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チャイルズ・ワールド  作者: サイタマメーカ
復元身体を確認。警戒令を発令
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分かり切った出会い

 とある駐車場に停車すると、車の前に一人の人物が立った。


「や、遅かったね」


 それはどこからどうみてもあの部屋の中にいた人物と同一と思われる、モモタビ・マイリの姿だった。


 麗しい黒い長髪に、女性と見まごうまでの美しい顔をした少年の姿をした人物。服装はあの部屋の中にいたものと比べると粗雑さが目立つ。

 この辺りで調達した安物であるからだろう。まあ、服だけをみれば粗雑とも思わないのだろうが、何分着ている方が着ている方である。これでは威力的に外装が負けてしまうのはやむなしというものだろう。


「――おいおい、一体どういうことだ、あんた、いつから」


「説明は面倒臭いから省くよ。それより、きちんと来てくれたんだね」


 まあ、そりゃ行先が決まっている車両に乗せられれば行く道など決まっているだろう。


「ここって、駅なノ?」


「そうだよ。ああ、スラム出身のきみには初めて見る景色かもね」


 言って、モモタビ・マイリは車から降りた我々を誘導する。

 しばらく行くと、すぐに駐車場から出、人が大量に行き来する大通りのような場所に出た。道は横に広大で一直線。異常な人工密度である。目視できるだけでも二百はいる。それが動いているのだから、本来の人数はその十倍以上に上るかもしれない。


「どう? フタリ」


 何か得意げに行って、マイリはその中に入って行く。我々はそれを追うしかない。


「まあ、驚いた。こっちに来てから全然ヒトを見なかったから。まあ、人民のほとんどが室内と地下に存在しているなら、合わないハズだね」


 むしろ、外を歩いていたノウスイ・ソウフや、その外を警戒していたハリヤマやあのランカーの方が特殊な例だったということになる。


「でもまあ、こういう構造って危なくないノ?」

「ん? どゆこと?」

「昔の映画でよくあるんだな。以前、ほぼ九十%以上が地上に住んでいた時代では、地下っていうのは閉鎖的だと考えられていたらしい。だから地下で少し事件がおこるだけで、そこは逃げ場のない場所に変わった、っていう在り来たりのサスペンスだネ」

「ほほう」


 何か興味を引いたような声を上げるマイリ。

 それだけを見れば、彼が本当にただの子供であると錯覚する動作である。


「ま、でも残念。それは今日日ありえないかな。たぶん、きみが考えているようなことが起こっても、キカク治安委員会でどうにかできる」


「でも、犠牲者は出る?」


「背に腹は代えられないでしょ? こちらも大事な機関はあるんでね。それに、絶対に犠牲者を出さない方法なんてとれっこない」


 ま、それもそうだろう。


「で、さっききみが言ってたところってどこなワケ? 場合によっては、逃げる準備をしなくちゃならないから、結構重要な問題なんだケド」


「それは僕も同じだ。そも、彼が殺害を望んでいるのは、今のところこのメンツでは僕だけだからね。つまらないことで自分の命を落としなくはないだろう?」


 そりゃもちろん。言うまでもありません。


「場所はね。キカク地域からその他の県へも移動可能なメトロのホームだよ。ああ、もちろん改札前ね。そこで待ち合わせようと言ったんだ」


「大衆の眼も多いから、もしかしたら奴の正体が見ているかもしれないって?」


 そこで、ハリヤマが割って入る。マイリ自身は、それに笑って頷いた。


「まあ、そんなところかな――っと、ああすいません」


 マイリが前を歩いていた人物と接触する。


 もしやそれが復元くんではなかろうな、と勘繰ったが、その人物は普通のスーツ姿の男性であり、こちらを向いて何か子供の集団がいることを確認すると、何も言わずに道を歩いて行ってしまった。


 何とも人が多いところである。何十もの足音で耳が支配されるほどだ。これでは他者と体の接触が起こったとしても不思議ではない。


 その中で、一人、多数の人間に対して恐怖の視線を持っている者が、我々の中で一人。


 その容姿でただでさえ目立つのに、車椅子に座っていることで余計に浮いている、スーツ姿の彼女だった。


 彼女は周りの人間に常に目配せを行い、自身に近づいてくる人間すべてに警戒を行っている。


 どう見ても挙動不審である。初めてここに来た俺よりも完全に目を動かしているのでは、よっぽどであろう。


 そこで、その理由に思い当る。


「おねーさん、もしかしてどこかから刃物を握った腕が来るとか思ってる?」


「…………っ」


 思い切り睨まれた。


 きっついなあオイ。


 まあ、この状況でその考えが浮かぶのは自然なことと言える。オリジナルのオリガ・カナエがその方法で殺害されたのも、その影響ではあるのだろう。


 この場で彼女の顔を見た瞬間、彼女の殺害を決行するという可能性は、まったくもって不可能ではない。というより、かなり高いレベルであり得る。それこそが、モモタビ・マイリの目的だとも言えるが。


