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チャイルズ・ワールド  作者: サイタマメーカ
復元身体を確認。警戒令を発令
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静まればお咎めなし


『Starry sky backfire field Ⅲ、Ⅳ』



 直進。


 加速は彼の真正面へ。さすがにその起動は読まれるだろう。こちらの体を躱し向こうも推進を行ったのか、その肉体が炎に包まれる。


 位置的には、こちらを追う形になる。隙があれば追撃か彼女への牽制からこちらへの攻撃に移る方針なのか。まあ、それが自身に反撃を喰らわない方法だろう。常に相手の裏を取れることになるのだから。


 

『Starry sky lightfire field Ⅲ、Ⅳ、Ⅴ』



 方向を変える。加速は向こうの眼には映らない筈だ。あちらとてこちらの加速に追いつけるわけではない。あくまで疑似的な加速が可能、というだけに過ぎないのだ。速度ではこちらが上である。


 身を回転させる。加速しつつ足を壁に突出し、体重を壁に集中。


 加速と比べる速度は格段に落ちるが、その場から跳躍する。


 彼の頭を狙い、その腕を振り下ろす。


 その瞬間、彼の白い腕が動く。腕の位置は彼女の方。敵を目前にしながら、その目線は向こうにいる彼女に向けられている。


『やって!』


 こちらの呼びかけで、彼女は手にしたもののスイッチを押し、足元に転がす。

同時に白い腕から黒い小さなものが放出され、片方からは、彼女を中心として煙幕が形成された。


『…………?』


 復元くんが不可思議さから首を傾げる。

 彼の顔を鷲掴みにする、片手で、彼の全体重を持ち上げ、



『Starry sky backfire field Ⅲ、Ⅳ』



 鎧の加速を使い、彼の顔面を地面に叩き付けた。


 ばごり、という轟音とともに、周囲に埃が上がる。


 そのまま、放心したように地面にめり込まれている白い鎧。


『あ、何を――?』


 分からないというように、地面に倒れたまま固まっている彼。


『簡単ダヨ。人体の限界だ』


 いくら堅牢な人的鎧(ヒューマノイド)であるとはいえ、その中の肉体までを完全に守ることはできない。


 行ったのは、内部の人間の酔いを誘発させることだった。


 どれだけの外装に囲まれていようと、内部の人間が人的鎧(ヒューマノイド)の加速についていけるわけはない。高速による人間に自立神経が麻痺し、過度な加速を繰り替えすことによって、平衡感覚を消失する。


 ならば、さきほどまで加速していた位置とまったく違う位置に、高速で叩き付けられればどうなるのか。


 普通であれば、「潰れて死ぬ」で説明が付く。そもそもそれほど加速がなされた落下に人体は耐えられなかった。しかし人的鎧(ヒューマノイド)であればそうではない。即死レベルの衝撃を受けても無事でいられる状況下であれば、それは成り立つ。


『でも、きみは彼女を』

『見殺しにした?』


 確かに、彼が彼女に対して爆弾を放った時、俺はそれを無視した。


『じゃあ、見てみればいいんじゃない? ほら、アスコですよ』


 指を指す。そこは、彼女が煙幕を張った場所であり、復元くんが爆弾を撃ちだした場所でもあった。煙幕は既に霧散してきていて、その向こうを見ることが出来る。


 そこに彼女はいた。


『なっ――』


『いや、なっ、じゃないでしょ。まあつまりこういうことだよ復元くん』


 まず、復元身体の身から放出されているC4爆弾は、そのものが本体から別離している。


 爆弾というものは、始めのころは火を点け、その点火から火が通る速度を調節するためにロープのようなもので起爆時間を調節していた。それが時代が進みに従い、コード付きの爆弾が誕生した。そして次に、無線で起爆を行うシステムが作られた。


 彼の人的鎧(ヒューマノイド)の起爆方法はこれである。放出した爆弾にいちいち自身で起爆地点を設定し自分で信管を押している。その際に簡易的な通信が行われていることになる。いわば、モニターのオンオフと同じようなものだ。


 彼女に持たせたものは、煙幕と共に電波を遮断する金属片をまき散らす手榴弾だった。アタッシュケースの中に残っていたものだ。


 故に、彼女に放出された爆弾は起動せず、そのまま彼女の方に転がった、とまあそういう理屈である。


『彼女には飛んできた爆弾を素早く見つけて、できたら投げ返す。無理ならその場からできる限りの方法で移動するように伝えた。その証拠に、ほら』


 俺の手に収まっているそれを、彼に見せつける。


 それは、二㎝ほどの小さな黒い物体だった。それが何なのかは、言うまでもないだろう。


『このちっこい球体の中には、極省の信管の役割を果たす電子版――言っちまえばチップが埋め込まれている。簡単に言えば、その起爆装置を一時的に麻痺させたんだ。なので、彼女無事。俺も役割を終えたのでバンバンザイ』


