逃走を許しまして
人的鎧Anubis。
それに搭載されたシステムは、キカク地域に無数に設置された、マグネットコーティングに接続するシステムだ。
通常自動で稼働する機器を、自らの意思で操作するシステム。数々の機器に同時に接続し、その機能として役割をアーマーの意思に従わせ、何千何万という小型ラジコンを同時操作する。それによって、アーマー自体の性能に関わらず、対象を鎮圧化するシステム。
『攻撃による制圧と、自動防御システムを搭載。そんなんアリですか?』
『そんなん言われてもなあ。オレはただ買っただけだ。文句を言われても困る』
言いつつ、彼はこちらに踏み出す。先ほど手に持っていた熱刀をその手に持ちながら。
『それに、それは人的鎧に優位になるように作られてる。造った本人はよほど人的鎧に対しての対抗心を持っていたんだね』
『かもな。つーか当たってると思うぞ、それ』
興味なさげに言って、彼はこちらに歩いて来る。
あー、駄目だこれ。
相手が悪いとかそういう問題ですらない。最初から分が悪すぎる。
さっさと逃げときゃよかったなあ、と今更ながらに考える。
ま、倒せないことは分かった。
というワケで、ここから先は最低限の行動を行うこととしよう。
『Starry sky lightfire field Ⅲ、Ⅳ、Ⅴ』
肩とあばらと腰の左部分が爆発する。瞬間的に真横に移動する肉体は、黒い男から離れ、体に張り付いた機器を吹き飛ばす。
同時三方向からマジ殴りを喰らったような衝撃が走る。
痛いとか痛くないとかで言えば非情に痛い。瞬間的に硬質化するアーマーを内側に纏っているのにこの衝撃はおかしい。まあ、それでも最初よりはマシだ。
まずはあの人物から離れることのほうが先だ。視界の外に行くことを優先に、次に実物的な距離の問題だ。あんなのには半径五㎞以内には入りたくない。
まだあの機器の大群は追ってきている。だがあれにも範囲はあるだろう。あれだけの数を操作する――のかはどうか分からないが、そこまでの有効範囲はないはずだ。それにほら、結局のところ電波だって実物の距離に影響を受けるワケだし。
◆
『あー、逃がしたか。アホみてえに速ぇーなあれ。こっちの磁気じゃ追い切れないわ、あれ』
すごいやる気のなさで高速で走って行く白い姿を眺めるハリヤマ。それは完全にあの人物を追いかけることを諦めていた。
まずは、あの人物が出て来たという事実だけで収穫なのだ。
『ま、あのお嬢さんは近くにいると見て、間違いはなさそうだね。後であいつにも話を聞いてみますか。殺人犯なら一石投じてなんとやらだ』
すでに手は打った。あの鎧に一つ機器を追尾させた。あの分なら気付かれずに追えるだろう。もっとも、それはあの加速を行われなければ、という意味でだが。
Anubisが操作可能な磁石機器の数は実はそこまで多くはない。
最大でも二百というところだ。それが、何千何百という同類を操作することができるのは、ひとえに、彼自身がほとんど操作を行っていないからである。
元々磁気装置のシステムは、複数の磁気をそのままコンピュータで操作するのではない。複数の磁気装置が全体のブレインとなり、電磁誘導によって全体を操っているようにみえるだけのことなのである。先頭の虫のように、本来は単純な動作を複雑なに見せているだけにすぎない。
しかしそれは、原理を知った人間であろうと対処するのは不可能である。
なぜなら、このシステムの長所は、彼個人が操作を行っていない点にある。人の思考でもなきく、システムの動作ではなく、システムの動作によって不測を招くことそのものにある。
ならばこのシステムに対処することは不可能である。本当に攻撃の規模が違う。
Anubisは、キカクという地域にいることでのみ、無敵でいられる人的鎧なのだ。
銃弾であれば複数の磁気機器が周りを飛行することでその起動を曲げ、それを突破したとしても、その先には人類が扱う最強の鎧が待ち受けている。
最悪のケースとしては、周囲の電力と通信を完全に遮断することではあるが、ハリヤマ・ネズという青年がその事態を最大限に警戒しているため、現在ではその危険はあり得ない
仮に、電撃によって人的鎧を破壊する手段を講じたとしても、トップランカーとしての彼の技量は飾りではない。
故に、キカクの中で彼に匹敵できる人間はいない。
そうなるように、そうなる結果を求めた故の人的鎧である。
頭のおかしい技術者に用意させたものは、本当に型破りにも等しいものだった。
相手が電子の敵であれば、強化磁力による電磁により、精密機器の破壊すら可能である。
最強の人的鎧。その中の最強であること。
それが、キカクという地域における、統制を計るものの義務である。
ハリヤマ・ネズの価値観はそう言った物だった。
まずは、目的の家への事情聴取でも行おう、と考え、その場の磁気類を建物の壁に戻す。
キカク地域の景観は再び純白の地域へと戻った。
『といっても、あんまり行きたくはねえんだよなあそこ。あの人ちょっと苦手だし』
言って、歩を進める。奇しくも、最初にアマカワ・フタリが出て来た場所と同じところへ。




