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チャイルズ・ワールド  作者: サイタマメーカ
復元身体を確認。警戒令を発令
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これだからオートメーションは云々

 目の前に展開されている光景は、そしてその口にしている名前は、まさに百花絢爛だった。


 次々にキカク地域に存在する様々な機関の重役の名前が発され、その人物達に指示を出していく。通話口の向こうの彼らも、最初は混乱を示しながらも、彼女の言に従った。自分達の二割程度も生きていない、ただの少女の言葉にである。



「鉄道会社はこちらの動きを補足してください。キカク地域の交通は一端封鎖。人民のためです、仕方ありません。何としてでも説得をお願いします。死人が出てからでは遅い。交通省の方は現在の状況を報道、逐一発信することで、危険を伝えてください。電車をいったん止め、鉄道会社から受けとったルートを警戒し、そこに近づけさせないように。治安委員会の方も出動をお願いします。ここに統括者は二人います。その権限――ということでどうでしょう。足りなければ、今すぐにもう一人に問い合わせます。あと一分以内に考えてください。――報道陣の方々はこの危機を緊急報道で伝えてください。駅のような交通手段を使わないように、治安委員会には鉄道会社と協力してもらい、すべての駅を、今から二十分以内に封鎖しますので、現場んは近づかないように。防衛大臣ですか? はい、主犯は復元身体という人物です。今こちらの車両に同乗しており、確認できた限りでは二名。――はい。無事に電車のストップが完了したときは、車両捜索と人民の安全を優先してください。待機場所は――」



 まさに、聖徳ナントカである。


 あらゆる機関に通信を繋げさせ、その主権を握る人物に交渉する。それもやく五人ほど同時に。おまけのその話かたは今まできいたこともないほどサービストークである。


 各人の主張、状況、手段をすべて自身の中で並列化し、数々の人物との橋渡しをすることで、状況の解決を図っている。彼女を媒介とした通信は停滞するどころか加速している。状況が彼女の思い通りに傾きつつある。


 そんな彼女の姿を後ろから薄ら笑いで見つめているものが一人。


『楽しそうだネ』


「んー? んふふふ」


 呼びかけると、実に面白いという顔で、彼はこちらに顔を向けた。


『彼女がこんな能力を持ってたとは知らなかった。これもきみが用意した者として、当然の能力であったりする?』


「言ったでしょ? 偽者には偽者なりの役割がある。まあ、彼女が偽者であろうとなかろうと、この状況ではどちらでもいいんだ。皆、自分が助かればいいんだから」


 まあそうだろう。目の前の人物の真偽性など今はどうでもいい。問題は、自分が今生きられるかどうかであるはずなのだから。


『それでも、一度死亡したとい思われていた彼女の偽者だからって、よく通信先のお偉いさんが納得したものだよネ。普通なら弾かれそうダケド』


「そこはほら、彼女の努力の賜物なんじゃないの?」


 それは、オリガ・カナエになるための努力か? それとも彼女の話術の話か?


 どちらにしても、ロクなものじゃないけどね。


「でもほら、解決しそうだよ」


 マイリが通信装置の中心に立っている彼女を指さして言う。


『え? すんの? そもそも、この電車って乗っ取られてるんじゃ?』


「キカクの電車は一人でに動くことはできないよ。あくまで、レールの上を走るというよりも、レールに走らされてるといった方が近いんだ。電車が行っているのは、ただそのレールの上をどれだけの速度を出して走るか、といったことでしかない」


 よくは分からないが、つまりは昔のようなレールの上を車輪で走っていたころとは違うようである。


「レールも電車も、その相互関係と、電力がなければ走ることが出来ない。まあ、それだけじゃないけど、おおまかに行ってしまえばそれだけだ。エンジンは命令を受けていても、その動力から末端に信号を伝えられないのでは停止する。彼らは、それを今起こそうとしているみたいだね」


