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チャイルズ・ワールド  作者: サイタマメーカ
processingの人員が負傷。故に最強のランカーを向かわせる。
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犬の意地

 建設物を歩いて行き、目的の場所に到達する。キカクの建設物は皆同じような外見なので、例えキカクの住民であったとしても機器の誘導なしには目的の場所に辿り着けないのだ。


 地上二十mまでつきでている建設物に到達する。そこは地下百mにまで伸びる地下マンションだ。この白い杭のような手た物だけで有に二千人ほどが内部で部屋を持って生活している。住人はピンからキリまで様々だが、中には自身の倉庫などを持つもの好きなども住居している場所だ。


 そのなかの、地上一階に位置する場所。建物の中で唯一窓のある部屋に、とある技術者の端くれは住んでいる。


 今日まで大した人的鎧(ヒューマノイド)を作成してはおらず、知名度もまったくない人物であり、本人もかなり気難しい性格ではあるのだが、常識的ではないアーマーを造ることには一部のユーザーにはほんの少しの人気がある、そんな無銘の技術者である。もっとも、技術者の資格は取得している人物のため、無銘といってもゲテモノではないのだが。


 しかし本人は数か月に一つほどしか人的鎧(ヒューマノイド)の作成を行わない人物であり、かつ、気に入らなかったものは個人で勝手に廃棄してしまうので、彼の人的鎧(ヒューマノイド)が人の手に渡ることは非常に稀なことである。


『引っ越しの願いは出ていない。となると、やっぱまだあそこに住んでるな』


 それに、売れない人的鎧(ヒューマノイド)の技術者が、早々に引っ越しなどできるとは思えない。


『どーすっかな。時間もねえし。権力エンジョイでいきなり突撃してみるか。それとも穏便に済ませるか。楽なら前者、お咎め気にするなら後者?』


 まあ、穏便に済ませられる相手ではあるかもしれない。あれは根っからの事なかれ主義だ。


人的鎧(ヒューマノイド)を作っておきながら、その先にあるものに一切の興味がない。わざわざ押し入る必要性は、まったくないか。


『そんじゃま、紳士的に言ってみましょうかね。争い少なく』


 その時、背後で音がした。センサーを見ると、しかし何も映っていない。


 高速移動。十分にあり得る。あのアーマーは、人的鎧(ヒューマノイド)のセンサーが追いつけないほどの加速で動く物体だ。


 しかし、高速で動くモノは、等しく直線でしか移動ができないと相場が決まっている。雷でもない以上、速度を持ったものは曲がれない。


 センサーではなく勘で、視界ではなく聴覚で、相手の位置を押し合計る。


 ――七時方向、五十m先!


 起動する。辺りの磁気が集中する。その黒い躰の周りを、何千というマグネットが飛来する。

 その操作は周りの逃げ道を塞ぐ、というただ一つの用途に基づいて行われた。

 そう、ただそれだけ。一直線に走る動体は、そのスピードによって自身のセンサーも運動補助システムも使えない。完全に野生の性能での勝負となる。目指すは相手の肉体。その一点を目指して剣を振るう。


『やっぱ、そうじゃなくっちゃなあ――!』


 楽しい――と感じた。精神の高揚。どちらかと言えば恐怖のほうが勝るはずのこの場において、脳内の物質が暴走している。


 体の腰を軸にして、熱刀を大きく振るう。熱による赤い残光が辺りに拡散する。


 目の隅に一瞬だけ白い影が映る。目――ではなく、センサーの認識不良による残像に近い。それだけの速さをもって、向こうはこちらに飛び込んできた。


 至極単純。


 しかし、その加速はこの場において至極まっとうな手段だ。周囲数十mに広がる嵐を前に対抗できる手段はそれしかない。


 そしてその加速によって、本体を磁石が追いつけないスピードで引きずり回せば、装甲の内部破損によって機能停止まで追い込まれる。


 その推測によるハリヤマ・ネズの身体の反射は、すでにビジョンが出来上がる前に動いている。身体を揺らし、腰をぐるりと回転させ、その動作に引き摺られるかのように熱刀を掴んだ腕が薙ぎ払われる。


 推測通り、その刀身は白い鎧に包まれた体躯を捉えた。ベースボールのインパクトを確信したときと同じような手ごたえを覚える。

 ぶつん、と何か軽い音が聞こえた。そのまま、ハリヤマは体を倒す前に踏み留まる。


 ――斬った。


 振り向きからの横一閃。人的鎧(ヒューマノイド)の速度も相まって、動作開始から動作終了までの速度(タイム)は一秒間のなかの三分の一にも満たない。


 しかし、そこに白い人的鎧(ヒューマノイド)の残骸と死体は転がっていなかった。

 周りにあるのは、周囲を飛び回っている黒いマグネットの群のみ。


 ――外した?


 そんな筈はない。確かに何かを斬った感触は肉体にも伝わって来た。しかし、動作が速すぎたために、何を斬ったのかも認識できていないというだけだ。

 体の軸から腕の先へ、そして刀身へ移動した力は、一体何に当たったというのか?


