制作者の確認
「きみは――」
「ああ、話すのは初めてになるか。始めまして。ボクは、復元身体だ」
その口調は、彼女の物ではない。完全に他者のものだ。
そして私は、彼女とは十年近くの付き合いになるが、彼女のそんな姿は見たことがない。
「復元、身体?」
「そう。今、このキカク地域で騒動を起こしているやつだよ。といっても、ボクはそのたった一部にすぎないんだけどね。今は、あくまでこの彼女の体を借りているだけにすぎない」
「借りる、だと?」
「ノウスイ・ソウフさんに免じて、あなたには話しておくよ。ボク、復元身体の正体は、人間と機械に直接のインストールが可能な意思をもったプログラムでしかないんだ。だから誰の意識の中にでも入り込めるし、乗っ取れる。今までの実行犯が皆統一されていなかったのは、それがボクに意識を乗っ取られただけの人間だったからだ。そしてそれは、彼女も」
絶句する。
では、彼女は、ノウスイはどうなったというのか。
「ああ、でも安心していいよ。彼女のケースは少し特殊でね。本来なら本人の意識ごと復元身体として乗っ取るところを、彼女はボクという存在をまったく別の人格として捉えた。だから彼女の人格がボクに侵されることなく、あくまで彼女の同居人のような存在として、彼女の裏側の人格としてボクという存在が形成された。まあ、簡単に言えば彼女の裏人格、二重人格と言い換えてもいいだろう」
「性同一性障害?」
「それとは少し違う。単純な二面性の話だ。ボクは彼女の一部であり、彼女もまたボクの一部になった。まあ、元から一つだったものが、この際では二分されたにすぎない」
「なにか、それはややこしい話だな」
それ訊いて、彼は呆れたように溜息を吐いた。
「技術者がややこしいも何もあるかよ」
「言う通りだな」
「一応言っておくけど、今までの言葉は一つ残らず彼女のものだ。僕が演技をしていたわけじゃない。――ああ。何か変だと思っていたが、そうか。泣いてたのか、ボク」
自身の頬が濡れていることを確認して、彼女――復元身体は冷めた眼から涙を溢れさせる。
「不思議な気分だよ。昔、悲しいから泣くのではなく、泣くから悲しいのだと言った理論があったが、あれは確かかもしれないな。そうなると、この状況下での感情は『悲しい』になるわけだけど」
彼には、その感情が何かを理解できないのだ。
もとより、人間の脳を媒体として行う感情の基準は、プログラムの彼には難解だろう。
「彼女は、どうなる?」
「どうもならない。ボクが入った人間の意識は、今のところ不明だ。まあ、脳に直接人格をつっこんだんだから、普通に考えれば、死ぬまでこのまま、というのが有力だね」
「彼女が、死ぬまで?」
「そうだよ。といっても、彼女に対して、ボクが何かをすることはない」
「それは、何故?」
復元身体は、こちらを見て、言う。
「ボクは彼女のことを、少しだけ好きになってしまった。そして彼女の感情から、あなたのことも。だからこれ以上、ボクはあなた達に危害を加えることを辞めようと思う」
「テロリストの癖して個人に感情を移入するのか」
「悪いかな。いや、別にいいんだ。ボクとしては、あなたが死んでいても生きていても。ただ宿主の気持ちを優先させただけだから。このまま。さっくりとトドメを刺してしまっても」
言って、彼女は自分の衣服から刃物を取り出す。
刃先が鋭くとがった、、果物ナイフのような凶器が、そこに握られていた。
「私を刺したのは、何の目的で?」
「尋問、カナ。まあ、言わなければ言わないでいいんだ。爪くらいは剥がすことになるかもしれないけど」
その鋭い切っ先を爪と指の間に突き入れ、ごり、と爪を剥がされる場面を想像する。
あまり考えたくない現実がそこにある。
「分かった、話そう。何が訊きたい」
「彼らの人的鎧について。何か弱点みたいなものがあるかどうか」
彼ら、ということは、あの二人の少年が所持しているものについてだろう。
――と、いうことは。
「なんだ。bilocationは壊したのか」
復元身体が所持していたアーマー。人的鎧としての基盤を持ちつつも、その機能を遠隔操作にした、無人人的鎧。復元身体のカスタマイズで、空洞になった内部にプラスチック爆弾を搭載し、それを球体上にして撃ち出していた、と思われるあの鎧。
「どちらに壊された? 成功作か? それとも失敗作?」
この場において、そのことにしか興味が湧かなかった。自身の傷のことなど二の次だ。
まずは、あの二つの内どちらかが打ち勝ったのか、それを知りたい。
片方については勝利が確定しているので除外するとして、もう片方については、若しかすると評価を変える必要も出てくる。
「白い方だね」
それに答えたのは、モモタビ・マイリだった。
「実際に僕も乗り合わせた。まあ、といってもあれは、復元身体の自爆だったけど」
「自爆?」
「鎧を大きく損壊し、自身の内部入れていたプラスチック爆弾を起動したんだ。結果、復元身体の所持していた人的鎧は爆散。跡形もなく砕け散ったよ」
「そうか」
なるほど、しかし、その言い方であると、白い方――Starry skyが勝利した、ということになるか。まあ、どうせ失敗作同士の諍いではあるのだが。それでも、どこぞのトップランカー曰く、成功作と対等に渡り合ったという情報もある。
失敗と決めたものが、それなりの成果を出す。
これは、私の技術者としての観察眼を鍛え直す必要がでてきたか。




