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チャイルズ・ワールド  作者: サイタマメーカ
復元身体を確認。警戒令を発令
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通信って不快

 マイリの言葉に驚いた人間はその場には存在しなかった。


 ただ、ふーん、とかそう、とかそんな白けきった反応を示したいた。


「あ、 あれ? 全然驚きませんよ? どったの皆さん」


「いきなり話方が俗的になったネ。理由が欲しい?」


 まあ、単純でである。


 そんなの、今更言われて驚くことでもないでしょうに。


 まあ、おかげで一つ解決した。マイリが彼女のことを『チープ』と呼ぶのはその辺に理由があるようだ。


「オリガ・カナエクローン? ふーん、まあそうだろうネ。つーか、それしか考え付かないし。他に考え付くとしたらそっくりさんくらいだネ。似すぎな気もするけど。で、彼女のコピーがいまここにいて、つーか治安委員会なんてとこにいて、んで俺と一緒にいて、どうなの?」


「んー、そう。そこは答えにくいんだよね。だからまあ、順を追って説明とか、そういうことをせずに結論から言うよ」


 ふう、と美しい貌が溜息を吐く。それは疑うまでもない人形だが、見た物を魅了するだけの威力があった。まあ、男性なのだけど。


「統括者の席に、オリガ・カナエのレプリカを据えようと思うんだ」


 その口調は完全に無垢な子供のそれだったが、口にした言葉はそれではなかった。


「オリガ・カナエが復元身体に殺害されてから早数週間。自制は次の統括者を立てることで躍起になっている。だから僕はこの機を境に統括者の数を減らそうと思うんだ」


「ちょちょちょ、ちょっと待ってくれ。オレ、あんたの言ってること分かりません」


 もっとも最初に手を挙げたのは、いう間でもなくハリヤマ・ネズである。


「え? なに? そのお嬢さんを統括者に据えるってところはグッジョブ?」

「ついでにオリガ・カナエとして扱うところまでがハッピー」

「で、統括者の数を減らす? つまりそれは、統括者に返り咲いた彼女をあんたが裏から操って行くってことでいいのか?」


「聡明だねトップランカー。彼女が僕の傀儡になってくれれば、これは実質、僕にとって自分の立場と同じ人間が一人消えることと同じだろう?」


 ハリヤマは、そこで大きなため息をついた。それは大仰であり、かつ、その行為によって自分が今どういった気持ちなのかを、相手に伝えているようでもあった。


「降りていい?」

「だめ」


 チ、とハリヤマは舌を打つ。後ろの出口がとっくに封鎖されていることは、彼としても気が付いているらしい。


「そのお嬢さん。オリヒメのクローンってだけなんだろ? 記憶はないが、だからこそ、彼女の代役が可能だと?」


「それ考え違いね。クローンって言うのは、遺伝子情報と外見しか合わせられない。人間のの細胞を隈なくまったく同一に作り上げるなんてことはできない。故に、クローンっていうのは外見しか似せられないものなの。きみが考えている、同一的(ダブ)人間()とは異なる」


 故に彼女は、オリガじ・カナエとまったく同一の外見を持ちながら、その自我は彼女とは違うと言うことか。


 人間には言語化できない部分が多くある。脳の領域になるとそれがより顕著だろう。才能だの経験だの性格だの有無だの認識だの恋愛だの嫌悪だの本質だの。まったく同じ遺伝子という設計図から、まったく同じカタチの人間を作ったとしても、その内部はひどく異なるものなのだということだ。いえば、その内部を人間は造ることが出来ない。


 まあ、みんなの統括者が暴言を吐きながら年下の人間を殴ってたら引くよね、そりゃ。


「故に、ここにいるオリガ・カナエの顔をした人物はオリガ・カナエではない。まったく別の、何の関わりのないただの女の子だよ。だからこそ。僕は彼女を利用しようと思う」


 よく言う。利用するのではなく、利用するためだけに彼女を生産したのだろうに。


「まあ、当初は彼女を統括者であるオリガ・カナエその人に紹介して、そのまま拉致し、別の彼女を添えることで、そしてある程度の成果が上がれば、他の統括者全員を拉致、代役を置いて僕の思い通りのキカク地域を実現しようかなー、なんて思ってたんだけど」


その瞬間、その場にいた大方の人物の手が止まったことを確認する。


 当然である。一統括者である人間から、そんな言葉が吐かれたのだから。


 というか、このヒト本当にさらっと嫌なことを言うよなぁ。


「おい、それ本気か?」信じられないという顔をして、ハリヤマが訊く。


「本気じゃなけりゃやらない。当然だよね? クローンを造るのもタダじゃないんだ。それに、足が付くと面倒なことになりかねない」


「本気で、実行しようとしたと?」


「イイ案だろう? まったく同一の外見を持つ赤の他人がいつの間にか統括者になって、ただ一人、モモタビ・マイリという統括者一人に仕切られる地域。まあ、別に僕の仕事が増えるってだけの、あんまり楽のできない行為なんだけど。ま、同一の存在にあれこれ口を出されることはないかなって思ってトータルで楽になると思ったんだけど」


