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チャイルズ・ワールド  作者: サイタマメーカ
技術廃棄街――制圧視察
7/110

反撃は初々しく

「あーあ、最悪」


 まさか軽い気持ちでの行動が、こうなるとは――まあ、予想くらいはしていたが、この展開までは読んでいない。こんな、わけもわからないものに身を預けなければならないわけか。


 すぐ近くにアレがいることが分かる。こちらは手を止めず、思考とシュミレートを繰り返しながらそれを組み立てて行かなくてはならない。わずかコンマ一秒の油断が、最終的には完成を大幅に遅らせる。そのために、全神経を注ぎ込んでそれを組み立てなければならなかった。


 失敗の許されない組み立て。これほどに楽しくない設計はないだろう。

 下半身は完成。残りは上半身。


 作れば作るほど、これが本当に人的鎧(ヒューマノイド)なのかと疑いたくなる。


 そも、この人的鎧(ヒューマノイド)の装甲は、上から二層は装着者を護るものとして設計されていないのだ。何か別の、何らかの用途によって作られている。


 そして外装には、何かスラスターのようなものが、人型のあちこちに設置されていた。頭部はパノラマセンサーではなく、前方だけを見ることが出来るセンサーとなっている。


 上の音はすぐ近くにまで迫っている。まずは上の範囲をすべて捜索し、そうしてからこちらに来るはずだ。そのために必要な時間は、残り二分というところ。いや、人的鎧(ヒューマノイド)のセンサーを用いれば、そこまでの時間さえ、かからないかもしれない。


 上半身が完成。残りの頭部を付ける。


 装着し、やはりそれが人的鎧(ヒューマノイド)であることを確認した。構造が構造なだけに、やはり少し巨大だ。身長百七十㎝の人体から四重もの構造を取れば、まあ当たり前なのだが。


 電力はバッテリーが内蔵されていることは分かっている。しかし、それも少数だ。それ以前に、このアーマーが少量の電力で起動するのかどうかという問題もある。


 端末からコンピュータに接続し、起動する。


「あれ?」


 起動しない。


 そこで原因に気が付いた。そうだ。OSも脳機能もないのにどうやって起動するというのだ。


 仕方なく、脳機能には持っていた端末のOSを使った。単純に機能を借りるだけだったので、ひょっとするとエラー表示が出てそれっきり――ということも十分にあり得たのだが、それでなんとか起動した。


「――よし」


 オーケー、グッジョブ、ツイてるツイてる。


 人的鎧(ヒューマノイド)を装着する――といったものの、こんな物を扱うのは初めてだ。どう乗るのかなんて知らない。


「つーか、『乗る』のか? これ」


 鎧というからには『着る』の方が適切な気もする。いや、『装備する』か。

 携帯端末を操作し、コンピュータを操作するが、その中に「開閉」だとか「登場」だとかいうシステムはない。


 その瞬間。


 巨大な爆音が響き、空間の天井が、勢いをつけて崩れて来た。

 落ちる瓦礫。瓦解する黒い天井。暗い室内は一瞬で落ちる瓦礫と日光で満たされる。


 無論、そんな状況で目を開けていられるはずもなく、

 俺はただ自身の頭を庇い、その場で人的鎧(ヒューマノイド)を盾にしていることしかできなかった。


 巨大な地響きのような振動が治まってから、目を開く。

 そこには、今しがた空から降って来たと思われる、白い人型のアーマーがそこにあった。


 それは数十mからの落下をしてきたかのように、両手と両足を地面にめり込ませ、着地の体制をとっている。


 その、黒い頭部が、体制を立て直しながらこちらを向いた。


『見つけた』


 声はあくまでボイスチェンジャーを保ったまま、その体躯はまったくといって損傷を負っていない。

 日差しが視界にあるということは、おそらく、上の工場ごと吹き飛ばしたのだ。俺は工場の内部にはいないことを見越しての行動なのだろうが。


 対物グレネード――は所持していない。工場に撃ち込み、そして俺のいる地下へ落下した際に紛失したのだろう。まあ、あれだけ大きな銃火器をこのような場所で使用すれば、そうもなるか。あれは、人的鎧(ヒューマノイド)を持ってしてもその衝撃を受け切れないのだから。