 人為的な信号の遮断。電車でいうなら、それは動力である電気そのものを絶たれることだ。


『ん? テコトハ、もしかしてホントに停電?』


「そう、文字通りに。彼らは駅の電力は一時的ゼロにすることで、電車を止めようとしているみたいだ」


『無茶苦茶なこと考えるなぁ。それって止まるの?』


「位置に寄るかな。何百mも直線の道があれば、速度の減衰によって止まることは可能だ」


『つまるところ、今までに漕いでいた自転車を、なんの操作もせずに車輪が動きを止めるまで進ませて止めるってことね』


「そういうこと」


 またタイヘンな作業デスネ、ソレ。


『て、ことは、後は彼女に任せてればいいっていう状況なのカナ?』


「フタリはね。僕はちょろっと作業をしなくちゃならないかな。色んな人に話をつけなきゃならないからね」


 面倒臭い、とぼやく統括者。ヒトの上に立つ人物としては色々問題のある発言だが、それでも現状の楽しさのほうが上回っているようで、彼は嬉々として彼女の敏腕ぶりを視野に入れていた。


 まあ、何もしなくていいのなら、それに越したことはないのですが。


「といっても、余念を許さない状況って感じかだけどね」


 言って、マイリは背中を預けていた壁から身を離す。


「つまるところ、内部での操作が不可能なら、外部から電車を止めようとしているだけに過ぎないんだから。車とか自転車みたいに、すべての運転が操舵に任されているわけじゃないからね。電車は敷かれたレールの上しか走れない。曲がり道も迂回も直進も、すべてはすでに決定されている。電車自体に『走る』という能力が備わっていないなら、それを止めるしかないんだから」


『オリガ・カナエみたいに?』


 これは、稚拙な鎌かけようなものだった。案の定、マイリはこちらに向いた後、にっと笑う。


「僕みたいに、だよ」


 言って彼は彼女の方向に歩いて行く。

 まあ、色々あったが、とりあえずはこれで一件落着――




 ズガン。




 ――と、音がした。否。音というよりは振動そのものである。


 そして、突如制御室内に鳴り響くマニュアル通りすぎる警戒音。ぴーぴーと断続的に鳴り続ける。


「――損傷?」


 従業員の一人から声がする。それは疑問を含みながらも確信をもって発されたかのような声だった。まるで、どの部分で問題が起きたのか、明確に確認したような声。


「機体の一部が?」


 彼女が周りに訊く。何か手慣れた様子の質問である。


「いえ、損傷ですが、厳密には違います。あれはブレーキです」

「ブレーキ?」

「たぶん、今の瞬間にブレーキが作動して――、しまった」


 従業員の一人が顔を青くして、モニタに移された線路の地図を見る。


「なんてこと――」


 何か盛り上がっているが、事情の分からないこちらとしてゃイマイチ乗れないところである。


『ん? どったノ?』


 こちらの呼びかけには無視――というか、聞こえていないようだ。


「どうしました?」


 人の中心にいた彼女の呼びかけで、その人物は彼女に向いてぽつりぽつりと話し始めた。


 なんというか、人が違うだけで無意識下の対応がここまで違うのもどうかと思う。


「今、ブレーキが作動して、この電車を減速し始めています。そして、この先二十㎞に大きなカーブがあるんです。つまり」


『ああ、ぶっ倒れるってことネ。遠心で』


 またも、こちらに反応する人間はなし。きっついなぁ、オイ。


「止める方法は?」

「まだ今の時点では起きません。でも、このままブレーキが少しづつかかって、カーブの地点で強く停止が行われれば、車体がバランスを崩して横転します。その場合、質量的には大参事を免れません」


 で、その停止をかけている人物を特定、速度を出し続ける必要がある、と。


「しかし、倒れるにはそれだけでは足りません」

「足りない?」

「この電車には、走るための要素として、電車の下にあるレールと電車の上の部分にある吊り下げの部分の二つによって走行しています。線路上の遠心によって機体そのものの重心が不安定であっても、態勢を維持できるように」


 まあ、言っていることはまったく分からないが、つまりは昔の電車でいう、架線のようなものと考えていいのだろうか。電車に電気供給を行う線だったものだ。というか、構造的にはモノレールに近いか。


