車内で暴れる奴は許さん
彼女の位置を確認する。次いで、この車両の面積を確認。
十分だ。気を付けていれば、彼女を巻き添えにすることもない。
『Starry sky backfire field Ⅲ、Ⅳ』
直進。位置は彼の真正面。
他の様々な物資を縫いながら、その一点に加速する。
まず相手の武装そのものを認識する。
あれは丸めた爆薬を辺りに拡散させることで、単純な攪乱行為を実行しているにすぎない。
直撃すれば押し返されるだけの威力を備えてはいるが、要は、撃たれる前に手を打てばいいだけのこと。
人的鎧のセンサーで捉えられない速度で接近し、その姿を視界に収めることなく、鎮圧する。完全に正面から不意を突く方法である。
直撃する。衝撃は腕。態勢の問題ではあるが、加速しそのまま相手を殴りつけたことになる。
インパクトから相手の体は宙に浮く。音ほとんど同列に走る物体に衝突したのである。いくら堅牢な装甲を持っていたとしてもその大勢は二本の足のみでは支えきれない。
『…………っ』
地面に足が付く。加速によって摩擦のブレーキは当てにならないが、車両の壁に激突することで体を止めることに成功する。
態勢を崩し、地面に身体を倒す復元身体の姿を確認する。あの状態では彼女に爆弾を撃つことはできない。
跳躍する。その倒れた白い鎧に向かって、数十mの距離を飛び越える。
白い鎧に接近。と言っても、その先があるわけではない。俺の脳内にあった考えでは、あくまでその鎧にまたがり、マウントを取った状態で、中身が意識を失うまで殴りつけるという、そんな方法しか思いつかなかった。現在、俺に武器はない。故に身にあるものは二つの拳のみ。
人的鎧に打撃などというものがどこまで通じるかは分からないが、衝撃を完全に阻害する鎧などない。いかなる壁も貫通するのが衝撃というものであり、伝達の力学である。核兵器に効力のあるものでさえ、壁の厚さといった側面でしか効力がなかったのだ。
人的鎧はそこまで硬質な装甲で守られてはいない。それは、数々の鎧を分解して分かっている。三十構造をとってはいるものの、それでも衝撃すべてを防げるわけではないだろう。
しかし、そこで事は起こった。
今まで仰向けに倒れていた白い鎧が、飛び上がったのである。
本当に何もなく、足も手も使わずに、本当に体が宙に浮いた。
しかし、一人でにというわけではない。科学的にそんなことはあり得ない。特殊重力圏内でもない限りは。
白い鎧は、爆炎と共に空中に飛び上がった。恐らくは背中にある爆弾の噴出孔から爆弾を落とし、地面と密接している自身との間にある爆弾を起爆することで、爆風による推力で自身の体を上に持ち上げたのだ。
背中の爆発。宙に浮く体。
その状態で、彼は自分の身体を空中で立て直す。獅子の人的鎧は空中において自分の位置に飛んでる敵の姿を確認する。
その後の行動は迅速だった。
空中の彼の体に爆発が起きる。体内からの爆弾の撃ち出し、そしてそれを任意に爆破することで、攻撃手段ではなく推力として利用する。その動作を持って、彼は不自由であるはずの空中で走って見せた。
体内での爆発ではなく、体内から放出された後での爆発。その要素を的確に利用し、自身が重力圏内でどのように推力を持てば適切な移動ができるのか。全身に火炎を纏いながら、爆発のエネルギーによって、その体を推進する。
爆発の推力を応用して、体を一回転させて行う回し蹴り。推進のエネルギーは持続しているため、回転してはいるが、その体は前進している。
『――ぐ』
空中で衝突する両者。それは、俺とあちらのアーマーが、同じく空中における加速を行えることに由来する。
あちらは蹴りによる攻撃を。
こちらは咄嗟のことになった片腕による防御をそれぞれ実行する。
結果としては――
推進の含まれた、横薙ぎの蹴りによって、俺の肉体は車両の床に叩き付けられた。
頭の衝撃から体を捻り、地面に叩き付けられた衝撃を流し、倒れる前に身を起こす。
顔を上げた先には、俺の方ではない方向に腕を上げている復元身体の鎧が見えた。
その腕の先は。
『――くそ』
『Starry sky backfire field Ⅲ、Ⅳ』
加速する。その一点に走り去る。
位置は、向こうで自身の体を抱いている人物よりも少し手前。そこでなければ防げない。
復元身体の腕の先に狙われていたものは、今も椅子に座っている彼女だった。
そう、彼女の殺害が目的に入っているのなら、わざわざおれとつばぜり合いを起こす必要はない。攻防の隙を見て、そこに一つ、爆弾を投げ込めばことは決着するのだ。
人間代の大きさの物と、たかが二㎝ほどの爆弾。速度では分かり切っているそして向こうは既に狙いを定めてしまっている。
彼女の飛来する爆弾と、それを追う形になる俺の肉体では、どう考えてもその速度には追いつけない。
『Starry sky backfire field Ⅲ、Ⅳ is Save』
なので、再度加速することにした。今度はスピードそのものをセーブして。
『ぐ――』
手を突き出す。その腕は異常な加速によって空気の摩擦を受ける。しかしそうでもしなければすでに飛んでいるそれはつかめない。
人的鎧のセンサーに熱源を発する物体が目の前に表示される。取りこぼしは許されない。もしそんなことになれば衝撃は免れない。
神経を極限にまで鋭利にする。
わずか十八㎝ほどの手のひらでその物体を掴み取る。
高速で動体しているのはどちらも同じ。
その状況で、その一点にのみ、意識を集中させる――!
指の群を閉じる。
自身の加速を転がることによって停止させる。
感触は、指の中に黒い、球体上のものを発見した。
成功した?
どうやら、つかめたらしい。
センサーには次の爆弾は映っていない。
『うへ』
手に持った危険物を持ち主の方向に放り投げて、そこでようやく息を吐いた。
『少し聞きたいんだけどサ』
『何かな?』
『いまどうして彼女に爆弾をもっと投げなかったの?』
そう、彼は彼女に飛来する爆弾、それを掴み取る俺の姿を、ただ黙って見ていただけだった。
俺が一つを掴むことが出来たとしても、その他に爆弾を飛ばされていたなら、その他複数を弾けなかった。彼女を殺害できる状況にいながら、なぜそれを行おうとしなかったのか。
『特に理由はないけど。敢えて言うなら、きみを先に潰しておいた方が、やりやすいかなと思って』
ああ、はいはい。
つまりはどういうことか。
つまるところ、彼女は移動をしないのだ。できないと言っていい。
そんな彼女を狙う理由はない。対象が動かないのなら、殺害は最優先ではない。
動かない対象を追うことはない。むしろ、彼女を護りながら俺は動作を行わなくてはならず、彼女を殺害しないほうが自分に都合が良いと判断しただけ。
『なるほど。納得した。確かにそうだ』
そして、適度に彼女を狙いつつ、俺への攻撃を行えば、それで勝負は決する。
明らかに彼の有利であるからこその判断。彼女の殺害よりも、俺への攻撃を重視した行動。
その方が、彼的には目的を達する確率が高いのだ。
『ヨユーだね。でも判断は間違っていない。――ケド』
いくらなんでも、優位性を自覚しすぎである。
『おねぇーさん』
後ろの彼女に呼びかける。彼女はこちらの目配せに気が付いたのか、小さく頷く。
反応としては上々。
彼女のことは、彼女になんとかしてもらおう。




