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チャイルズ・ワールド  作者: サイタマメーカ
復元身体を確認。警戒令を発令
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捨てちゃおうね

 電車の上部に出ることは簡単だった。


 というより、人的鎧(ヒューマノイド)の跳躍力があればなおさら簡単なのである。大した労力もなしに職員用の通路に到着し、その重厚な扉を開ける。


『――うわっ』


 途端、外の異常な風圧に身を奪われる。現在、俺の全体重はアーマーを合わせ計百㎏相当。普通に考えれば風ごときで動く重量ではないはずだが、なにせここは不安定な屋根の部分に当たる位置である。少し態勢を崩しただけで電車の下に落下しかねない。


 屋根の上は広い。幅はサッカーのグラウンドくらいの広さがある。まあ、この広さからダイブする状況にはなりたくはないものだ。電車そのものの重量と速度。そしてそのすべてを支えている線路と架線では、天上までの揺れを軽減できないのだ。


 電車の架線を発見。――というか、発見するまでもない。それは、電車の内部から外に出た時点で、自身の真上に空として存在していたのだから。


『――でけえ』


 そう、視界全体に広がる、巨大な架線である。本当にこんなものを破壊しようというのか。


『てか、壊せんのかコレ。なーんか、徒労な面が出てきましたが』


 さて、ここまでが前振りである。


 その問いに答えるようにして現れた人物によって、その疑問は解決することになる。


 俺の目の前には、俺とまったく同一の外見をした人的鎧(ヒューマノイド)が、そこに立っていた。


 そして、その人物の腕には、その上半身と同じ大きさという、規格外にまで巨大な銃器が担がれていた。


 対物グレネード。主にビルなどの大型建設物に対して用いられる、人的鎧(ヒューマノイド)の装備の一つである。ここに来て、ようやくその人的鎧(ヒューマノイド)の代名詞とも呼べる装備に立ち会った。


『あー、はいはいナルホド。確かにそれなら壊せるかな。てか』


 視界の端を見る。


 そこには、既に火と煙の上がっている、凸凹に喰い散られたような装置が見えた。


『あー、もうちょっと壊されたカンジか』


『そうだよ。アマカワさん、あなたが下で油を売っている内にね』


『まー、油でも売っとけばよかったけどネ。お金にはなるワケだし』


 その、腕そのものに装着されたようになっている、巨大な銃器を目視する。


『あのさぁ復元くん。やっぱりきみ、ブレインいるでしょ』

『それはそうだろう。あなたも知っている人物だ』

『いや、ドクのことじゃなくて。それとはまた別の人物だよ。少なくともドクよりも約に立つ人物がいると考えるが』


 そうでもなければ、この状況でそんな大がかりなもの、持ってこられるワケがない。いくらなんでも準備が良過ぎる。それに、彼がそんなものを手にする経緯も、その方法も分からない。普通に考えるならば、すでにこの電車に積んでいたことになる。そこまでの準備を整えることができるとは、あまり考えたくはないが。


『で、きみを手引きしたヤローがいるんじゃないかって。まあ、薄々分かってはいるんだけど』


『そんなことより、きみはボクのことを必死で止めなくていいのかい? コレ、壊されたら本当に大勢が死ぬんだぜ?』


 言って、彼はその大口径の先を電車と天井を繋いでいる部位に向ける。


『ん? ああ、そうだったね。まあ、シンドイけど仕方ないよね』


 その発言に、復元くんは首を傾げる。


『不思議なヒトだ。あなたは、大勢の人民が人質にとられているのに動じないのか』


『単純。人質なんて知ったことデスか。自分の危機じゃないんでね。微妙に警戒のスイッチが入らないだけだヨ。それに、大勢の人間が今ここでお亡くなりになったところで、大したことじゃないんじゃない? 人口にはまだまだ余裕あるヨ?』


 そこで、復元身体を取り囲んでいた空気が変わる。


 何かに敵愾心の加わったものだ。なめらかだったものの中にトゲが混じったかのような。


『あなたによく似たヒトを知っているよ』


『そりゃ会いたくないな。できれば紹介しないでほしい』


『ボクの父親だ』


 父親――というと、彼の話を鵜呑みにするのなら定義がかなり広くなってしまうのだが。


『それって、きみのオリジナルとかいうヒトのこと?』


『ボク自身は彼と直接的に面識を持ったことはない。話したこともない。けど、彼もきみと同じような考えを持っていたよ。人間は個人ではなく集団でしかない。集団の一部がどれだけ変質しようと失われようと、すぐに修復が可能なのだから大したことではないとね』