 言って、丸められた爆弾を投げ捨てる。

 彼は車両の床に半分埋まりながら、その様子を目視していた。


『決着ですね? そんじゃまあ、きみの主機能を破壊させてもらうよ』


『…………』


 その発言に反応したのは、彼だけではなかった。俺の後ろにいた彼女もまた、それにはよくはない顔をする。


『ダーイジョウブ。殺しはしないよ。だたちょろっと大人しくなってもらうだけだ。ああ、ついでに、きみの正体もぶっちゃけてくれるとありがたい。復元身体くん。きみ、一体どういったヒトなのかな』


 瞬間、その場に爆炎が巻き起こる。


 発生は復元くんの背中から。密接している自身の背中そのものを爆破することで、彼は埋め込まれた自分の身体を無理矢理に起こしたのだ。


 こちらの額とこちらの額が衝突する。人的アーマー人的鎧(ヒューマノイド)同士の衝突は、その場において両者の態勢を崩すには十分な威力であり、お互いに重心をぐらつかせる。


『っ――』


 彼は跳躍する。それは安定しない態勢での跳躍になったため、不可思議な方向へ飛ぶことになった。しかし電車の天井に張り付き、職員用の足場に飛び移り、その身を上に消した。


 その光景を見たあと、そこを指さす。


『あそこの先はどこに繋がってるの?』


 尋ねたのは彼女にではあったのだが、彼女は放心したようにその光景を眺めていたため、それに反応するには少し時間がかかった。


「あ? ――ああ。あの上は、電車の真上だよ。あまりにもでかいんで、そこの整備のための通路」


 と、いうことは、彼は電車の回想越しに逃走したということか。


『でも、少しおかしかったな、彼』

「あ?」

『彼ね、ちょっと軽かった』

「軽いだ?」

『それと、どう考えても脳震盪は起こしてもおかしくはないはずなのに、あそこまで早期に復帰できた理由はなんだろうね?』

「そんなこと――」


 どうでもいい、と言おうとした彼女の口は動きを止める。

 どうでもいいよくはないのだ。それは、複数いる復元身体の唯一の特徴であるのだから。


「今は、もっと別のことがあるだろ」


 まあそれも最もな意見である。

 おそらく復元身体がこの場所にきた理由として時間稼ぎの側面が強いだろう。


 この電車がどこに激突するかは知らないが、プログラム的にはまだ時間のある場所であることが分かる。電車のシステムそのものは無人に近い、ほとんどはオートマの機械に過ぎないが、その職員の数は多くいる。そもそも、これだけの巨大施設では、どれだけ機能面が優れていようと人間か最終的な管理をしなければ成り立たないのである。


 その職員が、現在何の対応もしていないということは、なんらかの介入があったとみて間違いはないだろう。悪く考えれば、もういない可能性もあり得る。


 少なくとも、現在のこの状況を、駅の人間が誰一人として報告していないということが問題なのだ。


『んー。確かにそーネ。で、面倒なのが退散してくれちゃったとこりで聞きたいんだけど、マイリは一体どこに行ったのかな』


「……だから、この電車の操縦を握りに」


『だから、その場所はどこにあるノ?』


 まずは、それを聞かなければ話にならない。彼と合流しなければどうしようもないのだ。


「……たぶん、おまえが来た方向と真逆の方向、だと思う」


 明確に答えられないのは、彼女自身もモモタビ・マイリの行動がつかめなかったから、ということで間違いないだろう。


『そんじゃま、ホラ』


 言って彼女に手を差し伸べる。その様子を見て、彼女はこちらに手を伸ばしてきた。そのまま、彼女をおぶる。


『煙とかは吸い込んでない? 大丈夫ならこのまま行っちゃうケド』


「いい。別になにもねえよ。さっさと行け」


 まあ、これだけ喋れるということは、気管そのものに影響はないのだろうが。


『それはそうとおねーさん。さっき渡したあの煙幕弾、結構高価なんだよね。できれば請求とかさせてほしいんダケド?』


「つまんねえこと言ってんじゃねえ」


 つまらないことときたか。


 いや、アレ本当にたっかいんだけどなぁ。本当に。


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