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チャイルズ・ワールド  作者: サイタマメーカ
技術廃棄街への制圧を一時中止、監視に努める 行方不明者二名
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病院は出会いです。…………不吉との

 子供同士の口約束のようなもので別れを済ませ、談話室を出る。


 車椅子の少女はこちらを待っていた――わけではなく、この階に降りて来たという人物に警戒をしている様子で止まっていた。


「たぶん向こうにいるのはProcessingだ。追ってきたやつらって言えば、そいつらしかいない」


 元の口調に戻って彼女は言う。

 まあ、そうなのだろう。わざわざここにまで追跡してくる人物などというのはたかが知れている。そして目的は間違いなく彼女の顔にあるだろう。殺害された統括者、オリガ・カナエに瓜二つの彼女自身に。


「まあ、そうなんだろうねたぶん。キカクの人に関わるとロクなことがないワ。んー。ま、俺の顔は見られていないワケだし? いざとなったら俺だけ逃げるってのもアリですよねー」


 じろりと少女がこちらを睨んで来たので口を閉じる。このヒト威圧感ハンパネェ。


「で、どう上に行ったものかしらね。おねーさんの椅子、階段を上る機能まではついてないんだけど。どうやってもエレベーターで行くしかないカナ」


 目標を定める。地上へ向かうエレベーターまでの距離は大方三十m。そのProcessingのヒトがいるのは、今はその前だろう。どうにか彼の動きを読みつつ、反対方向からそこに乗り込みたいのだが。


「ま、彼を通過しても、たぶん外にいっぱいいるからアウトだよねー。この建物、別の建造物と地下で繋がってないし。うーん、どうしようかネ」


 今そこに一人。上にも人員はいるだろう。だがそれ以上に、この建物から出た後にProcessingの皆さんが待機している。

 しかも、こうやって立ち止まって悩んでいても、事態は悪くなるばかりである。


「例えこの先にいる人をすり抜けても、エレベーターが都合よく来るはずがないしなぁ」


 そこで、横にいる少女を見る。彼女は椅子に座りつつ周りの足音に入念に耳を澄ませていた。


「よし、仕方ない」


 諦めの言葉を口にする。


「みつかならない方法は諦めよう」

「――は?」


 隣の少女から怖い顔が形成される。


「なんだそりゃ、おまえ、ふざけてんのか」

「まさかデショ。俺の命の危機かもしれないのにそんな余裕ないっす」


 彼女の先頭に立って、帽子を被ったその貌に問いかける。


「ねえおねーさん。ここはひとつ、おねーさん自身が囮になってくれない?」





 ぽーん、と旧式な音を響かせてエレベーターが開く。


 そこは地下第三病棟。医院の安全性を確立する為に作られたそこは、重大な患者を収容する場所などではなく、単純に脳や脊髄といった、精密な技術が要求される手術が行われるフロアだった。


 小さな箱から出て左右を見回す。案の定、オリヒメと思われるような人物はなし。


「しまった、気づかれたか」


 しかも割と広い。壁に取り付けられた地図をみて呆然とする。地下だからといって侮っていた。ここからたった一人の女性を探すのは結構な労働である。というか、あちこち探しまわっている内にどう考えてもすれ違いになる。


「自分の脚で探すのは面倒だな。あ、すいません看護婦さん。もしかしてこの階から上に上がる方法ってエレベーターだけですか?」


 ハリヤマは道を通りすぎる女性に声をかける。彼女は「なんか変な事訊いてくる人がいるなぁ」といった顔をした後に、丁寧に病院の構造を説明してくれた。



「あ、エレベーターだけですか。え? 非常用に階段が一つある? あーそれはどーも。あ、あともう一ついいですか? さっきここに入っていった、帽子を被った患者さん知りませんかね? こう、なんか昔の外人さんが被ってたみたいな――山高帽? みたいなのを被った人なんですけど。知らないですかね」


「はあ、それなら診察室に入って行ったと思いますけど。あ、でももう出たのかな。お聞きしてきましょうか?」


「あー……、いいです。そこまでしてもらわなくてもこっちで見つけるんで。すいませんね時間とらせて」



 彼女は最後までハリヤマを訝しむような目を向けた後で、自分の職務へ戻って行った。


 なんというか、仕事でもないのにここに来ているハリヤマとしては、ここで問題を起こせば言いわけはできないという事実を実感しつつ、彼女の警戒は正しいと判断する。

 ハリヤマはどうみても患者ではない。


 この病院はあらゆるコンピューターやプログラムの介入も許さないように作られている。最強の防犯システム、通信をしないというその一点において、この病院はデータ的な攻撃は受けない。同時に、この施設に入った時点で、あらゆる凶器は作動しないようロックがかかり、刃物などの凶器は入り口にはいった時点でベルが鳴る。


 そこまでのシステムをしても防げないものがある。それは人間の暴力。人間の四肢を用いた暴力で人を殺傷することは、この病院においては唯一、可能な殺人なのだ。


「ま、最悪その手段も講じておくか――と。どこから行くか」


 きょろきょろと辺りを見回す。挙動不審な人物として患者に警戒されないようにしなくてはならないが、現在自分がどこにいるのかもわからなければ意味がない。


「まー、そこは気の持ちようか」


 ハリヤマにとって、彼女は絶対に見つけなければならないわけではない。どちらか言えばこれはおまけの活動に近いのだ。ハリヤマ自身が言った通りに、これは気楽に頑張るということでしかない。


 立ち止まっていても仕方がないので歩き出す。向こうはこちらの情報をほぼ持っていないはずだが、まあ、情報があれば分かるだろう。


 Processingのリーダー。ハリヤマ・ネズ。キカクの事情に触れた人間ならば、顔と名前くらいは知っていて不思議はない。それはあくいまで、彼女自身がキカクの事情を知っていた場合に限り――だが。


「くだらねえ」


 自分の考えに悪態をつく。


 それは、彼女のことをオリヒメと特定しているようなものだ。まだ確証が得られていないうちから追い回している時点で、それは確証を得らえていない。


 まあ、スラムから戻ったのだとすれば、その保護は彼らProcessingに任されていることになるので、強ち間違っているともいえないのだ。


 何にせよ、さっと点検し、それで見当たらないのが一番いい。


 それが、事件や問題が大嫌いな、ハリヤマ・ネズという青年の価値観だった。

 問題の発見と解決を職業にしながら、その問題を極端に嫌う矛盾論者。


 だからこそ、彼はProcessingという行動派の治安組織のリーダーに属している。決して年功序列でリーダーに押し上げられたのではないのだ。


「じゃ、まずは聞き込みから――」


 そう、人探しの初歩を踏もうとしていた彼の眼に、あまり映ってはほしくないものが映りこんだ。


 それは、一つの、無骨な椅子に座り込んだ人物だった。


 見るからにデザインがおかしいが、一応車椅子として機能している。しかも、本人の意思によって動作するようになっているという、そこだけは高性能な謎マシンだ。


 その椅子に乗っている人物は、山高帽をかぶっていた。眼もとはそれで隠されているが、性別がどちらなのかは明確に分かる。


 その人物の服装は、キカクの中にある治安委員会、その若年員に配給される女性用の制服を着ていたからだ。服装だけで男性、というのはありえない。そもそもあれだけの細い体躯の男は、いない――とハリヤマの直感が告げている。


 目標人物発見。早々に見つけた人物に対し、ハリヤマは一瞬思考が停止する。



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