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チャイルズ・ワールド  作者: サイタマメーカ
技術廃棄街への制圧を一時中止、監視に努める 行方不明者二名
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第二の人

 彼が倒れた後で、少年、アマカワ・フタリが少女に言う。


「おねーさん、ものすっごい涼しい顔して不意撃ったね」


 言われた方の少女は、何の禍根もないようにその銃を降ろした。


 その様子を確認して。アマカワ・フタリは倒れた青年に近づく。そして彼の所持品を確認しようとした時点で手を止めた。


「あ、おねーさんその銃の電源落としてくれる? じゃないとこっちまで感電するから」


 彼女は呆れたような顔をして手にしたテーザー銃の出力をゼロにする。それでようやく、彼の体内から電流が消えた。


 しかしそのときにはすでに、ハリヤマの肉体は指先を動かせないほどの麻痺となっている。もちろん、上の子供二人が何をしているかなど分かるはずもない。


「ま、とりあえず彼がその一員なら、通信端末くらいは持つてるはずデショ。中の連中と、外の連中をこれでどかして、そのうちに脱出しましょ。その後のことをことを考えるのはその後なのデス」


 そう言って、彼の衣服から通信の端末を発見し、自身の端末に接続する。病院の地面に置き去りにした自身のアタッシュケースなどを持って、その端末のセキュリティを解析した。


「――あ、これプライベートのほうの端末? それに侵入するのは悪いな。えっと、仕事用の端末は、と。見つけた。――へえ、これあれだ、受話器と送信機のシステムがないやつだ。純粋に脳内から相手に通話を行うヤツ。ハイカラだね」

「――それ、使えんのかよ?」

「僕の脳もそんな風に作ってはいるけど、でも亜スラム限定かな。キカクじゃ使えない。でも、端末を経由して普通に話すことぐらいはできる。で、端末から本人の声を作れれば、ほら、それでもう成立デショ」


 少年が取り出したものは、手に収まるほどの小さな危機だった。

 自身の発言を電子記号に置き換え、それを自動的に登録した機器に送信する機能を持つ通信装置。これも古いものだが、まあ、支給されているのは少し古いタイプと見える。周囲との差別化を図るためだ。


「んじゃ、外にいるヒト達を退かしまショウ」

 




 病院の出入り口を見張っていたProcessingのメンバーは皆一様にアーマーを装着してその場に待機していた。人的鎧(ヒューマノイド)となれば、生身の人間を数百m向こうから捉えることなど用意である。それにこのキカク地域の建造物と街の作りからして、そんなものは逃がすはずがない。無限につづく十字路。ほとんど直線として作られているその道は、人的鎧(ヒューマノイド)のための道だ。


 しかしそこから先に来たものは、荒唐無稽な命令だった。


『撤退。各人即時撤退だ』


『あぁ?』

 これには、さすがのメンバーも疑問を感じずにはいられない。否、というかまったく、話しの筋が見えてこない。


 彼らをここに徴収したのは他でもない、通話の人物であるハリヤマである。そのハリヤマ自身が急に気を変えたかのように「戻れ」というのはどうなのか。


『おい、理由を言えよ理由を。その発言じゃあ、何が何だか分からないぞ』


 苛立ったように、構成員の一人であるハツカが口を開く。


『いなかったんだよ。どこにも。だから目撃情報も見間違いだったんだろ。これ以上の徒労は無駄だ。だから戻れと言っているんだよ。オレ達はこんなことに時間をかけてていいのか? 無駄と分かったなら、次の仕事のことを考えろよ。今日は、大事な仕事があるんだろうが』

『…………』


 各人の口が閉じる。なんだこれは。いや、口調は今まで通りだ。声も変わりはない。それなのに、何かおかしい。


 この人物は本当にハリヤマ・ネズなのだろうか?


 雰囲気が何か違う。いや、違うというよりは近いというべきか。常人では分からないわずかな違和感が、ハリヤマという青年を知っている彼らにとって明確な不信感に変わっていく。


『分かった。おまえの言う通りにするよ、ハリヤマ。キカクの一八―二八―六三の建物の上にいるから、用が終わったら来てくれ。で、指示をくれよ』

『了解。おまえらこそ、切羽詰って変な行動を起こすなよ』


 言って通話を切られた。その口調や切る際の口調は、完全にハリヤマ・ネズのそれだったが。

 通話が切られた後で、人的アーマーformalに乗ったハツカという少年は周りのアーマーを来た少年たちに向き直る。


『――俺と、この中でもう一人はここに残れ。なんか変な感じがする』

『他は楽をしていいってことか?』

『ああ、そうだな。ていうかおまえらよ、俺はリーダーじゃないんだから、俺に従う必要はねえぞ。これはただの提案。訊くか無視するかは勝手に決めてくれよ』


 そうは言うが、このハツカという少年は実質的にはハリヤマがいなくなったときのリーダー代理のようなものだ。誰が決めたわけでもなく、本人も乗り気ではないが、自身がそういった役割をしなければ組織が機能しないということで買って出ている。