「着いたよ。ここが、約束の場所だ」


 あっさりと到達しやがった。


 本当になんの苦労もない。ただ移動するだけの肯定を越えての場所だった。必要なものは移動の足と時間だけ。そんな移動の為には最低限のものに過ぎない移動をしたに過ぎなかった。


 そこは、駅の場所における、改札の前だった。


 先ほどの人数とは比べ者にならない数の人間が、その場所に集中している。


 雑多な掛け声と足音がその場を支配している。時折聞こえる電車の発信音とブレーキ音がその場に不躾に入るのみで、それ以外は断続的にその人間の音が出続けている。


 フィールドの範囲は半径百m。異常に広いが、まあ、これなら奇襲にあっても十分に逃げ切れる距離だろう。


 今、現在その場にいる人民の数はざっと見積もって五百人弱。


 キカク地域の人民がどれだけの数なのかは知らないが、これだけの数の人間が一瞬で死亡する状況などというものは、いくらキカクでも一大ニュースになるだろう。


 まあ、人的鎧(ヒューマノイド)でもこの数の人民を殺すのは、対物グレネードでも使わなければ不可能だ。逆に言えば、それさえ用意できれば数百人を殺害することは容易だろう。巨大な爆発とその衝撃によって、密集している人間はすべて吹き飛んでしまう。


 その時の逃走方法は――アレ? 思いつきませんヨ?


「よりにもよって、こんな人の多い場所を選ぶのかよ」


「まあね。彼もこの場所では、罠を仕掛けることもできないし、自分のルールを破って仲間を呼ぶこともできない。唯一の手段は人的鎧(ヒューマノイド)による奇襲ってところだろうけど、こちらには最強のランカーがいる」


 モモタビ・マイリの言っていることは完全な力技である。というより、犠牲の伴う事柄をあえて選んでいる節さえあるだろう。


「つーか、本当にくるワケ?」


「必ず来る。仮に僕らの目の前に現れなくても、ここには必ず来る。地下って言うのは、そのフィールドに行かなければ攻撃の手段がないのが特徴なんだから」


 まあ外じゃないので空爆も上からの侵入もできないわけで。


 だからこそ、マイリはこの場所を選んだのだろう。


 その時、目の前に一人の人物が立っていることに気が付いた。


 まず目に着いたのは、赤いジャンパ。そしてその服に付属しているフードに頭まですっぽりと覆われた外見。顔は隠れて上手く視認できないが、体格的におそらく男性だろう。その人物が、いつの間にか俺達の目の前に立っていた。

 それを俺が視認した時には、マイリは俺の背後にまわり、彼女は俺の横から後ろに下がり、元々後ろにいたハリヤマはその場で見物を決め込んだ。


 故に、この場でそのすげえ怪しい人物に相対することになったのは俺となった。


 くそ、自身の危機回避が意外に高いぞこのヒト達。


 赤いジャンパの人物はこちらをじっと目視したまま立ち止まっている。疑うまでもなくこちらに向いており、その顔は少し足りない俺の身長を見下ろしている。相手の身長は百八十の半ばというところだろうか。なんというか、日本人の中ではかなり長身であるためか、この場でも多少目立つ外見である。


「――あ、えっと。モシモシ?」


 一応、呼びかけてみる。まずはコミュニケーションである。それがなければ始まらない。


「…………」


 対して向こうは反応なし。


 同時に、俺の後ろに回り、俺を盾にしている連中にも動きはなし。あなた達くらいは少しくらい声を出してくれてもいーんじゃないの?


「あなた、ここで待ち合わせでも?」


「…………」


 答えない。


「いい天気ですネ」


 地下なのでいい天気もクソもない。


「電車お好きデスカ?」


 そんな人間が昔いたな。


「俺達、今から旅行に行く予定なんすけど」


 いや、実際この場からすぐにでも逃げ出したい。ガチに旅行に行きたい。


「あなたは、ここで何を?」


 都合、四つの質問をすべて無視。予想してはいたが、どうにも応えるネ。


「――ふん」


 向こうから初めて声が上がる。それは、見た目通りの大柄な男が発する、太い声だった。


「呆れた。馬鹿もここに極まれりだな。まあ、いいが」


 ほとんど独り言に近いその言葉は俺には理解できない。というか、この人は違うんじゃないかという気さえしてきた。単なる人違いなのでは?


「アマカワ」


 その声には、訊き覚えがある。自分の住処のすぐ近くで訊いた、その声。


「おまえ、すぐに帰ってくるつもりなんじゃなかったのか?」


 フードの中の顔を目視する。

 そこにあったのは、比較的見慣れた貌であったことを確認した。




「ドクター?」




 そう、その人物は、技術廃棄街に住み込んでいる、あの精神科医だった。



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