 向こうの人的鎧(ヒューマノイド)は俺の前にあるものに気が付いたのか、数秒黙り込んでから口を開いた。


『大人しくしてもらおう』


 最初に言うことがそれかよ。


「しますします。大人ですカラ。それと、一つイイ?」


 そう言って、向こうが動かないことを確認する。

 どうやら、この人物は俺のことを無理矢理に抑え込むつもりはないらしい。


「なんでさあ、あなたは俺なんかを熱心に追ってくるワケ?」


 そもそも。


「俺なんかほっといて、別の方へ行けばよかったじゃない。第一、俺一人を投降させるのと、他の大勢のスラムの人間を投降させるのじゃ、ワケが違うはずじゃない? 俺を捉えることに、何か理由でも?」

『…………』


 ないな、これは、


 あっちはあっちで、個人のつまらない動機に支配されたとみるべきか。

 ともあれ、道は開けた。最大の問題は残しているが。


『荷物を置いて、それから離れろ』


 向こうからそんな声があがる。いいのかよ、そんなこと言っちゃって。

 言う通りに荷物を置き、一歩、人的鎧(ヒューマノイド)から遠ざかる。

 ただし、それは「一歩」の話だ。


 すぐに体を後ろに倒し、人的鎧(ヒューマノイド)に倒れ込む。腕は腕へ、足は足へ、頭は頭の位置へ、それぞれ体を移動させる。


 そうして、次に見た物は、俺を受け入れるようにして正面が開かれた人的鎧(ヒューマノイド)と、その動作を停止させようとした、目の前の人物の姿だった。


 体が人的鎧(ヒューマノイド)の中へ入る。そうして肉体をその中に捉えると一秒も経たずにその鎧を閉じた。


 全身を包む人的鎧(ヒューマノイド)において、着脱の方法の一つだ。元ある型に人体を押し込むように、アーマーそのものが片側を開き、そこに人体をはめ込むようにして着るタイプ。話でわずかに聞いたことがある程度のものだったが、これはそういったタイプのものだった。


 内部に人体を確認したことにより、鎧のシステムが起動する。

 と言っても、機能自体は携帯端末から引き出しているものにすぎないので、性能は期待できないが。それでも、逃走目的に扱うなら悪くはないだろう。


『おまえ――』


 光る画面に白い人体が見える。これが、現在俺が纏っている鎧の視界なのだろう。


 行うことは、当然逃走。


足元に落とした荷物を即座に掴み取り、全力でその場から跳躍する。

 跳躍――といってもそこまで大規模なものは望んでいない。精々が空間の壁を蹴り、外にでるだけでよかった。

 それが――。


『うえっ――』


 Gに揺られて声を挙げる。俺の意思に対して人的アーマーが行った動作は、十五mほどの、巨大な跳躍だった。

 壁を蹴るまでもなく、地上に到達する――のだが、問題はその後だ。着地の仕方が分からない。当然である。俺は、そんな訓練など受けてはいないのだから。


 そのまま、足から着地し、その衝撃を緩和するために片手を突いた。

 衝撃は四方へ、コンクリートの地面に亀裂が入る。

 本来であれば、人的鎧(ヒューマノイド)の着地では地面に衝撃など伝わらない。地面へ衝撃を伝えず、人体へも衝撃を与えずに、スマートに着地する。つまりこのアーマーには、そういった基本的な機能が備わっていないということか。


『しかも、結構疲れるぞ、これ』


 鎧そのものが重い。いや、本来この規模の物を体の筋力だけで動かそうとすれば相当な力がいるわけだから、これでも随分な軽減がされているわけなのだが、それでもこれはどうなのか。


 本当にこれは人的鎧(ヒューマノイド)なのか?