『あ、でもいいや。おまえら待機。見張りの継続は俺だけでやる。三十分経ってもリーダーさんが来ない場合は本人に連絡。それでも駄目な場合は迎えに行けよ。手間のかかる隊長さんを』


 それを聞いて、彼の傍にいたformalは一斉に建造物を駆けていく。その様子を後ろから見守った後、ハツカという少年は目前の白い建造物を視野にいれた。


 病院の中には後二人、ハリヤマと同じように侵入した者がいるが、それにもあまり期待はしなくていいだろう。そこにさきほどのハリヤマが通信をしたのかどうか分からないが、少なくとも、あの二人はその通信を信じてしまう。そして病院施設からまんまと外に出てこちらと合流を目指す。


 もし、仮にさっきの通信の人物がハリヤマではなかったとしたら、それは彼らがあの施設内にまだいるということ。そしてハリヤマが危惧したとおりに、その人物達はなんらかの後ろめたい事実があるということだ。


 オリヒメの件にしても無関係ではないだろう。


『まったく、ずいぶんな馬鹿だ。ラトも偽の通信を受け取ったのなら、気付いてもよさそうなものだが。ま、でもあいつ気付かないだろうなぁ』


 悪態を吐く。まあ、そんなことをしてもどうしようもないのだが。

 他の人員の手を借りるまでもない。元より向こうは、情報が正しければ人的アーマー二機を単身で破壊している。そんな人物に何人で挑めばいいのかは不明だが、これから大仕事だというのに戦力を下手に減らすわけにはいかない。


 それに、我らがリーダーがこの際は撃退されたと、見ていいのだから。


『オリヒメ――か』


 リーダーはまったく興味がなさそうだったが、ハツカと他のメンバー違う。彼らは元々キカクの方針に賛同したから治安委員会に入ったのではない。


 ただ彼は、キカクという地域の実態を知りたいが為にこの地位についたに過ぎない。キカクを盲信していないからこそ、その実態を冷静に、そして自身の基準ではなく、人間の基準として図らなければならないと思っていた。


 それが、今から五年前。ハツカが十三歳のときに抱いた感情だ。


 そして現在、その裁定は明確かしつつある。人間の基準からいって、このキカク地域は破綻している。都合が悪くなればこのような兵器を持ち出して事態の収束を行うなどという行為は、完全に時代に逆行している。出動は治安委員会という期間と、一部の統括者によって行われる。キカクからはずれた人間に欠ける慈悲などどこにもなし。


 だから彼は、いつしかキカクという集団を信じることを辞めていた。人も態勢も、その心情も、すべては歪んた人間による思考の塊だと思うようになった。統括者にしてもそうだ。


 その中で、ハツカが感じた確かな「正」の形を体現していたのがオリガ・カナエという、一人のガキ臭い少女だった。


 ハツカから見て、彼女は見た目通りのガキだった。口にする言語も、発言も、すべては一人の少女の理想にすぎない。なまじ自身の能力が高すぎるから、その荒唐無稽を実際に幾つか実現したというだけの少女なのだ、あれは。


 しかし、たった一人の矮小な存在が、どうしてそこまで無理難題に衝突し、自身の身を滅ぼしてまで活動を継続しようとするのか、その一点だけがハツカには異質に見えた。


 まるで物語に登場する聖女のようではないか。そんなものが現実に存在していいはずがない。

 一度キカクの体制に飲まれていたハツカにとって、その姿は異常なほどに輝かしく見えた。


 気が付けば、彼は彼女の意見に同調するようになっていた。それは、若さだけで彩られた、簡単で簡潔かつ、明瞭な正義を示すという、馬鹿げたものだったが、ハツカはそれに憧れた。


 しかし、その理由分からない。ハツカは現実主義者である。青年の誇りや、少女が提唱する馬鹿のような夢物語に付き合うつもりはまったくない。なのに、なぜあの少女の馬鹿のような提唱にはあそこまで賛同できたのか。


 もしくは、あの少女の容姿に見惚れていただけなのか。そうであるならば、彼は自身の醜悪さに落胆せずにはいられない。それは、彼女に対しての最大限の侮辱である。


 彼女の死亡を聞いた時、それは一種の納得と、キカクというフィールドに対する際限のない失望を彼に与えた。そして、それに納得してしまった自分に更に失望した。


 俺はキカクの人間だ。疑問を持ったとしても、それを行動に移すことはできないのだ。それは、自身の中にキカクという態勢が嫌というほど染みついているから。


 ハツカはハリヤマ・ネズのようにはなれない。彼はその異常を飲み込んで、それを「大したことのないもの」として片付けている。苦しむことを知らないのではなく、自身が苦しまないようにその毒を調節しているのだ。つまりは、見ないフリをしている。だからこそ、アレは理想的なリーダーで有り続けられるのだ。


『――もうじき来るか?』


 頭を振って、余計な思考を振り落す。そんなものは今は不要だ。


 彼は、中から出て来るであろう標的に、自身の鎧の機能によって探索を始めた。

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