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チャイルズ・ワールド  作者: サイタマメーカ
復元身体を確認。警戒令を発令
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彼女の名前は――

 車両を難題か隔てて行くと、比較的すぐに俺達は問題に衝突した。


『あれ、開かない』


 そこは電車の先頭部分になる部位。そこまで移動したところまでは、大した邪魔も入らずに進めたのだが、そこだけは力技だけで解決することは不可能だった。


 扉のロックの仕方が異なるのである。今までのものが留め金のようなものによる閉じ方だったにも関わらず、ここだけが強力な磁力によって閉じられているという、形の物理的にもかなり特殊な閉め方となっていた。


 当然、人的アーマーでの力のみでは開けることができない。


 というより、今までがすべて力技で通ってこれた方が異常なのである。

『この先にマイリがいることは間違いないノ?』


 単なる質問からそのように聞いては見るが、


「知るかよ私が」


 そんな返答が返って来た。


 まあ、あのモモタビ・マイリさんのことである。彼女には一言だけ口にして、そして今まで戻ってこない、という可能性の方が高いか。


『でもネエ、この先に行かなきゃならないんだけど、まいったなぁ』


 下手をすれば乗客ともどもお陀仏である。それはなんというか、人間として、というか生物としてぜひとも回避しておきたい未来ではある。


『よし』


 言って、後ろに下がり、背に乗せていた彼女の体を地面に降ろす。


『ちょっち待っといて。一回試しいてみるから』


「おい、何する気だ」


『その扉に突撃してみる。もしかしたら衝撃で開くかもれない』


 彼女の顔が呆れたものに変わる。論理的でもなければ冷静でもない方法。しかも乱暴である。そんな方法で、そもそも目の前の電子によって閉ざされた扉が開くはずがない。


 いやまあ、そんなことは俺とて分かってはいるわけですが。



『Starry sky backfire field Ⅲ、Ⅳ』


 

 距離は二十m弱。初めから拳を突きだしての突進である。


 瞬間的に、とてつもない衝撃音が辺りに巻き起こる。


 衝突によって、その扉は若干ではあるが、その表面をへこませただけだった。


『だめか』


 言うと同時に、目の前の扉がスライドした。


『――えっ嘘』


「はい、本当」


 そこに立っていたのは、長い髪に少年の体躯をもった、モモタビ・マイリだった。


「フタリ、ノックはもっと小さくていいよ。まあ、でもしなければ聞こえなかったかもしれないけど。状況が状況だし」


 彼がいた中は何か騒がしい喧騒で包まれていた。


 見れば、中にはこの電車に勤務してであろう職員全員が集結し、各々に行動を取っていた。


『んーと? ドユコト?』


「彼らはここに閉じ込められていた職員だよ。で、現在の緊急事態を本部に連絡して手を打ってもらって、本人達もこの状況をどう乗り切るかってことで奮闘中。入りなよお二人さん。まずは、状況をしてもらう必要がある」


 言われて、俺と彼女はその操作室のような場所に連れ込まれた。中は照明の電力が別に動いているのか、その照明を赤くして警戒信号を現している。


『で、説明? とかは?』

「まず、僕のハッキングは失敗した」

『ハア。そんなことしようとしてたんだ、きみ』


 まあ、本体がデータ上の存在であるのなら、そのプログラム自体がコンピューターウィルスであると言えなくもない。


『ハッキング、とはいうけど、それって一度乗っ取られたプログラムを奪取しなおすってことデショ? それが失敗したの』

「復元身体くん。彼、すっごいハッカーだよ」

『はあ。スッゴイハッカーすか』

「フタリ、キカクの電車っていうもののシステムはね、全体を管理していないんだ。個々の車両が個々の車両で独立しえている。あくまで、内部のロックだとか、照明のシステムもね。今、電車でおこっている停電はこの電車全体に起こっているものだ。つまり――」


