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チャイルズ・ワールド  作者: サイタマメーカ
技術廃棄街――制圧視察
3/110

出勤は騒々しく

 ここ数十年で、世界の教育方針は一変した。


 少し大きな事件が起きたのだ。まあ、酷い事件が起きて、そこから無理矢理に原因を究明し、それに難癖をつけて別の人間が自分の都合のいい態勢を築くのは、昔からの性だけど。


 以前に教育基本法というものがあったが、現在において、もはやそれは形骸化した概念でしかない。以前に目指されたものはなく、その片鱗をもつ人間でさえ、ついには耄碌した人間になっている。


 人間は世代を変えるごとに、全体の世界像も変質化していくものだ。一昔前の人間の差別感が、代を隔てて消滅する、なんていうことは教育が変わる前々から言われていたことだ。


 そして、例え教育が変わろうと人間は変わらない。その本質は変わりようがないのだ。


 変わるものと言えば、その人間が持つ、狭量な現実とかいう偶像が、幾分変わっただけだ。


 だから現在の人間は容赦などしない。

 目的のためにはどこまでも愚直であることになった。


 人間を思いやりましょう。

 人の気持ちを考えましょう。

 他人に迷惑を掛けないようにしましょう。

 困っている人には素直に席を譲りましょう。


 そういったもろもろを排除して、この国は新たな教育制度を設けた。

勉学による基礎教養、及び知的資料の自由観覧権はそのままに、その方針だけを変質した。


 現在は他者と他者が顔を突き合わせて学習を共にする「学校」というものもない。


 コストとエネルギー的に、それがどれだけ効率の悪い方法かを、新しい世代は発見したのである。


 故に学校神話は終焉を迎え、現在は、各人一人が一台のコンピュータから教育という学習方針を受ける形になっている。

 その状況下で、他者のことを気遣う身の振り方などできうるはずもないだろう。


「ま、それが悪いとはいいませんケド」


 距離二百。粉塵にまみれた建物の傍に一体を発見する。


 白い、幾何学的な色彩を放つその装甲は、等しく中に人間の形をしたものが乗っていることを告げており、有機的な質感をもってそこに存在していた。


 頭は丸く、つるりとした円を象っている。顔――と呼べるようなものはなく、それは全範囲、三百六十度を見渡せるパノラマになっている。あれをもって、人的鎧(ヒューマノイド)を纏っている人物はすべての角度からの視覚情報を受信可能なのだ。


 そして、その手には人間が持つ上ではいささか巨大な、大口径のグレネードランチャーが握られていた。それが、あの建物を倒壊させたものだと見ていいのだろう。


 他の装備はそれぞれ、非殺傷兵器とみられるスモークグレネードが腰あたりにパックとなって内蔵されている。おそらく睡眠ガスのような、多量の人間相手に使用するようなものであるはずだ。穴倉に閉じこもった人間に対しては、それを使用し、処理をするつもりなのだろう。


 自前の電子双眼鏡ではその姿を捉えることで限界だ。変わりは別の眼に任せるとする。


「つーか、気付かないといいケド」


 人的アーマーには半径五十mの熱源を探知するセンサーが内蔵されている。

 範囲五十mに入り込んだ時点で、体温を感知され、どの位置にいようと発見される。


 故に不意打ちもだまし討ちも通用しない。熱源センサーと全域の視覚センサー。この二つを合わせて見えないものは、体内か、地面の中のものだけだ。


 まあ、それ以前に、単純に視覚情報から発見されることもあり得るのですし。

 

 そこで、別の視点――監視カメラの映像から、人的鎧(ヒューマノイド)の機体に何かの文字が刻まれていることに気が付いた。


 廃墟内に設置した監視カメラは、すべて俺の所持している通信機器に受信されている。そこから見える視点は、限界はあるが、ある程度の鮮明さをもって見ることが出来る。


「なんだあれ」


 その一点にズームをかける。

 数節の文字が、そこにプリントされているように見えた。


『Et qui sait si les fleurs nouvelles que je rêve

Trouveront dans ce sol lavé comme une grève

Le mystique aliment qui ferait leur vigueur?』


 その文字の列には見覚えがある。前にどこかで見た覚えのある文字だ。


 その時――。


「あ――」

 その文字の刻まれた白い人的鎧(ヒューマノイド)の頭が、確かにカメラに映っているこちらへ、その円状の一部だけが若干斜角を持った部分を向けた。


 たぶん、それこそが奴らの貌なのだろう。全域のセンサでは個人の顔面がどこにあるか分からないから、そういった設計にしたのだ。


 瞬間的に、俺の手にしていた端末の画面から、視界が消失する。

 仕掛けたカメラを破壊された。ほとんど何の動作もなしに、人間の視界では捉えることすらできずに。そのスピードで。


「早いタイプか」


 人的鎧(ヒューマノイド)の種類を確認する。もちろん、俺にアレの名称など分からない。今まで一度も調べようとしたことがなかったからだ。

 

 その場所から移動する。片方の位置は分かった。こちらに移動してくるかどうかは分からないが、まあ、念の為に距離は離しておいたほうがいいだろう。


 もう一方の人的鎧(ヒューマノイド)についてはどこにいるのかが明確ではないが、少なからずカメラを壊した方の近くにいるはずだ。


「タイプがあれなら、いつものでいいよね。現在の所持は、百mか」


 目的の場所まで走る。まずは準備だ。それを終えなければあんな科学技術の産物にただの生物が太刀打ちできるはずがない。それは。最新鋭の衝撃対策をした車に、単身ぶつかっていくようなものなのだから。


 廃墟の構造は把握している。元々ここに住み込んでから五年になるのだ。


それくらいの空間把握は可能だ。


例え百mを三秒で走り得る存在であっても、それに対抗できるだけの逃走ルートくらいは確保している。


 場所の指定は室内。そこで、二匹とも仕留める。


 必要な時間は、まあ、精々が五分というところだろう。


 向こうはこちらには気づいていない。――最高。これで実行は完全だ。


「お小遣い稼ぎといきまショウ」


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