 その瞬間、ハリヤマは自身の目の前に、何か細い糸のようなものが伸びていることに気が付いた。目視した感じの質は鋼鉄のワイヤーのようだ。それは途中で切れている。切れた糸は、その断面を溶かしたように赤く燃やして待機を焼いていた。


『オイ、マジかよ』


 口に出す。自身の認識が甘かったことを認識する。


 アレは真っ向勝負など望んでいない。こちらがセンサーでも視線でも追い切れないのなら、そのスピードを最大限に生かして逃げ回るつもりか。


 ――そして、その糸。


 見れば、既に自身の黒い嵐の中には数本の糸が設置されている。視界を動かすごとに張られていく糸は増えていく。極限までの超加速と、その急停止から加速に移るまでのスピードが速すぎる。


 すでにアレが飛び込んできてからやく十秒。ハリヤマの周りは蜘蛛が張り巡らしたかのようなワイヤーが無数に張られている――いや、それはハリヤマの周りだけではない。アレは周りの建設物を縦横無尽にめぐり、この領域すべてに糸を張り巡らせている。


 太い通電のワイヤーと、人的鎧(ヒューマノイド)の動きを捉えるためのより細い糸が二本つづ、辺り一帯に仕掛けられている。もはや一種のアトラクションの領域である。


 丁度、ハリヤマ・ネズのAnubisが、キカクという地域において自身の領域を造るように、あちらは建設物に糸を取り付けることで、自らの領域を作成している。


 しかも、驚くべきはその空間把握と認識能力だろう。自身の視界が満足に働かない状況で、自身の張った糸の位置を完璧に把握し、張った糸を時に足場として利用して高速移動を行っている。


『――は』


 短く笑う。それは、乾いているが異常な空気を内包したような笑いだった。


『まるで蜘蛛だなオイ。そんじゃ、巣作りは早くしねえとな』


 言って、その場から一歩動く。


『けど悪いね。俺、そういう健気な動植物みると無性に壊したくなるような子供だった』


 糸を張れば動きが鈍化するのは向こうも同じだ。それに、人体に装備できる糸であれば、そこまで長くはない。少なくともこの一帯に張り巡らせるほどのものしか持っていないはずだ、


 ならば遠慮は必要ない。こちらもその作られた巣に同居するだけだ。


 その瞬間、


『…………っ!』


 息遣いはハリヤマの頭上から。異常なスピードで接近してくる白いモノ。それは鋭利な爪のようなものがついた指を握りしめ、瞬間的にハリヤマの頭上からそれを振り下ろした。


『よっ――と』


 ほとんど反射で、ハリヤマはそれを避ける。アーマーとその拳の距離はわずか五㎝ほど。


『悪いなスパイダーくん、俺蝶じゃないんだ。どっちかっつうと、(おまえ)を食う方』


 拳を外した白い影は、自身の張った糸を踏みつけると、すぐに建物の背後に身を隠した。


 速い。糸を足場にしていることで傍からみれば本当に宙をかけているようにしか見えない。それも現在最速を誇る人的鎧(ヒューマノイド)が、である。


『レトロ映画かっつうの』


 言って、ようやく自身もその糸に足を乗せる。そうして、犬のように足の関節を曲げ、走行の態勢を取る。


 地面が固まっていないため、反動による跳躍は難しい。走る道としても至極不安定だ。


 それもそのはず、糸の上を歩くということは、等しくその動作を糸に一任しているようなもの、一瞬でもその動作を自身に委託すれば、たちまち自身と糸のバランスを見失い。落下する。


 ――何者なんだ、あいつ。


 これは一朝一夕でどうにかなるものではない。サーカスの役者が、長い年月による修練を経て体得するものだ。人的鎧(ヒューマノイド)を纏って運動能力を上げてもそれは変わらない。単純な性能のみの話ではないのだ。それは既に性能を超えている。


 まあ、この理論で言えば、今ハリヤマが行おうとしているのは完全なる無謀でしかないわけだが。


『ま、通常ならだけどな。見せてやるよスパイダー。技術っていうのは経験が一番だが、まずは見て、そして理論を頭の中で構築するものだってことをさ』


 通常、人間の運動は『こうしよう』という意思によって、それがパルスを通じて体に反映される。しかし、それは行って間もない動作である。そも、動作に対していちいち思考を行うというその行為こそが、自身の記憶から、自分がまだ行ったことのない動作を思い出している結果なのだから。


 一つの動作を繰り返し行うことにより、人間の動作記憶は海馬から小脳に移動する。この部位は人間の動作に反応して、ほぼ自動的にその動作を引き出す部位であり、いわば条件反射と言える。一つの芸や動作を極める芸人やアスリートなどは、この『動作を考えなくても行える』状況を作り上げようとする。何故ならそれが人間の動作にとって、それはがもっとも理想的だからである。


『意味なんてねえんだそんなもん。経験則とトータルでは計れねえもんもあるんだよ』


 ハリヤマ・ネズに対して、その現実は通用しない。


 その証明を行うために、彼はゆっくりと足元の頑丈な糸に足を降ろした。


 

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