 復元身体は、この電車そのものをハッキングした、ということになる。


「彼は自分で支配したプログラムに、こちらから侵入できないようにプロテクトをかけている。で、僕が入った時にはそのロックが既に電車全体に行き届いていたわけ」


『ふーん。ハッキングの勝負では敗退?』


「時間の問題だね。時間をかければ可能だけど、でもこの電車のコントロールを奪い返すころには、僕ら全員死んでるんじゃないかな。電車の衝突と、ハッキングの時間を計算していないとは思えない。」


『なにか胡散臭くなってきましたが。――で、今はここの職員みんなで解決策を模索してるってことでいいの?』


「そうだね。まあ、そういうことになるかな」


 何か含みのある言い方である。まあ、そこはつっこまないことにしよう。


 操縦室の中には確かに多すぎるくらいの人員が詰め込まれていた。彼らはみな一様に電車に内蔵された通信システムを使い、どこかと津心を取り合っている。


『マイリ、彼らはどこに連絡取ってんノ?』


「鉄道会社とか、交通に関する施設とか、一時的に電車の通路を強制的変更できないか、とか、そんな色々面倒なところに一気に話を通している途中だね。ま、伝えるべき人間が多すぎると、各方面からの指示が集中しちゃって、動かなければならない人の行動を止めちゃうこともあるんだけど」


 彼らは自分達のテリトリーに人的鎧(ヒューマノイド)という異物が入り込んだにも関わらず、そのことには目もくれずに通信を取り合っている。


『マイリの権限でどうにかならないワケ?』


「やれることはやった。けど、もうそんな簡単なことでもなくなくなっているね。せきにんの所存はどこだ。どこに仕事を任せるか。誰がこの事態を収束させるか。そもそも過失はなんだったのか。挙句にキカクの電車にケチをつけるような人まで現れ始めてもう大変。このままだと僕達、本当にこの電車のなかで死んじゃうかもね」


 びくり、と震える。誰が? 俺の背にいる人がである。


 彼女は現状の有様を信じられないような目でしばらく見つめた後、マイリのことを睨みつけた。


「モモタビ」

「なにかな?」

「これが、あなたの目的ですか?」

「目的? 何のことを言っているのかな? 僕だってピンチだよ?」

「この状況にして、私を担ぎ出すために、あなたは――」

「それにしたって僕に危険がないように行うんじゃないかな?」

「今日、あなたとあってから、一度でもあなたが自分の身を隠そうとしましたか?」


 なんらかの口論がこちらでも始まった。嫌だなあホントに。そういうのは安全な場所で、できれば俺とは何の関わりもないところでやってほしい。


 しばらくマイリを睨みつけると、彼女はこちらの頭を小突いてきた。


「――おい、ちょっとあそこ行け」


 あそこ、と彼女が指さした場所は、こともあろうに今大人数がモニタやら通話機やらと格闘をしている暗黒地帯である。このお嬢さん、何を考えているのだろうか。


「早く」


 彼女の声に怒気がこもる。――いや、これは怒気ではなく、焦燥に近いか。


『ワカリマシタ。行きゃいいんですネ?』


 どうなっても知らないけど。


 彼女を負ぶってその場所にまで移動する。必然的に俺の姿は何人かの職員に目撃されることになるわけで。


「――え? ひ」


 その反応がどういうものか、想像に難くない。



「ひゃああああああああああああああああああ!」



 そも、このヒト達は復元身体にこの場所に連れてこられ、そして幽閉されていたということだった。ならそれは何が実行したのか。そんなもの人的鎧(ヒューマノイド)を纏った復元くんに決まっている。そしてその復元くんとまったく同じ外見であるのが、このワタクシメである。


『あ、皆さん、おち』




「お気を沈めて」




 一瞬、その声がどこから出たのか認識できなかった。


 凛と張ったその声。複数の悲鳴の中でも目立つ声色である。細く、しかし美しい音でその場に拡散した。


 まあ、発生源がどこか、なんてことは、疑問に思うまでもないんだけど。


「まずは、冷静になることが先です。この中には何百という乗客が乗っています。その方たちに未来を与えられるのは、皆さんだけです。どうか、お願いします」


 俺の上で頭を下げる人物は、その場において自身の名乗りを上げる。





「私は、キカク地域統括者第五任、オリガ・カナエです」





 既に死亡報道がなされた人物の名前を口にした。


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