表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
チャイルズ・ワールド  作者: サイタマメーカ
復元身体を確認。警戒令を発令
66/110

天井での攻防

『チ――』


 目の前にいる、重装備がなくなってすっかりこぢんまりとした復元くんがこちらに向かってくるのが見える。


 そして、彼の手に収まっていたものは、赤い光を発する、細い棒のようなものだった。


『――げ』


 それは、どこからどう見ても、人的鎧(ヒューマノイド)を切断するために作成されたあの赤熱化した刀剣だった。正式名称不明。というか知らない。スラムにあれとよく似たものを振るヒトがいるので原理は知っている。人的鎧(ヒューマノイド)ほどの重装甲でも難なく溶解し破ることのできる出力兵器。刀身そのものが異常にまで熱されることで、そしてその熱に刀身そのものが耐えるために、本当に斬鉄どころではなく、何でも斬れる熱刀として機能しているもの。


 人体がもし斬りつけられれば、一瞬で傷口は塞がると同時にその熱でショック死、軽度でも神経と斬られた周囲が一瞬で焼かれ、恐らくは致命傷を追うことになる近接武器。


 その熱刀が握られた腕が振り上げられる。当然、その刃はこちらへ薙ぐように振り下ろされる。


 まずは袈裟。右から左の振り下ろし。起動が読めるので彼の足つきを見つつ後ろに下がる。


 振り下ろされた刀は今度は地面と水平に薙ぎ払われる。態勢を極限にまで低くした態勢での一振り。少しの跳躍で回避には成功する。


『――あ』


 やべ、と確信する。


 水平に振られた刀剣の次の起動が分かった。一度水平に流れた刀は、反対方向にもう一度流れることになる。しかし、俺の体は未だに空中である。わずか一mほどの跳躍だが、それでも地面に足が付く前に十二分に仕留められる。



『Starry sky frontfire field Ⅰ、Ⅱ is Save』



 両肩と胸が爆発する。瞬間、俺の肉体は急激な推進をもって背後に押し出される。


『――ご』


 がん、と背後にある何かに衝突し、俺の推進は止まった。一応は出力は抑えたはずだったが、それでも特定の範囲を移動するのは難しい。


 衝撃を受け、少しばかり揺れた視界に、あの熱刀の光を発見する。こちらの加速にも臆せず、そのまま斬りかかってくるか。


『ちょ、ちょちょちょ、タンマ』


 当然、そんな言葉は聞き入れられるはずもなく、その熱刀は振り下ろされる。


 まあ、避けるけども。


 こちらの回避を確認すると、彼はそこで動きを止める。


『対物グレネードがなくなったとしても、まだこの線を破壊する手段はあるよ』

『――ん?』

『こうやって』


 言って、彼は電車の屋根に熱刀を突き刺す。そのまま、彼はこちらの距離まで走ってくる。


 地面に突き刺し、屋根そのものを切断する。熱刀は一つの線を地面に描き、間合いに入った際には地面に突きいれられた状態から俺の元に振り上げられる。屋根の装甲から出現する高熱刃。間合いが分からないわけではないので十分に回避が可能な範囲だが。


『ああ、でもそういうことね』


 その動作が、俺への攻撃ではないことを確認する。


 電車の架線を破壊するための手段が、対物グレネードだけではないと言ったのは嘘ではない。


 彼は、電車と比較すれば以上に小さな、人がつかめるほどの刃渡りしかない。しかし、例え小さな刃であっても、それを距離を伴って使用すればどうなるのか。


 まあ、巨大なものを破壊する上では徒労だが、不可能ではない。


『なんとしてもこの電車を破壊することが目的カナ』

『ついでに、下にいる統括者、なんて連中も死んでくれるといいな』

『えっとさ、きみの目的ってなんだっけ?』

『現在のキカク、及び人間の意識の変革』

『ふーん。変革ネエ。ってことはデスヨ、今の体制に不満が?』

『不満も何も、今の体制は彼が作ったものだろう』

『ん? 彼って誰?』

『父だ』


 父。最悪の細菌事件の首謀者。ヒコボシ。復元身体のオリジナル。


『今の教育態勢、人間の方針を作ったのは彼なんだよ。彼は自分で事件を起こし、その先に待つ人間という漠然とした偶像そのものを変革しようとしたんだ。昔の、人権とか、人間としての道とか、そういうものを否定する手段として、破壊という手段を取ってね。でも彼はいつか気づいてしまった。変わった人間がその時間的要因を受けたとしても、次の世代がその変革を受け継ぐには至らないのだと。迫害や差別は世代交代によって消滅する。同時に、前の世代が経験した極限状態も、次の世代には届かないと考えたんだ。だからこそ、ボクが作られた』


