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チャイルズ・ワールド  作者: サイタマメーカ
技術廃棄街への制圧を一時中止、監視に努める 行方不明者二名
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話し合い終了と変人との出会い

『じゃあ、おまえの意見はどうなんだ』

『はい?』

『それは一般論だ。他の多くが言っているから、その意見に迎合しているだけにすぎない。じゃあ、おまえは、おまえは、この現状をどう考えている』

『ナニソレ? 学生の論文? 変なことをきくよねきみも。答えは一つだ。そんなん考えたって仕方がない。そこらにいる人間の好きにすればいいと思う。こっちに被害がこなけりゃ全然オッケイよ。悲観するのには飽きたからね。これからは楽観していこうと思う』


 それは、正答ではない。


 いや、正答などありはしない。正しさは人の方針の中でしかなりえない。そして正しさは、他の他人に対しては異常である。


『人間に人間は理解しえない。他人や教育で人間は変えられない。変わるとすれば――』


 それは誰の人為でもない理不尽な事態に陥り、極限状態を強制された人間でなければならない。そこまで行って、ようやく人間は自分の指針を、自分で変革しようと考える。


『個人を見るからいかんのデス。見るなら全体じゃないとネ。――で、おにーさん、いい加減俺達を見逃してくれない?』


 最速でその言葉を投げ込んでくる。ハツカは自身の腕に絡み付いている鉄線を、持っていた熱刀で器用に溶かすと、その腕を自由にして刀を構えた。剣道のような構えではない。人的鎧(ヒューマノイド)の加速の前では生身の足遣いなど意味を成さない。故にその態勢(フォーム)は、熱刀を逆手に持ち替え、自身の背中にそれを隠すというものでしかない。


『話が別だ。それにおまえは、オリガ・カナエを侮辱した』


 あーそういう感じデスカ、と元の口調に戻って白い獅子は言う。その態度は緊張感のない、淡々としたものでまるで自身の危機に気が付いていないようだ。


 ハツカと白獅子の距離は十m。この距離であれば、コンマ数秒で相手の胴体を切断することなど容易い。機能を使う時間も、その余裕も与えない。


 狙うは首。生け捕りを考えていたが、もういい。あの男は生かさない。一息で喉を溶かし切る。その後で、その死体を技術廃棄街にでも送ってやろう。

 初動からトップスピードへ。一瞬で到達できるマシンの足を、ゆっくりと踏込から起動する。


『――、――?』


 しかし動かない。なんだ? なぜ体が動かない?


『――うん、でもまあ、もう終わってるからねえ』


 目の前の獅子が近づいてくる。こちらの攻撃に出るかと思ったが、それはハツカに近づくとその横を通り過ぎ、動かない方に手を置いた。


『はい、お疲れ様。通信してオナカマにでも助けてもらいなサイ。おにーさん一人の力じゃあ、それを解くのは難しいから』

『――なにを』

『糸だよ糸。ほらよく見てください。おにーさんのあっちこっちに引っかかってるじゃないですか。ネットの海みたいなもんだよ。ところどころに言ったりしていると、向こうから気が付かないうちに妙なデータを投げ込まれている』


 ハツカはまだ理解できない。鉄線はすべて躱した。それなのにどうして自身の身体にこんなものが巻き付いているのだ。

 そこで、気が付く。ハツカ自身が利用し、そして躱した鉄線の中に、極細の糸が、緩やかに何十本も絡み付いているのを。


 太い鉄線から鉄線へ、線から線へぴんと張ったものではなく、ゆるやかにその糸は伸ばされている。

 鉄線ではない。それは化学素材で作られた、強化硬度の透明な糸だった。用途は主に建物などの最終的な補強などに使われ、本来であれば束状にして人的アーマーの人工筋肉などにも使われていたその糸。現在はあまり使われなくなったため、そのあまりが大量に技術廃棄街へ持ち込まれたと訊くが――。


『ま――さか』

人的鎧(ヒューマノイド)のセンサは熱探知だ。糸は熱を吸収し、できだけ自身で熱を分解――まあようするに、自身の発熱を抑えようとする性質を持つ。視覚でもセンサにも反応しないなら、簡単に引っかかってくれるだろ?』


 そうして、獅子はハツカの後ろを歩いて行く。


『俺はさっきの女の子を回収してお暇するヨ。じゃあねおにーさん。きみの意見はなかなか面白かったヨ。誰かと真っ当な討論をするのは久方ぶりだ。また会えるなら、次はも少し時間をかけて、香りの強いコーヒーとか飲みながら話そうよ』


