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チャイルズ・ワールド  作者: サイタマメーカ
復元身体を確認。警戒令を発令
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探偵は言った。「あなたが犯人だ」

「モモタビ・マイリ? あれか? 統括者になってから一度も顔を出したことがないっていうあの?」


 さすがに黒いアーマーを脱いだハリヤマがテーブル先にいる黒い長髪の人物に尋ねる。


「別に匿名性を意地してはいないんだけど。どうもそういうことになってるらしいね。僕自身は別に出ても出なくても同じことだから、署名だけを出していただけなんだけど」


 そこで、にこりと笑ってハリヤマを見るマイリ。


「初めましてハリヤマ・ネズさん。あなたの話は度々うかがっています。キカクの中で最も優秀なランカーであるとか」


「当てこすりね、それ。鎧がなければそこらへんにいるプータローと変わらないし」


「どうでしょう。この機会に僕の傘下に入ってみるのは」


「冗談でもお断りだ。それにあんた、肉体がないなら護るもクソないだろ。アーマーを着て三次元を走ってるオレ達よりよっぽど速く動けるんだろ? それに、人間でもなくて、しかも死なないヤツを護る気はないよ」


「へえ。着眼点も上々だ。本当に惜しいな。あなたのような人が、治安委員会の中でくすぶっているなんてさ。――でも、今回は諦めておこう。これ以上の無理強いは逆効果に成りそうなだけだ」


 傍から見ても、マイリの挙動は楽しみを堪能中の子供のそれだ。


 それだけ見れば、完全に邪気のない子供のようである。その矮躯を躍らせながら、各人のテーブルを駆け回る姿は完全に不躾な子供だ。


「ね、ところでフタリ。きみはあれから何があったの? トップランカーと一戦交えたって言うのは本当かい? もしそうだったらそのアーマーに記録された映像僕にくれないかな。明後日あたりの暇潰しに使うからさ」


「別にイイヨ。もっとも、それで困るのはそこのにーさんだけど」


 マイリが考えていることは、おそらくキカクのトップランカーの映像を手に入れることでその本人に揺さぶりをかけようとしているのだろう。そしてそれを本人に見せつけることで、更なる揺さぶりをかけている。


「いいぜ別に。俺の完勝だったし。それと、たぶんモニタの映像じゃ何が起こってるか分かんねえぞ、あれ」


「ほほう」


 妙なテンションを見せる最年長。


 これは俺の推測だが、モモタビ・マイリは人間ではなく、電子の中の存在である。思考やアルゴリズムは人形の性能に依存しているが、その存在と記録そのものは電子媒体の人物だ。


 故に本体はなく、機械から機械へ乗り移ることで三次元に干渉しているだけにすぎない。


 媒体が劣化をしなければ本人も死亡しない。


 ハリヤマ・ネズが『死なない』と言っているのはその辺りのことを言っているのではなかろうか。


 ――まあ、確証なんてないのだけど。


「それで、僕の話を聞いてもらえるのかな。トップランカーさん」


 いきなり口調を変えて、彼はハリヤマに詰め寄った。子供を装っていながらそれは人間の邪悪さそのもののような口調を使う。


「メンバーにはさっき連絡したから、オレだけスラム襲撃組から外れたはずだ。今は、完全なフリー状態だな。いくらでも動けるぜ」


「よろしい。上々です。僕もあなたが素直に聞き入れてくださるとは思わなかった」


「そのことなんだが、統括者殿」


 そこで、ミシゲが声を上げる。


「その件については、ここにいる全員に話すのですか? 私共のような技術者には、不要な話だと思うのだが」


「できれば訊いていただきたい、ミシゲ・ツクリさん。それに、今回の小さな出来事の影響はあなたの作った人的鎧(ヒューマノイド)あってのことだ。あなたとしても是非聞いていただきたい。もちろん、ノウスイ・ソウフさんにも」