 つまり、その時代にどれだけ最悪の出来事がおころうと、その次の世代になり、再び元の行動を取り戻せば、ヒトは容易にかつての恐怖を忘れる、ということか。


 まあそうなのだろう。


 大戦が起こったという事実のみを伝えるばかりで、映画や経験談を延々作り出さなければ、あっさりその出来事を忘れるのだから。そして、何も知らない世代がまた同じことをやり始める。それが、歴史というものの中で、全体的に人間を見回した時に出てくる結論の一つだ。


『彼は寿命という、人間に約束された時間があった。しかし彼は、時代による体制の修復が行われることを危惧し、近い未来にもう一度ことを起こそうと考えていた。だからこそ、彼の分身である存在が必要だったんだ。ボクは、その中の失敗作の一つだ』


『ふーん。で?』


『ボクの目的は一つ。今のキカクの体制そのものが彼の作り出した物であるなら、ボク自身が修正をしてやる』



 …………



 ――はい?



『えーっと、それってつまり、細菌事件が起こる前の体制を、きみが蘇らそうってこと? それが、きみの目的?』


『そう。ボクの目的は、父が作ったものを瓦解させることにある。時代を前に戻すことこそが、僕の目的だ』


『そりゃまあナントモ、ご苦労なことで』


 結論を先に持ってこられても仕方がないので、質問する。


『時間もないから簡潔に訊くけど、ナンデ?』

『不穏分子の排除』


 ぽつり、と彼の口からそのような言葉漏れる。同時に、彼はその熱刀を電車の天井に突きだした。


『統括者の存在。治安委員会。機械教育。そしてその結果が。現在だ』

『うん、よく分かんない。もっと分かり易く』

『人間は、愛情を失ってしまった』


 また、結論として、彼はそう口にする。もう少し分かり易く行ってほしいものだが。


『なくなるカネ? そんなカンタンに』

『無論なくならない。人間の中に生殖という機能があるかぎり、他者に対するコンプレックスと興味はなくならない。現在、彼が作った体制の中で失われたのは、人間の、人間による敬愛だ』

『ケイアイねえ』

『人間は個に固執しすぎた。強力過ぎる自我は他者の無関心を招き、敬愛そのものさえ取り払った。ボクはね、その状態が不自然であると思った。けど、この状況でもっとも不自然だったのは、誰も、その状況を不自然だとは思わなかったことだ。人間は、自らの意思で、同族を排斥したんだ』

『ふーん』


『他人に対する無関心さ。故の愛情欠落。それが今のキカク地域――いや、この国で行われている現状だ。ヒトに興味をなくした人間が跋扈し、自分達に害のなるものは平然と排斥する。これが生物であるものか。いや、人間であるはずがない。他者を見ない人間は類人猿と変わらない。他者の痛みに同調できない人間の蔓延した世界で、どうして生きていける』


 人間に対してどこまでもに無関心である社会は滅びて行くしかない。それを良しとする人間もまた滅ぶしかない。最適化を目指し、自らが行うところをコンピューターに代替わりさせ、自身のエネルギー効率を格段に落とした先にあったものは、等しく滅びであるのだと。


 つまるところ、それが、彼が行動を起こしたキッカケでありましたと。


 あー、うん。


『嘘だろ、そりゃ』


 考えなくても分かる。この人物の動機は、そんな大層なものではない。


『論理に全っ然力が入ってない。空気が抜けたみたいにしぼんでる。炭酸が抜けきった持論でしょ、ソレ』


 というより、論にすらなっていない。


『きみのホンネは別にあるんじゃないのン? でなきゃ、こんなことをやろうなんて、そもそも思わないんだから。ドウカナ』


『――さて』


 言って、彼は腕をこちらに向ける。その動作の意味するところは分かっている。


 撃ちだされる凶器。音速でこちらを通過した後、電車の屋根の上で起爆する。


 上がる煙幕が電車の速度によって吹き飛ばされると、目の前にには赤い刀が見えた。


『――っと』


 身を捻り、その刀身から身を離す。軌道は瞭然。振り上げから振り下ろしまでの速度はモニターがぎりぎり捕捉できるほどの速度。


 その瞬間。


『…………お』


 肉体が爆破された。


 ダメージはないが、その衝撃によって俺の肉体は屋根の隅に押し出される。


 今、あの人的アーマーの方から爆弾が射出された。故に動作なしの状態から攻撃を受けたことになる。


『――それ、全身から爆弾を出せるのネ』


 危険極まりない構造である。あちらアーマーには全身に小さな穴が合いていることは確認していたが、そのすべてから爆弾を射出可能であれば、死角がないといっても過言ではない。


 はあ、面倒だ。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