 言って、その白い獅子の鎧を纏った少年は、あまりにも緊張感のない楽観な態度でその場を後にした。





『いや面白い人だった。キカクにも、あのような子もいるのだね――と拙い拙い』


 口調が変わっている。あのヒトの前じゃ違和感がないように立ち回らなくては。


 と、いうワケで一人のおにーさんに付き合ったあと、地面に置き去りにしたあのヤンキーおねーさんの元に戻ることになった。


「…………っ、…………。――――、――――」


 そんなわけで、置き去りにされ、自身の足も動かせない状況で道にうつぶせになっていた彼女は、ものすっごい物調面で白い地面を睨みつけていた。


『…………』


 うわ、近づきたくねえ。


 なにあれ、最悪じゃん。置いてかれたことと、そこから時間を隔てたことで滅茶苦茶に不機嫌になっている。ヤンキーが機嫌悪いとかシャレになっていない。


 まあ、仕方がないので近づくとする。


『や、お久しぶり。どう? 日差しは快適?』


 殴られる覚悟でそんなことを言ってみる。まあ、殴られたところでこちらは強化セラミックの鎧に包まれているので、砕けるのはあちらの拳のほうである。


「――おまえ、無事なのかよ」

『ん? どういう意味?』

「トップランカー。あれをどうやって始末した?」

『物騒なことを言うねおねーさん。始末なんてしてないデスヨ。ただちょこっとお話しをして、お互いに合意の上で見逃してもらったのデス。うん。あのヒト別に悪いヒトじゃなかったね』

「…………」


 むすっとした顔でこちらを睨みつける。いやだなあこのヒト、俺が鎧を脱いだ瞬間に拳を振ったりしないよね?


『で、まあ車椅子はもうないワケなんだけど、どうする? おねーさんをおぶるくらいしか思いつかないんだけど。じゃないとおねーさん動けないんじゃない?』

「――チ」


 彼女は不満げに舌を打って、こちらに手を差し伸べて来た。その手を取って彼女を立たせ、こちらの背におぶる。


『――で、どこに行くか目当てとかある?』

「いや、もうねえよ。というか、いい加減外にいないで室内に入ろうぜ。キカクはこの白い建物の中こそが街の中だ」

『へえそう。あ、でもおねーさんの素顔を隠すものだけは準備しないとね。じゃないとほら、また面倒なことになりかねないから』


 とりあえずどこかに入るか、と思った瞬間に、目の前に人が見えた。


『あ、人だ』

「――珍しいな、キカクの地上に出てくる人間なんて本当にいないはずなんだが」


 見えたのは後ろ姿。子供のような体躯で、俺と同じように茶色の髪を一つに束ねている。そして周りの白い外見に埋もれるように、足元に届くほどの白衣を纏っていた。


『どーする? ダメ元で話かけてみる?』

 言いながら、目の前の人物に近づく。白い道を一人で歩いているその人物は、日の反射を受けてふらふらと歩いている。まるで一昔前の麻薬の中毒症状のようだ。


「おい」


 ごつん、とこちらの、頭を背にいる彼女が小突く。


「勝手に進むなよ。私の指示もなしに動くんじゃねえ」

『おねーさん、猛獣使い? ま、いいケド』


 言って、更にその人物に近づく。俺の纏っている鎧は足音を極限にまで抑えられているため、目の前の人物は気が付かない。


 ――仕方名がないか。


『あのー、スイマセン』


 その、電子音に変換された声は向こうの人物に届いたようだ。


「あ、はいぃ? ――あ」


 向こうの人物がこちらに振り向く。その人物はこちらに振り向くと、何か信じられないようなものを見たかのように目を見開いた。

 そうして、俺のおぶっているヒトの顔を見てもう一度口を開いた。


「――あ。あれ?」


 そうして、その人物は首を傾げた。よくみると女性である。年齢のほどはまったく分からないが、その服装はどう考えても子供のそれではない。


「ん? あれ? どゆこと? ん?」


 本人は混乱しているらしい。そうして数度頷いた後、俺のおぶっているヒトから目を外すと、何故かこちらをじっと見て来た。

 混乱するのはこちらの方だ。どういうことだろう。まず、俺の外見は今人的鎧(ヒューマノイド)に包まれている。そんなものを凝視してどうなるのか。


「お」


目の前の女性は、不自然に、その表情を変えた。


「お、おおおおおおおおおおおおう!」


 何かこちらには伝わらない興奮を口にする人物。分からないのは、その興奮は俺の背負っていた人物ではなく、俺の纏っている外見に対してのようだった。


「マジか! さっき訊いたばっかのが目の前に現れたぜ! なんだこりゃ、奇跡か! オモシレエ。いやマジでオモシレエ! 最高っすセンセー! あはははははは」


 何が面白いのか全く俺達には分からないが、一人でに白い地面を千鳥足で近づいてくる人物。


 あー、こりゃ、またなんか変なのに出会っちゃったらしい。


『見た目とは裏腹に元気ですね。俺のアーマーに見覚えが?』

「ありますよ。だってファンだし。いや、すっげえ嬉しい。なんでこんなのが目の前にありますかね。こっちから探しにいこうと思ってたのに、向こうからやってきました」


 白衣を纏った背の低い彼女は、何かよく分からない言葉を発しながら俺の纏っている人的鎧(ヒューマノイド)を凝視してくる。


「で、おたくら何? キカクの人ですか? あ、違うんですか。え? 隠れるところを探してるって? それならおねえさんに任せなさい! いい場所ってますから! カモン子供達!」


 嫌なテンションだ。こっちがついていけない。


『あー、道案内をしてただけるのはありがたいんですケド。あなたは何ですか? おねえさん』


 ん? と、彼女はこちらに振り向く。


「あたし? あたしノウスイ・ソウフ」


 彼女は、その名前を口にした。


「ここで人的鎧(ヒューマノイド)の開発とかやってます。それよりさ、その人的鎧(ヒューマノイド)、あとで調べさせてもらっていいですかね?」



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