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チャイルズ・ワールド  作者: サイタマメーカ
復元身体を確認。警戒令を発令
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公共の場では静粛に

「ふーん。なんか面倒なことに巻き込まれてるみたいだな。そっちのお嬢さんは――まだ治ってないみたいだな。どうしたんだよ。一体」


 それはこちらが訊きたい。一体いつ不法侵入なんぞしやがったこいつ。


 後ろにいる彼女も見覚えがあるのか、フードの人物が彼と分かると俺の後ろから顔を出して見せる。いや、あなたはもう少し顔を隠しておいてもらいたいのだが。


「で、おまえら何、誰かとここで待ち合わせでもそてるわけ?」

「ああ、まあネ。できればあんまり会いたくないヒトと?」

「……ふーん」


 あちらもこちらの事情を察したように沈黙すると、そのままぐるりと回って駅の改札に向き直った。


「ま、そっちはそっちで頑張って。おれはこれから別の用事があるので」

「用事ねえ。ドクター、もしかしてこっちにはちょくちょく来てる感じ?」

「ああ、まあたまに?」


 言って、そうだ、と彼は思い出したようにこちらを振り向く。


「そういやおまえ――」


 瞬間、俺を突き飛ばして背後から一人の人物が現れた。


 誰かと思い、倒れる前に目を向けると、そこには自分の足を前方に振り上げているハリヤマ・ネズの姿が見えた。


 彼が振り上げた足は、目の前のドクターの手の辺りに当たっており、そこにあった何かを上空に蹴り飛ばした、ということになる。


 そして、宙に浮いていたのは、黒い色の比較的金属的な部品で作られたものだった。


 形はL字。――で、黒くで金属で手に収まっていた。


 ということは、もう言わなくてもいいよね?


 蹴り上げられた鉄塊は、そのまま垂直に落下し、ハリヤマの手に収まる。


 このにーさん、蹴り上げた拳銃をそのまま掴みやがったのである、


「こいつ、おまえらの知り合い?」


 掴み取った拳銃の銃口をゆいっくりとその赤いフードの中に向けながら、ハリヤマは言う。


 それに『ら』が入っているということは、おねーさんの事も含めてか。


「たぶんね」


「ずいぶんとふざけた知り合いだな。それともなんだ? あっちじゃこれが挨拶か?」


「うーん。ま、以前はおはようって銃を向けてくるようなヒトじゃなかったはずなんだけど」


 というか、そんな地域での衣食住など御免である。


「トップ、ランカー?」


 ドクターから声が上がる。それはキカクの事情を知り尽くしたかのような物言いで、目の前にいる人物が何者が分かったようだ。


「そーだようっせえな。いちいち言うんじゃねえって。同行願えるか? ついでにそこの不法侵入者と一緒にしょっぴくことになるが」


 俺が入っているのは何故なのか。嫌だな、おれはこの騒動に関しては何もしていないのだが。


 ドクターは赤いフードの中からハリヤマを凝視すると、合点がいったという感じに頷いた。


「そういうことか。となると、統括者は――」


 そこで、ドクターは俺達の中の、黒い頭髪を持つ人物に目を向ける。



「――SHI」



 そこで、笑う。


「SHI SHI SHI SHI SHI SHI SHI SHIっ、そうかそういうことか! 確かに約束は果たされている。思い違えていたよ。ボク(、、)はきみが来ることなんて露ほどの期待はしていなかった!」


 口調が変わる。表情が変革する。その声と顔は俺のよく見知ったものだったが、その存在そのものは俺が知っているものとは異なっている。誰だこいつは。どこからどうみても、この人物はドクターではない。


 外見は同一である。というより、本物である。


 しかし、俺が認識しているドクターという人間ではない。この人物は、それとは異なる。


「きみ、誰?」


 そこで俺が訊いたのは、気まぐれか。それとも真偽を確かめる為か。まあ、総合的な割合的には9・1くらいなんだろう。


「ああ、おれ? あ、ボク? おれ、いや、ボク、はね」


 意識の混濁。おかしな発言が繰り返される。

 ラリっているとしか思えない発言が繰り返される。

 何回も何回も、『おれ』と『ボク』が入れ替わる。不思議なことに、その一人称を呼ぶときの口調すら変わっている。自身の呼称を呼ぶときに人格が変化したかのように。


 ――人格が変化?


 いや、ちょっと待ってほしい。それって、どう考えても不自然じゃないか?


