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チャイルズ・ワールド  作者: サイタマメーカ
processingの人員が負傷。故に最強のランカーを向かわせる。
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スカラベじゃなくてよかった

 向こうに、赤い二つの光が見える。それがあの黒い人型の目だと気が付いたのは、それから数秒の後だった。


 音が響く。ごう、とか、ざあ、とか。何か大量のものが、体の周りを飛び回っている感覚。生身で触れたわけではないが、四重もの走行を隔てた振動が、身に伝わっている。


 言いようのない気持ちの悪さが皮膚の表面を伝う。


 まるで、何百匹の虫の群が体の表面を飛び回っているかのようだ。


 幾百の感覚機能は失われている。ざらざらとした感触は精神面が伝えるもののみ。


『――来い』


 造られた暗闇の向こうから声が伸びる。


 その音響は周りの音をすり抜けて。明確に俺の元まで届いた。


 ザア、と何か大量のものが目の前に動く気配がある。


 一瞬にして、周りの暗闇は収縮、元の白いキカク地域の景色に立ち戻る。


 二十m先には、あの黒い人的鎧(ヒューマノイド)が建物に足をついている。


 以前と異なるのは、


 その周囲を、真っ黒な霧のようなものが覆っていることだった。


『っ…………!』


 その異様さから息を飲む。

 黒い人型から発生したのか。向こうの風景を多い隠すほどに巨大な黒霧が、その黒い鎧を覆っていた。


 ――いや、違う。あれは霧ではない。その黒いものは個々に分裂した、極小の何かが、異常なまでの集団を組んで黒い霧に見えるだけにすぎない。


 さながら、個々の虫が何千という集団を形成することで、外的から集団全体をまもるかのように、あの黒い人型を中心に据えて、その周りを何千、何万という数の何かが飛んでいる。


 それは小さな機器だった。


 上部に極省のプロペラのようなものつけた最小の機器で、それが、キカク地域の建物から剥がれて、あの黒いアーマーの周りを飛んでいる。


 キカク地域のすべての建物に付着している機器。それは、建物自体の表面をマグネットコーティングを施す役割を持ち。また使用期限をすぎれば自動で廃棄所に向かっていくシステムを組み込まれた極省機器。人的鎧(ヒューマノイド)の為の電磁誘導による高速化を促すための機械だ。


 しかし、目の前の男の人的鎧(ヒューマノイド)はどう考えてもそういった類の物ではない。そも、電磁によって走る人的鎧(ヒューマノイド)は磁力で摩擦を最小にし、建物の上を滑るように移動する。


 しかし目の前の男が使用しているのは、その機器を宙に浮かし軍勢として使用するという、意味の分からないものだ。


 黒い腕と指が動く。それは指揮者のような軌道を描いて最終的にはこちらに向けられた。


 瞬間。


『――っ、――!』


 何千という機器の群が、こちらに向かってきた。砂嵐のように、黒い大群が押し寄せてくる。


 建物の下に逃げようとするが、そこにはもうあの機器群が迫っていたので取り止める。

 黒い波がやってくる。異常な質量を持って、それは白い建物を飲み込んだ。


『――よ、と』


 不慣れな走り方でそれを躱す。速度は一秒で三十m以上を移動する。

 ざあ、と何百もの最小が壁を擦る音が聞こえる。その速度を持ってしても、あの群の速さでは追いつかれる。見れば、いつの間にか周囲を囲まれていた。


『んじゃ、シャーナイですね――っと』 


 跳躍する。今度は手加減なし、本気で飛ぶつもりの跳躍だった。地面が爆発するような感覚を覚え、俺の肉体は嘘みたいな高さへ到達する。


 目算二十m。それだけの高さに至っても、なおも黒い群は追ってくる。


 その大群の手が足に届く。そうすると一瞬にして、俺の肉体は黒い機器の群に飲み込まれた。


『お――』


 腕と脚、そして視界に機器が付着する。おそらく磁力による付着だろう。途端に重力が加わった俺の肉体は、急速に地面に引かれ、落ちていく。


 腕と脚が動かない。あの周りの機器が付着しすぎて、自分の手足を動かせなくなっているのだ。


 あ、駄目だ衝突する、と思った時には、既に背中から地面に落ちていた。


 ずん、という轟音が、辺り一帯に拡散する。意外にも衝撃はほぼなかった。体中に付着した磁石の機器と、人的アーマーの装甲の恩賜だろうね、きっと。


 動けなくなった俺に、真っ赤な目を光らせながらやってくる、黒い人的鎧(ヒューマノイド)


