少女の正体
「まあ、復元身体、という名前は本名じゃない。彼女達は複数犯だよ、少なくともね。同一の名前を唱え、自分達のグループによる存在を誇張する。そんな集団にすぎない」
「それだけなら、別に珍しいものではないのでは?」
珍しくノウスイから声が上がる。
「そうだね。そういった声明はキカク地域でも度々あった。けどね、これが異常なのはその名乗った人物がキカク中で育ち、そしてキカクのなかで明確な記録を残していることにあるんだよ。この意味、分かります? 天才技術者さん」
「完璧に管理された人間が、そのような思考、行為、コミニュティ、技術、まあ、言っちまえばやる気みたいなものを持ち合わせていることが異常なのでは?
特定のカリキュラムを限界ぶっちしてやるのが今のキカクの教育方針ですから。教えてくれるのは機械ですけど。けど管理されているなら、その中で他の遊びにかまけている余裕はない。
一人目の女性はそんな時間をも持てない厳しいお仕事。もう一人の女の子は自由な時間も取れないほど勉強に打ち込まなければならなかったスーパー学習女学生。両者にとってそんな動機も行動も筋が通らない。ああ、ついでに同一の名前を名乗っていたのなら、そのキャラの共有ですか?」
「…………」
さらりと言ってのけやがる大飯ぐらいの女性を前に、モモタビ・マイリは閉口したようだ。
「いや、そんなことはどうでもいいです興味ないし。あたしが気になってんのは一つ。その復元身体さんが乗ってたっていう人的鎧ですよぅ。あれってやっぱセンセーが作ったものなんじゃないすかぁー? どうなんすかそこらへん」
にやりと笑ってミシゲに向く彼女を見ながら、マイリはそれを遮る。
「いや、ごめんなさい。僕が間違ってました。その件については僕とミシゲさんの方でお話しするので、今はいいですか?」
「んー、ま、いいですけど」
彼女を閉口させることに成功したマイリは何故かほっとしたように息を吐いた。
「じゃ、仕切り直しで。彼女が二人目で、そして彼女は、学生の身でありながら明らかに自分が持っていない知識や技術を有していた。それこそ、一日平均の彼女のタイムテーブルでは確実に無理のあるものを。それを考えた時、これはもう普通の複数犯ではないと踏んだ」
複数の人格の共有。そして複数の人物を装って行動する集団。
年齢も経験も問題なし。技術や知識はほかのメンバーと同一で、かつ、他のメンバーと行動の方針を同じにしながら、決して集団で動こうとはしない。
「彼女、もとい彼らはいつも単独犯だった。一人で大規模な事件を起こし、自身を名乗る時は復元身体と名乗る。そして行動の先にあるものはいつも統括者という存在だ。
「復元身体と名乗る人物は現在で二人。それで終わるとは思えなかった。事実今日、きみ達の前に彼は現れたわけだからね。よりにもよって人的鎧の会場を襲撃しやがったその恰好でさ」
そこで、席の上でうずうずとしているノウスイを見て、マイリはミシゲに目を向ける。
「ああ、私が作ったものだ」
「マジすか!」
「――いや、あなた最初から確信していただろう」
呆れたように言うミシゲ・ツクリに向けられた視線は、それを上回る呆れた視線だった。
こいつの作った物は悉く悪用されるなー、というそんな感想を含まれた視線。
案の定、彼は心底嫌そうな顔をして話し始める。
「bilocationという人的鎧だ。一年ほど前にあまりにも使えないので廃棄したものだよ」
「あれの外見が俺のアーマーと似ているのは?」
まあ似ているというか、そのものである。
白い外装に、たてがみのない白い獅子、つまるりころ白い雌獅子という外見のそれは、どこからどう見ても、今俺が所持しているアーマーと同一の外見である。
「ああ、それ、少し齟齬があるな。実質きみの持っているものに似ているのではなく、きみのアーマーがあちらに似ているんだ」
「は?」
「作成としてはあちらの方が先だからな。元々商業を目的として作成したものだ。ならば一度廃棄してしまったものなら外見が同じでも文句はつけられまい?
だから外見は同じものにして、機能面と商標が違うものになったんだ。まあ、結局そちらも商品にはならなかったがね」
はあ、と謎の息をつく目の前のクソ技術者。
何をがっかりしていやがるのだろうか。思い切りがっかりしたいのはこちらの方である。
おかげて俺はそんな外見的にも機能的にも危険極まりないアーマーにのって治安委員会の人員から逃げなければならなかったのだから。
「機能、機能は? センセー」
落ち着きのない様子で、ノウスイが訊く。
「名前の通りだ。そこまで大した機能ではないはずだ」
「はずだぁ?」
口を開いたのは、ハリヤマである。
「そう。私の手から離れた以上、あれはもう相手に改修されていても不思議ではないだろう? そういった技術を持った人物もいたのだろうが。事実、私はあの人的鎧が、人的鎧の会場を破壊できるとは思えなかった。攻撃に用いる機能ではなかったはずなのだ」
しかし、現にハリヤマはその人的鎧に攻撃されている。
不自然な爆発。どこからともなく現れたかのように、ハリヤマの肉体はあの時確かに不自然に吹き飛んだ。あの機能を攻撃でないと捉えるなら、どのような曲解を加えれば可能なのだろうか。
「鎧の損傷は?」
ミシゲが訊く。その口調には、私が作ったものにもしも傷をつけるならどの程度のものだ、という嫌な意味の籠ったニュアンスが含まれている。
「ねぇよ。本当に外部爆発だった。オレの身体そのものを吹っ飛ばすことが目的みてえな。それはあんたが取り付けたもんじゃねえのかよ」
「いいや。違う」
ミシゲはしれっとした貌で首を横に振った。このふてぶてしさは本当に彼はそんなものを取り付けていないということだろう。それに、そこで嘘を吐いたところで自身の否定した機能をを付けたという間抜けな事実が浮上するだけである。いくら技術者の端くれでもそこまでの失態はしないだろう。
「私があれに取り付けたのは、特殊な通信システムだけだよ。詳細は後で話す」
言って、彼は目の前にある食事にとりかかってしまった。
ノウスイといいミシゲといい、少しは遠慮というものを覚えた方がいいでしょう。
「で、マイリ。俺達をここに集めた理由、いい加減教えてくれない?」
「きみ達に復元身体の処理をお願いしたいんだ」
……うん。
まあ、見当がついていなかった訳ではありませんが。
「ちなみに、どうして?」
「きみ達が、丁度いい餌を所持しているからだよ。チープ」
彼が車椅子に乗った彼女を呼ぶ。
椅子に座ったままの少女は、ゆっくりとモモタビ・マイリの元に近寄って行く。
マイリの近くに寄っても、彼女は言葉一つ発しなかった。思えば、この場所にきて彼女が発した言葉は先ほどの反感が最初であった。
「彼女は、オリガ・カナエのクローンだよ」




