取れる。今までの実行犯が皆統一されていなかったのは、それがボクに意識を乗っ取られただけの人間だったからだ。そしてそれは、彼女も」


 絶句する。


 では、彼女は、ノウスイはどうなったというのか。


「ああ、でも安心していいよ。彼女のケースは少し特殊でね。本来なら本人の意識ごと復元身体として乗っ取るところを、彼女はボクという存在をまったく別の人格として捉えた。だから彼女の人格がボクに侵されることなく、あくまで彼女の同居人のような存在として、彼女の裏側の人格としてボクという存在が形成された。まあ、簡単に言えば彼女の裏人格、二重人格と言い換えてもいいだろう」


「性同一性障害?」


「それとは少し違う。単純な二面性の話だ。ボクは彼女の一部であり、彼女もまたボクの一部になった。まあ、元から一つだったものが、この際では二分されたにすぎない」


「なにか、それはややこしい話だな」


 それ訊いて、彼は呆れたように溜息を吐いた。


「技術者がややこしいも何もあるかよ」


「言う通りだな」


「一応言っておくけど、今までの言葉は一つ残らず彼女のものだ。僕が演技をしていたわけじゃない。――ああ。何か変だと思っていたが、そうか。泣いてたのか、ボク」


 自身の頬が濡れていることを確認して、彼女――復元身体は冷めた眼から涙を溢れさせる。


「不思議な気分だよ。昔、悲しいから泣くのではなく、泣くから悲しいのだと言った理論があったが、あれは確かかもしれないな。そうなると、この状況下での感情は『悲しい』になるわけだけど」


 彼には、その感情が何かを理解できないのだ。


 もとより、人間の脳を媒体として行う感情の基準は、プログラムの彼には難解だろう。


「彼女は、どうなる?」


「どうもならない。ボクが入った人間の意識は、今のところ不明だ。まあ、脳に直接人格をつっこんだんだから、普通に考えれば、死ぬまでこのまま、というのが有力だね」


「彼女が、死ぬまで?」

「そうだよ。といっても、彼女に対して、ボクが何かをすることはない」

「それは、何故?」


 復元身体は、こちらを見て、言う。


「ボクは彼女のことを、少しだけ好きになってしまった。そして彼女の感情から、あなたのことも。だからこれ以上、ボクはあなた達に危害を加えることを辞めようと思う」


「テロリストの癖して個人に感情を移入するのか」

「悪いかな。いや、別にいいんだ。ボクとしては、あなたが死んでいても生きていても。ただ宿主の気持ちを優先させただけだから。このまま。さっくりとトドメを刺してしまっても」


 言って、彼女は自分の衣服から刃物を取り出す。

 刃先が鋭くとがった、、果物ナイフのような凶器が、そこに握られていた。


「私を刺したのは、何の目的で?」

「尋問、カナ。まあ、言わなければ言わないでいいんだ。爪くらいは剥がすことになるかもしれないけど」


 その鋭い切っ先を爪と指の間に突き入れ、ごり、と爪を剥がされる場面を想像する。


 あまり考えたくない現実がそこにある。


「分かった、話そう。何が訊きたい」

「彼らの人的鎧(ヒューマノイド)について。何か弱点みたいなものがあるかどうか」


 彼ら、ということは、あの二人の少年が所持しているものについてだろう。


 ――と、いうことは。


「なんだ。bilocationは壊したのか」


 復元身体が所持していたアーマー。人的鎧(ヒューマノイド)としての基盤を持ちつつも、その機能を遠隔操作にした、無人人的鎧(ヒューマノイド)。復元身体のカスタマイズで、空洞になった内部にプラスチック爆弾を搭載し、それを球体上にして撃ち出していた、と思われるあの鎧。


「どちらに壊された? 成功作か? それとも失敗作?」


 この場において、そのことにしか興味が湧かなかった。自身の傷のことなど二の次だ。


 まずは、あの二つの内どちらかが打ち勝ったのか、それを知りたい。


 片方については勝利が確定しているので除外するとして、もう片方については、若しかすると評価を変える必要も出てくる。


「白い方だね」


 それに答えたのは、モモタビ・マイリだった。


「実際に僕も乗り合わせた。まあ、といってもあれは、復元身体の自爆だったけど」


「自爆?」


「鎧を大きく損壊し、自身の内部入れていたプラスチック爆弾を起動したんだ。結果、復元身体の所持していた人的鎧(ヒューマノイド)は爆散。跡形もなく砕け散ったよ」


「そうか」


 なるほど、しかし、その言い方であると、白い方――Starry skyが勝利した、ということになるか。まあ、どうせ失敗作同士の諍いではあるのだが。それでも、どこぞのトップランカー曰く、成功作と対等に渡り合ったという情報もある。


 失敗と決めたものが、それなりの成果を出す。

 これは、私の技術者としての観察眼を鍛え直す必要がでてきたか。


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