『だからヒトの迷惑も気にせずコンピューターウィルスなんてバラ撒けるはずだネ。その考えじゃ。でも勘違いしないで欲しいんだけど、そのヒトは自分が実行した後の結果だからね。彼は攻撃、俺は見捨てた。結構違うと思うケド』


『その言い訳の仕方も、彼に似ているんだよね』


 嫌だなぁ。このヒト、何が言いたいんだろう。


『まあ、要するに気に障るというヤツだね。悪いけど、ほとんど八つ当たりであなたをこの電車の下に投げ入れたいと思うくらいに。まったく、難儀だねぇ』


 いや、言ってること滅茶苦茶だぞこのヒト。


『ひどいなぁ。完全なとばっちりじゃないデスカ』


『難儀だねぇ。そもそもボクのやっていることは、そういうことはワケでね』


 言って、彼はわざわざ対物グレネードの銃口をこちらに向ける。さすがにアーマーなら爆風とその衝撃にも生身はほとんどダメージを受けることなく耐えられるが、吹き飛ばされるのはどうしようもない。直撃すれば、そのまま電車の下へはじき出される。


『あー、チナミニ、この電車の下に落っこちたらどうなると思う?』


『いくら人的鎧(ヒューマノイド)でもどうにもならない。中身をくちゃくちゃにされるだけだね』


 やっぱりそうなりマスカ。


『仕方ない。少し頑張ろう。ところで、復元身体くん』


 そこで、こちらに物騒なものを向けている、俺と同一の外見を持つ人物に質問する。


『えっと? きみはどういうヒトなんだっけ? 数十年前に細菌事件を起こした人物のクローンで、まあ、いわばそのヒトの代理みたいなものを受け継ぐって、そういうヒトだっけ?』


『それが?』


 肯定。彼の正体は大方把握した。つまりは、そういうことか。


 最悪の細菌事件。その首謀者たる男の行動を次の世代にまで持ち越せるように、男の行動を引き継ぐ役割を持たされた存在。男がすでに人間的に時間的な問題が浮上したために、その問題を解決するために作られた存在。その中の一つ。


 ……あー、確かそんなんいたなぁ。


『これも質問なんだけど、もしかしてきみクローンとして正確に使用されなかったでしょ。ちというか、クローンとしては明らかに別物だったから、正確なクローンとしては認められなかったって感じだったかな』


『……いや、待て』


 そこまでは話していない、と彼は言う。


 それはそうだろう。こっちだってそんな話、聞いていない。


 ただ、俺が知っていただけのことだ。そして今まで忘れていた。なんで? どうでもいい記憶だったからだ。あっさり一部始終を忘れるくらいに。


『きみは、数ある彼の実験の一つだった。彼という一つの人格を残す為に、時間を超越して存在し続ける人物でなければならなかったからだ。でも肝心のクローンであるはずのきみは、彼とは大きく逸脱していた。まあ、実際廃棄というヤツだね。使えないし。――でも、どういうわけかここにいるワケだ。おかしいな。役割を損なったはずのきみが、どうして今活動しているのかな?』


『おまえ――』


 それ以上の与太話をするつもりはない。

 

 こちらは一蹴りで相手の懐にまで接近する。完全に不意をついた形になる状態で、その巨大な鉄塊に触れる。


『…………!』


 こちらが既に間合いに入っていることに気付き、その動作に移ろうとする復元くん。


 まあ、行ってしまえばグレネードを撃つだけの作業でしかないのだが。


 ま、撃つでしょうね。撃つしかないよね。どの範囲で爆発しても彼の勝利である。


 爆発の位置では、中心に向けて撃ったとしてもその爆風は俺の肉体を吹き飛ばすには十分だ。


 俺の体が電車の車輪やら電磁の床やらに巻き込まれた時点で、勝敗は決する。


 なので、その巨大な銃器を取り上げることにした。 


 完全に相手の不意を突き、相手の所持している武装そのものを剥奪する。


 予想以上に重量のある装備だったが、両手で持ち上げ、人的鎧(ヒューマノイド)の人工筋肉の出力を最大にし、その巨大な鉄塊を電車の外に投げ捨てる。


 結果的には、その巨大な銃器は巨大な電車の線路の上へと落ちていくこととなった。


 願わくは、落ちた瞬間に衝撃で起爆し、グレネード弾が暴発しませんように。


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