 やがて自己問答とも呼べない種類の独り言が終わると、彼はこちらに顔を向けた。



「ああ、思い出した」


 言って、フードを取り払う。


 そこにあったものは、ごく普通の、男の貌だった。ここに来る以前、一日に一度は見ていたものだ。




「ボクが復元身体だ!」




 瞬間、視界が爆発した。


 否。それは勘違いというものである。、実際には、俺達のいるホームに一体の人的鎧(ヒューマノイド)が飛び込み、空中で体を一回転させたかと思うかとその周囲が爆発した。


 なんの動作もなく、なんの通信もなく。


 周囲から上がる悲鳴。満足な休日とかライフみたいなものを謳歌していたヒト達が逃げ惑う。


 爆炎はこちらにも飛んできたが、目の前にいる男によって対処された。


 一度、その爆発を直に受けたことのある、その人物によって。


 モモタビ・マイリと車椅子に乗った彼女は逃げ惑う人々の波にのまれる。


 彼女が人の波の中で車椅子を倒され、そのなかに隠れたことを確認する。マイリの姿は既に視認できない。この状況になってしまって、特定は不可能だろう。


 一瞬、頭に最悪の映像が挿入される。それは予想となって実現される。


 目の前を飛び交っている人的鎧(ヒューマノイド)が、その場所に向け手を振りかぶった。


 仕組みは分からないが、おそらく、その動作の先にあるものは爆破だろう。

 逃げ惑う人民の中に統括者を発見した。そうれなら、後にある動作はもう確定している。


 防ぐ方法は未定。


 爆発というからには、そこに何かの爆発物がなければあり得ない。


 ――そこへ。


 突然、黒い躰が現れた。


 人型の黒いそれは、大衆の中心に立つと、黒い竜巻のようなものを身に纏い、その前に立つ。


 まるで、後ろの幾百の人民を庇うかのような格好である。


 爆発する。


 黒い竜巻に、複数の大小入り混じった爆発が展開される。


 まだ人間は逃げている。元々人が集中していた地域だ。そう簡単に人の波が引くわけがない。


 爆発は継続される。しかしその爆炎は人には届かない。すべては黒い嵐によってはじかれている。


 その攻防が繰り返された後、爆発による煙幕がフロア一帯に広がり、そしてその煙幕を検出したことによりスプリンクラと換気装置が起動したころには、そのフロアにいた人間は俺と目の前の二人、そして後ろのほうで倒れているおねーさんと、その横にいるモモタビ・マイリのみになっていた。


 まあ、避難が叫ばれなくても身の安全を感じて逃げるのはタイヘンよろしい。


『はあん』


 黒い鎧から声が発される、それは、そこほどまでそこに立って、拳銃を持っていた男の声だ。


『おまえら、今までは単一犯として行動していると訊いてたけどな。なに、失敗を経て複数犯にでも切り替えたの?』


 黒い嵐、もとい幾千の磁気が彼の周りを回っている。


 キカク地域最強のランカー、ハリヤマ・ネズと、そのアーマーAnubisがそこにある。


「さて、ボクはいつも同一だよ」


『あー、いいよいいよそういうの。付き合うだけ面倒だから。俺の質問にだけ答えてろや。おまえと、そこにいるアーマー野郎。その両者で行動した理由を訊いてんだ。――ああ、いや』


 訊くまでもないか、とハリヤマは小声で呟く。


 そのとおり。今、彼が二つに分かれて目的を実行しようとしたのは、ひとえに偵察と実行者を分ける為である、相手があのモモタビ・マイリという統括者なら、というより統括者であれば、その口から出た言葉など嘘の確率が高い。


『んで、テメエ同一かよ』


「何が?」


『おまえに訊いてるんじゃねえ。そこのアーマー着てるヤツに訊いてる』


 フロアの中心地にいる人物に向けて、彼は言う。煙が晴れて来た。緊急時によるフロアの換気によって、その視界は明瞭になってきた。


『へえ、ボクに話しかけるんだ?』


 向こうのアーマーが喋る。


 その声は、ドクターとは違い、あの時、俺とハリヤマの前に姿を現した時と、そしてマイリと通信を行っていた時と同一の声だった。


『あん時、オレぶっ飛ばしたのはテメエだな。ま、おかげで今のも分かった』


「分かった?」


 ドクターが言う。


『それってどういう意味?』


 白い雌獅子の鎧が言う。


『そのアーマー――なんつったっけ? 忘れた。それ、外部に向けてなにか球体上のものを体内から撃ち出しているだろ』


 体内――つまり、鎧の内部。そこから何かを外部の放出していると、ハリヤマは言う。


『撃ち出してんのは、丸くして起爆ラインぎりぎりにまで小さくした、C4だな』


 C4。プラスチック爆弾。


 固形ではなく爆弾としては珍しい粘土状の爆薬であり、その性質上、ある入れ物の中に詰め込むタイプであるといえる。そしてどれだけ形を変えようと衝撃を加えようと起爆は起きず、起爆を起こす信管によってしかその機能を作動させない、安全面にも考慮された兵器の一つだ。


 しかし、それも数十年前の話である。現在ではもっと高性能な爆薬が開発されている。ひとえに、そんなものを使う人物は、よほどの金欠か、情報の攪乱を行う目的でもなければ使用しないと言われている。技術(おれ)廃棄街(たち)くらいである、そんなものを使うのは。


人的鎧(ヒューマノイド)のいたるところに穴があるが、それはC4を噴出するためのもんだろ。動作も何もねえから初見じゃ分かんねえわな。ただ自分の身体が勝手に爆発したとしか思えなかった。それくらいの大きさなら、銃弾レベルの速さで飛ばせるだろうから』


 音速で飛来するC4爆弾。旧世代、プラスチック爆弾は威力面において優れていることが特徴だった。わずかな量で鉄の柱などを破壊できたことから、テロではビルを崩すために、一般では撤去作業を簡略化するための倒壊に使用された。量さえあれば。トランクいっぱいに詰めれば大通りくらいならば爆破できるだけの威力である。


 例え手に収まるサイズでも、その威力は人を殺傷するレベルにまで容易に到達する。


『ま、昔の話だけどな。オレが生まれるずっと前の話だし。第一、そんなもん今つかったところで人的鎧(ヒューマノイド)を破壊するどころか、建築物の壁を破壊することすら敵わない。単純に生身の人間に威力のある煙幕としてしか機能しない。フィールドに寄るが、ほとんど意味のねえ武装だ』


 だからこそ、目の前の人物は生身の人間が多くいる&誰も人的鎧(ヒューマノイド)の武装をしていない場所を最初の標的に選んだ。人的鎧(ヒューマノイド)の会場がその一つだろう。



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