作成者発見
「――で、なぜその方たちをここに連れて来たんだね?」
そこは中々のスペースのる部屋だった。どうやら自宅の一室であるらしく、ソファや家具といったものが置かれている。その中のデスクの一つ、部屋の窓に一番近い位置に置かれたその部分に座っていた人物は不躾な来訪者に目を向けた。
「あなた、ほとんど直感的に行動したでしょ」
「えー、だってセンセーが廃棄したと言ってる人的鎧がそこにあるんですよぅ? 居ても立っても居られないところでしょそこは。ファンとしては特に」
目の前に離している者達は互いに同じ領分の人間であるらしい。先ほどの彼女の言葉を信じるならば、人的アーマーの開発者、となるか。
俺と彼女は、その一室の客人用と思われるソファに腰掛けていた。
目の前のテーブルには、どう考えても同じ客人であるノウスイさんが、部屋に内蔵されている冷蔵庫から勝手に取り出したオレンジジュースが注がれたグラスなどが置かれている。
下半身の動かない少女は、俺と同じソファに座っているが、その実俺と体一つ分くらいの距離を開けて座っている。
俺が纏っていた人的鎧は、ソファの横の位置に抜け殻のように立っている。こう見ると、完全に人型ロボットの一分の一スケールのようだ。
「だってー、運命的じゃないすかー。センセーに聞いた直後に実物が現れるなんてー。この人達もどこか落ち着けるところを探してたっていうから連れて来たんですよぅ」
「だからってなんで私の部屋なんだ」
「だってセンセー、どうせ夜まで昼寝とかするつもりだったんじゃないすかー。いいでしょスリープは夜でも。それよりほら、自分が作ったものは目の前にありますよ」
彼女、ノウスイと話していた男性は見るからに不満そうだった。俺達のような存在がきたことも、俺の見つけた人的鎧がそこにあることも。
ま、単に物調面の人物なだけかもしれないが。
「で、そちらのお二人が、私が廃棄した人的鎧を所持していた、と。なるほど」
言って、その人物――黒い頭髪をした、白衣の男性。歳の頃は三十半ばか?――はデスクから立ち上がり、こちらに歩いて来る。
近づいてくる軌道は俺達のいるソファーへ。そしてその近くの位置まで来ると立ち止まり、俺達からその人的鎧へ視線を移した。
「自分で廃棄したものが、自分の元へ戻ってくるとは。何の因果だかな」
そんな独り言ともつかないようなことを口にして溜息を吐いた。そうして、人的鎧から俺達に目を向ける。
「初めまして。あの人に連れてこられたんだろう? 私はここで人的鎧の開発を行っているミシゲ・ツクリという。あそこにいる彼女とは違い、細々とアーマーなど造っている無銘の技術者だよ」
「まっさかあ。センセー、それは謙遜が過ぎますよ」
「――あちらの女性の言葉はすべて無視してくれて構わない。それで、きみ達はどこでそれを見つけた?」
まあ、質問が飛んでくるのは当然のこととも言える。
「技術廃棄街で。ぶっちゃけると俺、そっちの人間なのデス」
「なるほど、合点がいった。しかし厳重にロックをかけていたつもりだったが、あれをすべて外したのか? きみが?」
そこまでは言う必要はない。笑って誤魔化す。
「これは、あなたが作ったものなんだネ。で、それを俺達の方に廃棄した?」
「私は、その為にあの街があるのだと思っていたが。人に言えないようなものを廃棄するのに適した場所。その有用性があるからこそ、今日日あの地域が生き延びられているのだろう?」
かもですね、と言う。自分でい言っていて白々しいほど中身のない発言だった。
「チナミニ、この人的鎧を廃棄したのってどれくらい前?」
「さて、二か月ほど前だったか。技術廃棄街に自ら行って棄てて来たんだ。こんなもの、部屋に置いておくのも億劫だったからね。私はランカーではないし、これは売り物にすることもできない。それは、きみが乗って見て一番よく分かっただろう?」
二か月前。それはこの地域で起こった披露宴での事件の前だ。では、このアーマーが廃棄されたことで、これ自体を殺人に使った人物がいたのだろう。
まあ、俺達とは何の関わり合いのない話なのでどうでもいいとして。
「これ、Starry skyだっけ? なんでこんなもん作ろうと思ったの?」
まず、そこからしておかしいのだ。技術者は完成地点を定め、そこに向かう過程で自身の思い通りにならない事情が絶対に発生し、結果的に失敗というなら分かる。
しかしあのアーマーは、どう考えても作成者の目的が紆余曲折の果てに叶えられたものだ。それは、完成する前から理論が破綻していることを分かっていながらそれを作り上げたことになる。
それで結局廃棄したというのは、徒労の果てに対価が発生する仕事ではなく、これはもう完全な徒労のみの作業である。
しかしミシゲは、静かに首を振った。
「理由などない。造る者にとっては、作成対象に意味を見出すことはしない。それが不毛な物であったとしても、その先はあり得ない。私が人的鎧を作るのは、等しく、搭乗者を得たものが跳ね回る姿を見る為でも、不特定多数の人間にその価値を認められることでも、商業面でもない。私は、ただ造るべくして造るだけだ。故にそこに造る理由などない。気づいたら出来上がっていた。それはそういうものだ」
「へえ、理由なんてないから、実質的にその役割が破綻していたとしても、完成させた?」
「そういうことだ」
彼の言葉に嘘偽りはない。彼は本当に、それを自身の信条として作成を行っている。
「まあ、無銘な製作者でる以上、恰好なんてつかないけど。それより――少し失礼しても構わないなら訊きたいんだが。そこのお嬢さんは一体誰かな」
ミシゲさんは俺の横に座っている少女に目を向ける。彼女は彼に目を向けられた瞬間、びくりと肩を震わせた。
ここまで同行してようやく気が付いたことだが、このヒト、キカクの人間には途端に内弁慶になる傾向があるらしい。
「前に見た誰かに非常に似ている気がするのだが。まあ、細かいことは詮索外にしておくが」
言って、彼は自身のデスクに戻る。途中ノウスイが彼の椅子を占領しようとしていたが、彼に椅子から降ろされた。
「なにすんすか、ひっどいなぁ」
「酷いのはあなただよノウスイさん。頼みますから面倒事を私に持ち込まないでほしい」
「なんと失礼な! 聞いた? 自分が作ったアーマーの所為で苦労してる青少年を指して面倒だってさ! いや、もうこうなったら冷蔵庫の中のジュースだけじゃなくてこの人の財布事情まで切迫させてあげましょうよ!」
その場で黙り込む俺と二人。この場でそんな大声を出しているのはノウスイ一人だった。
「あ、そうだ。ね、きみ」
言って、ノウスイは俺の横にいる少女に近づく。はっきりと言えばトータルでノウスイの方が少女より背が低いのだが、今少女は立つことが出来ないため、ノウスイが彼女の上に来る形になる。
「ちょっと車椅子探しに行きましょうよ。ここら辺の病院ケチだから貸してくんないけど、前にあたしが趣味で作ったのはあるから貸しますよ。あ、それか補助筋肉の装置もあるよ。それも趣味だけど。あ、いい? じゃあ椅子だね! よしゴー」
そんなこんなで、彼女はノウスイに肩を貸されながら急ごしらえの車椅子に乗せられ、どこかへと連れて行かれてしまった。彼女の口が何かを言いたそうに動いていたが、まあ、俺には関係のないことなので無視する。
「元気なヒトですネエ」
「まあ、元からあーいう性格なんだよね」
彼は自分のデスクに肘をついて、自らの自室から出て行く少女たちを見送った。