「んん?」


 目の前の御馳走にありつくことにしか興味のないノウスイさん。統括者直々の指名にも特に興味はないようだ。なんとも太いお方である。


「じゃあ要件をお伝えしてくれないかなマイリ。俺達、今まで何に巻き込まれてきたの?」


 彼は、その小さな体躯でテーブルの中心に赴くと、部屋の中にある巨大なモニタを操作し始めた。少しだけ広大な部屋の照明は少しだけ暗くなる。


 まず初めに移されたのは、一人の女性だった。


 特徴のない、良く言えば整っている、悪く言えばそこらへんにいるような人だ。


「彼女が一人目の復元身体だった」


 言って、マイリは別の画像を表示する。それは俺達の前に飛んできやがった、あの白い雌獅子の人的アーマーだった。


 画像の様子は単純である。ただ得意げに展示されているアーマーとその技術者と思わしき人物の群が周りで爆破されている光景である。


「食事中にこんがり焼けた人間なんてみたくないんだけど」


「でもデータとしてあるのはこれだけだからね」


 モニタには、その女性と、人的鎧(ヒューマノイド)の画像が表示される。なんとまあ噛み合わねえ画像だことで。


「あのアーマーを操作していた人物が彼女であるみて間違いない。というか、彼女自身が認めたからね。そして、彼女の役職なんだけどね」


 そこで、モニタに彼女の情報が表示される。


「キカク地域統括者secretpolice――て、マジ?」


「うん、そう。彼女は統括者、オリガ・カナエの元護衛だった人物だ。


 オリガ・カナエが殺害された時、彼女は涙ながらに彼女の死を語った。そんな彼女が、数週間後、人的アーマーの発表会に赴き、人的鎧(ヒューマノイド)で会場を滅茶苦茶にした。


 会場にいた護衛五十人を、休憩の飲料に毒物を混入して殺害してね。目的は分かっている。その会場には、視察の目的で統括者の一人が訪れることになっていた。それを殺害するのが目的だったんだろう。


 使われた人的鎧(ヒューマノイド)は紛失し、当然彼女の名前もあがらなかった。しかし彼女が取っていた不自然な行動を思った人間が彼女を治安委員会に告発し、彼女の記憶そのものを調べ、それでようやく発見に至った。そして彼女は、事件発覚の折に自身のことを『復元身体』と名乗った」


「それが一度目?」


「そうだね。僕らが認識している限りでは。けど彼女には、それ以前にも前科があったんだ」


 まあ、何となく想像はつきますが。


「彼女は、オリガ・カナエを殺害していた」


 その事実の公表は、知っていた人間と知らない人間とで反応が分かれていた。

 まず俺はそんな事件を端ほども知らなかったのでリアクションの取りようがない。


 ミシゲ・ツクリとノウスイ・ソウフの技術者は何となく転がって来た事件だったので意外そうな顔をした。


 元々治安委員会の人間であったため、風の噂で聞いていたのか、ハリヤマは大した反応はしめさなかった。


 唯一、その中で非常にショックを受けた様だったのが、ロマンスブラウンのスーツに身を包み、今もテーブルの食事に一切手を付けていない彼女自身だ。


「うん、この情報はきみにも初めて伝えるんだったね、チープ。まあ、きみには伝える必要はなかったかなと思っていままで隠してきたんだ」


「――どうして、そんな」


「理由? きみそれが分からないほど子供なの? 人からの気遣いは素直に受け取っておきなさい。怒るか恨むか喜ぶかは、その後でもいい」


 彼女は口を閉ざした。どうにも腑に落ちない部分があるらしい。


「ま、そんなわけで事件解決。総計の死者数はオリガ・カナエを含め七十四人。まあこんなもんかという死者数で終わったキカク地域の大きな事件になって、であっさりそれで終りを迎えたのでした」


 モニタの画像が切り替わる。そこに映しだされていたのは、まだ学生と思わしき年齢の、十代中ごろの少女の画像だった。


「次は数日前の事件だ。ある統括者が住んでいるマンションを強引に突破した者が現れた。方法はどうやって? 実は、治安委員会の保持している人的鎧(ヒューマノイド)formalをハッキングして。彼女自身はそういった専門分野の仕事に従事する予定だったらしい。しかし何を間違ったのか、その技術は他者の所有物を盗み取り、ある特定の人物を攻撃する為だけに使われた」


 そうして、マイリはハリヤマ・ネズに目を向けた。


「その点については、実際に現場にいたあなた方のほうが知っていると思うけど」


 なるほど。その場に出動し、そしてことを収めたのが、彼がリーダーを務めるところのグループであるProcessingであったということか。


 ハリヤマはその話題にはあまり乗り気ではないように溜息を一つ吐くと、その画面に映っている女性学生のような人物を見上げた。


「ああ、オレ達が処理した事件だ。約十分間の呼びかけに応じなかったから、磁気で捕縛しようと考えたんだが、なにぶん人が多かったことと、ヤロウ、人質を取りやがったことで余裕がなかった。腕と脚、それぞれ弾いて病院に強制送還したよ」


「で、その搬送中に自殺した」


 楽しそうに話すマイリの口調に心底嫌悪感を覚えたような顔をしながら、ハリヤマはそうだよとぶっきら棒に呟いた。


「中に入ってた人間がまだ子供だって知ったのはその後だ。んで、オレ達に名乗ったのが」



 復元身体。



 一月まえに会に来ていた人間もその警備も遠巻きの人間も、会場に入っていたすべての人間を否応なく虐殺した、その張本人の名前。



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