「ですから、実質的には、ここでブレーキをかけても、横転はしないはずですが」


『いや、するでしょ』


 いい加減、無視され続けるのはよくはないと思い、声を出す。


『そんなの、その部分を破壊すればいいだけのことデショ。破壊の仕方とタイミングによっては、電車全体のバランスを崩すことも可能なんじゃいノ?』

「…………」


 痛い場所を突かれたように、他の従業員はこちらを睨みつける。

まあ、仕返しは成功ということで。


「じゃあ、あなた」


 人の中心にいた彼女の声がする。その「あなた」は俺のことを指しているのか。


『はい、なんでショウ』


「少し上に行って、その人物の行為を止めてきてもらえませんか?」


 ……あー、やっぱそうなるワケか。


『丁寧語になったと思ったら頼まれることがソレですか。でも分かってる? おねーさん。復元身体くんは単独犯じゃなく、複数犯だった。もしこの電車に複数の復元くんがいた場合、現状は解決しませんヨ?』


「まずは、今生きている人たちの命が最優先です。それに、その上部がは破壊されなければ、横転は起きない、ですね?」


 彼女は横にいる職員に確認を取る。その、男なんだか女なんだか分からないほど童顔な職員はその質問には何度も首を振って頷いた。


『そう言われても、成功するとは限りませんヨ?』


「誰もあなたを恨みません」


『そういうこっちゃないノ。仕事でもないのにわざわざ自分の身を危険に晒すようなことをする奴がいると思うの? ってハナシだよ。おねーさん』


 意地の悪い言い方だが、こちらも言う通りにしてお亡くなりにはなりたくない。どれだけの正論を叩きつけられても納得はできない問題なのである。


 まあ、一概に電車横転したとしても、俺だけは生き残れるかもしれない、という可能性があるからかもしれないのだが。


 がたん、と音がした。見れば、彼女が椅子から転がり落ちたところだった。


『…………』


 少し驚いた。それは自然に落ちたのではない。彼女自らが椅子から身を乗り出し、その場に落ちたのである。下半身不随という状況で彼女がなぜそのような行動を取ったのか。


 長い髪を地面に降ろし、彼女は俺の位置を確かめると、そのまま地面に顔を下げた。


 まあ、姿勢はできていないが、それはどこからどう見ても完全な土下座である。


「お願いします。あなただけが頼りなんです。乗客と彼らの為に。……彼らの明日の為に」


 明日、ねえ。


『重い重い。そんなのイラナイ。もっとかるーくいきましょうヨ。俺はそんなものを負担するつもりは全然ありませんよ』


「それでも」


 ……へえ。


『それ、自己犠牲のつもり?』


「…………」


『オリガ・カナエさん』 


 彼女がこちらを向く。それは、今までみた彼女の顔の、どれとも異なっていた。


 誰だ? この気弱そうな子供は。


『この一件が終わったら話してもらうよ。きみが何なのか。いい加減、俺にもそれを聞く権利くらいはあるはずだからね』


 立ち上がる。彼女の元に行き、その手を取り体を引き上げる。


『条件としてはどうかな? この電車にいる人民すべての命と、きみの素性の交換条件。破格と自負してはいるんだが』


 彼女はこちらの顔をじっと睨んだ後、静かに口を動かした。


「プラス、拳一つだ。アーマーなしでな」


『それでいい』


 彼女の手を離す。その瞬間、彼女の体はどさりと地面に落ちた。倒れた彼女の周りに職員の方々が集まる。餌を巻いた時の鳥みたいに。


『分かりましたぁ。んじゃ、とりあえず行ってきます。あ、あと復元身体っていう人物は分かっている内ではあと一人存在するので、その人の捜索もお願いできマス? 彼には少し個人的にお話しがあるもので』


「いいよ、分かった」


 それに答えたのは、にやにやと遠巻きに眺めていた、モモタビ・マイリだった。


 いや、きみが言っちゃ駄目でしょきみが。


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