 そう考えている内に、下にいる人物がこちらへ昇って来た。その白い躰で、壁をほとんど垂直に走りながら、こちらへ狙いを定めて。


『ヤッベエ』


 すぐにその場から離れる。アーマーの扱いなど分からないから、走り方は生身の時と変わらない。これは、正直に言えばかなり不自然だ。一つの跳躍で重力に逆らいながら数十mを飛べるアーマーが、適度に地面に接触しながら『走る』などというのは。


 この走行ではすぐに追いつかれる。視界は未だに一つ。後ろからの状況は一切分からない。

 なので、ここで一つ勇気とやらを出してみることにした。


『よっ――と』


 粉々になった廃工場からの跳躍。狙いは目の前に見える、十階建ての廃ビルまで。


 結果的には、これが失敗になった。


『――なっ? え?』


 飛んだ瞬間に、視界が定まらなくなったからだ。

 そのまま俺の肉体はぐるぐると回転しているような、不快な浮遊感を数秒体感した後、どこかの地面か壁へ激突した。ようやく満足な視界を得られたのは、そこから数十秒が経過した後だった。


『――、――』


 何もない空間を見上げて、俺は定まって来た視界を頼りに上下感覚を取り戻し、自身の態勢を整える。その場所は目指したビルの数十m前にある、元は道路であった道の一角だった。


 理解したことは、次の通り。

瞬間的に跳躍した俺の肉体は確かにその肉体を飛ばしたが、飛ばした力とその飛ばされた先の力の関係が曖昧になり、結果的には大気に身体が晒されて度重なる空気抵抗から安定した飛び方ができなくなった、ということらしい。上下感覚を失ったのも、それが原因だろう。


 あ、気持ち悪い。


 そうか、上下感覚から神経が狂ったのか。

 目の前がふらふらとする。結局、人的鎧(ヒューマノイド)を身に纏ってもこんなものだ。


 ……向こうから、何かが高速で接近している。建物を隔てながら、大きな跳躍を繰り返し、時には地面を滑るように移動している何かが見える。

 言うまでもない。それは、あの人物だ。


 定まらない視界のまま、足を動かす。問題はない。神経がなくとも、方位さえ分かっていれば目的地にはつけるものだ。

 あの人的鎧(ヒューマノイド)に対抗するための速度は手に入れた。後は、俺が何をするかだが。


 建物の中に入る。高速でビルの中を駆け抜け、一つの部屋の中に身を隠した。


『――ふう』


 息を吐く。自身の有機的な白い指先を見る。それらは等しく硬い装甲に覆われたもので、自身の姿はまるで白い獣のようになっていることに、その一室の鏡をみて初めて気が付いた。


 人的鎧(ヒューマノイド)にもコンセプトはあるらしい。本来は必要のないものだろう。装飾と同じだ


 窓の向こうから、あの人物が建物を這ってこちらに来るのが見える。

 あれは「早いタイプ」には違いはないのだが、それでもこちらの性能よりは劣るらしい。


 ――いや、それは間違っているか。本来であれば、人体が投げ出されるほどの跳躍ができるなどというものは欠陥以外のなにものでもないのだ。機能面で劣っているというのなら、こちらの方だろう。あちらはあくまで品質的にその動作を行っているに過ぎない。


 呼吸を整える。思考がクリアになるまで待つ。


 神経の混乱は徐々に納まって来た。行うことは一つだ。以前もそうであったように、自身の性能が上がったことによって、鎧狩りを行うにすぎない。


『鎧狩り、ネエ』


 手にできるものは少ない。一体を捕獲したと思ったのっだが、それは瓦礫に埋もれて、残りは一つだ。報酬的にはシビアと言わざるをえないが、この際贅沢は言っていられないだろう。


『そんじゃま』


 行動を決める。この地点のフィールドは知っている。だからここに来た。


『実行、開始なのデス』



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