 そこで理解した。そのアーマーの機能。Anubisと名付けられた人的鎧(ヒューマノイド)の、ミシゲ・ツクリという技術者が作成したそのシステム。


 といっても、この時点で終了である。手足まったく反応なし。というか、電磁気による電子回路の妨害によって、鎧自体が活動を停滞している。


『ケド』


 こっちも立派なゲテモノである、ここでおいそれと捕まるわけにはいかないのだ。


 

『Starry sky backfire field Ⅲ、Ⅳ』


 

 命令する。必要なものは速度。そして体の周りについている有害物質の振り落とし。


 瞬間、視界が弾けた。


 黒い群の中にいた位置から、瞬間的に数十m上に打ち上げられる。爆発箇所は肩と腰。まるで下から撃ち上げられたかのように、俺の体は中を舞う。


『ぎ――、て』


 衝撃は軽減されていたが、それでも殴られたかのような痛みを体に訴える。

 しかし体に付着していた機器はほぼ取れた。空中で姿勢を整える。このままだと自由落下となる。その場合、地面に着く前に先ほどの方法で捉えられて終わりだ。


 仕方がないが、急速に着地する必要があるか。


 

 『Starry sky backfire field Ⅲ、Ⅳ』


 

 先ほどと同じ個所にシステムを使う。アーマーに空いたスラスターに似た穴から推進のための爆発が行われる。紅蓮を纏いながら、視界さえ定まらないほどの速さで、俺は地面に着地した。


 向こうの黒い人物はまだ上を向いている。こちらの動作がどれだけのものなのか、その動作だけで十分に図ることができるだろう。


 例え、あの機械群を意図的に操るという、膨大な計算を行うことがあの人物に可能であったとして、意識の範囲外からの奇襲を避けることはできない。距離三十m。あの人物が対処をする前に、近づきあの脳天を拳で穿つ――。


 右の拳を握りしめ、その方向へ走る。会合は一瞬。一秒も満たないうちに、あちらは俺が既に地面に降り、走り出していることに気が付いたようだ。


 だが遅い。その時点で、俺は既に彼の懐に入り込んでいる。


 ――だが。


『…………!』


 突如、目の前に黒い霧が発生した。まるで中心にいる黒い人物を護るようにして、俺の体にまとわりつく。動きが早すぎる。


 重力による速度減衰によって、突き出した拳は彼の三十㎝手前で停止する。


『おい、マジか』


 それに対して、こともあろうに向こうは驚いたような声を発した。「おいマジか」はこっちが言いたいくらいである。


『おまえ、あの一瞬で移動したのか。待て待て速すぎる。目で負えないどころかセンサーが追いつけなかった。――てか、ホントに冗談だろ。爆発を推進に浸かってるのか知らないが、お前が着地するまでに最初の爆発の炎が消えてない。まったく同時に二つの爆発が起こっているように見えた』

『まあ、ネエ』


 ははは、と乾いた笑いを持たす。一目でそこまで見られてはタネ明かしもクソもない。


『設定ダネ』

『あ?』

『そいつら、にーさんの半径二メートル以内に入ったら反応するようになってる』


 まわりをぶんぶんと飛んでいる磁石を指す。その言葉の意図を彼も読み取ったのか、ああ、と興味もなさげに呟いた。

『おまえだって同じ技術者が作った作品だろ? だったら分かるはずじゃねえの』


 コッワイヒトだなあ。さらっとそんなことを言ってくれるあたり本当に。


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