 口を開けば開くほど、モモタビ・マイリという人物の外見から乖離していく。その口ぶりは明確な悪意と思案をもった人間そのものである。


「で、マイリ。今のきみはもうその考えを持っていないんだろう?」


 先ほど彼は『思ってた』と発言した。


 それはつまり、現在ではその思案は衰退方向にあると見ていいのだろう。


「そうだね。今は、彼女は体のいい囮ってところかな」


 囮、ねぇ


「ん? それってもしかして、彼女を使ってその復元身体さんを誘き寄せるってことですか?」


 頭のなかで様々な統合をした際に導き出されたらしい答えをノウスイは口にする。


 まあ、安易に考えれば、そういうことになるのは必然だが。


「うん、そうだよ」


 向こうもあっさり肯定しやがった。

 ひねりも何もあったものじゃない。


「アレ? ちょっと待ちなさいマイリくん。もしかしてきみが俺におねーさんを任せたのは、ひょっとしてそのためだったりする?」


「だったり、じゃなくそのものだね。ま、おかげで出て来たことだし、有益ではあったわけだけど」


 皿の上の食事をその綺麗な貌に投げつけてやれば、さぞすっとするのだろうな、と思いつつ、大きな料理の入った皿を持ち上げてみる。


 マイリ自身はこちらをとびきりの笑顔で出迎えた後、その場に留まっていた。


 このヒト、俺が何をしたいのかに見当が付きやがったのだ。そしてその行為そのものが大したことではないと言うようにそこに立っている。


「で、きみの目的はあくまで彼の排除にあるト」

「そりゃね。きみだって自分を危険にする存在を黙認してはいられないだろう?」

「そりゃそうだケド、どうにも巻き込み過ぎな気がしてならないネ」


 この時点で少なくとも数十人の人間は巻き込まれている。


「討伐は俺達だけってのもいいのカナ? キカクの治安委員会のcleanにでも頼めばいいんじゃないのン?」

「そうできない理由が、実はあるのです」


 珍しくしおらしく行って、マイリはモニターを戻し、部屋の照明を付ける。


「今、キカクではスラムへの排斥活動が始まっています」

「うん、知ってる。だって俺、その被害を直に受けている人間の一人だし」

「cleanだって、年がら年中暇をしてるってわけじゃないんだ。日々の業務もあるし、仕事もある。一つ大きな仕事が入るだけで結構一杯一杯なんだよ。そんな状況で、cleanにはスラム街への調査という仕事が任されてしまった。これ、どういう状況か分かる?」


 ああ、ハイハイ。


「ただでさえ大変な業務に、面倒な仕事が加わりやがって、それに統括者への護衛を付け足せばタイヘンだってこと?」


「キカクの通常業務に、スラムへの進行。前者の仕事を投げ出すわけにはいかないから、スラムへの隊は最小限のものになってしまっている。そして護衛の件とキカクの警戒態勢を上げてしまえば、それはもうcleanが満足に動けなくなってしまうことそのものを現している。だから安易に指令を出せないんだよ」


「潰しちゃえばいいじゃなイ。実質スラムへの進行なんて俺達にもって迷惑なだけだし」


 む、とそこでモモタビ・マイリはこちらを睨んだ。まあ、これが無責任な発言であることに違いはないだろう。実質そのために口にしたのだ。


「スラムへの進行を指示したのは僕とはまた別の統括者だった。もしその人物の殺害か説得に成功すれば、もしくは可能かもしれない」


「いや、そんなことしなくてもこの緊急時を利用して――」


「そういうことを受け入れる人間じゃないんだよ。というか、他者からの意見を自分の意見に組み入れる人間じゃない。自分の言ったことは是が非でも絶対。そういう人の説得は、復元身体という不穏分子を見つけ出して、それがキカクから漏れたものだということを示唆して、スラムではなく自身の腹が危ないことを示してあげた方がいいんだ。そして自身のフィールドを治安委員会に任せてれば、その時点で治安委員会はスラムの捜索どころではなくなる。近場の攻撃を辞めることになるわけだ」


「ふーん」


 特に納得ができる話ではなかった。そもそも、人的鎧(ヒューマノイド)と人間が一人いれば成立してしまう攻撃なのだ。


「で、マイリ。きみは一体俺達に何をしてほしいのかナ」


「復元身体の捕縛をお願いしたいんだよ。いや、記録でもいいよ。彼のような存在がいた、という事実そのものが他の統括者への交渉カードだからね」


「ふーん。それ、何か作戦、っていうか、そこに復元身体くんに確実に接触できる手段とかってアルノ?」


「あるよ」


 そういって、彼は部屋の中にある機材を操作する。途端。部屋の中にあるスピーカーが不可思議な電子音を響かせる。


 ぶつりと、電子的な何かが直結したような音がした。 


 次に聞こえてきたのは、訊き覚えのある、その電子音声だった。




『おや、早かったね』




 部屋全体に響く、その音声。その声に反応したのはこの部屋の内部では約二名。


 俺と。


 ハリヤマ・ネズである。


 なぜなら、その声は疑いようもなく。我々が直面した復元身体そのヒトの声だったのだから。



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