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チャイルズ・ワールド  作者: サイタマメーカ
技術廃棄街への制圧を一時中止、監視に努める 行方不明者二名
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リトルピープルとの別れ

「うん。だから僕が今動けない状態にあるんだって。だからこの病院にお世話になってるわけ。結構いいよここ。食事おいしいし、図書館は充実してるし、患者と医者の雰囲気も悪くない」


 言って、髪の長い人形は椅子から椅子へ飛び移る。


「見たところ健康みたいだけどネ、マイリさんは」

「色々事情があるのさ。で、僕はしばらくここに籠城するから、その子のケアあなたがやっていただけないかと言ったわけなんですが。あ、もちろん報酬は容易しますよ。あなたが欲しいといったものなら、まあ、大抵の物は容易しましょう」


 言って、彼は妖しく微笑む。――それは人間の顔ではない。ヒトという種族を魅了し、ヒトの形を取っているだけのナニカの顔だ。


「欲しい物ネ。別にないけど。強いて言えば、今のキカクのスラムへの攻撃を中止してくれマスカ? なーんか、今回ばかりを本気でスラムを潰しにかかってる気がするのヨネ」

「うん、僕が今ここにいるのはその理由だ」


 モモタビはまた、別の椅子に足を乗せる。見た目的には面倒なガキが病院の施設で悪ふざけをしているようにしか見えないが、その口から出ているモノは人間の悪質の権化である。


 まあ、その姿を象っているからには、その身の振り方は間違っていない。古来人間を魅了し、崩壊させてきた存在は、大方の物がその身振りからだったわけだし。


「今、このキカク地域では少し面倒な事件が起こっている。フタリはご存じ?」

「え、現在進行形? それなら知らないケド。俺スラムの人間だし」


 はあ、と、傍にいた少女から明確に失望とも呆れ共つかない息が漏れる。このヒト、俺がスラムの人間であること自体が不満なのかしら。


「チープ。そんなあからさまな反応しないでもいいでしょ。ごめんフタリ。この子はちょっと、スラムに対して偏見みたいなものがある人だから」

「気にしてないよ別に。技術廃棄街の人間がそんな目で見られてるのは自明だしね。それよりも、キカクで起こってる面倒な事件って何ヨ」


 ふむ、とモモタビは呟いて、俺の目の前にある椅子に移動する。もちろん裸足、座るのではなく立ち上がっての態勢で、である。


「統括者狩り、かな」


「ハント?」

「そう。どうやら、今の僕らが布いた体制そのものが気に食わない人間がいるらしくってね。その人物が統括者の人命を狙っている」


 そう口に出された瞬間、彼に目を向けていた少女の表情が明確に変わった。なんというか、何か痛々しいものを見たかのような、そんな悲痛な表情をしている。


「で、オリガ・カナエが殺されたのがその筆頭だったと?」

「そう。彼女は最初の被害者だった。僕らはそれで確信したんだ。誰かが、僕らのことを潰そうとしているとね。幸い、今その被害にあったのはオリガ・カナエだけだ。それ以降、彼女の他の統括者の被害は出ていない。現状だけどね」


 彼は意地の悪い顔をして、少女の方へ目を向けた。彼女は、おもむろにそれから目を背ける。


「彼女の死に直面した人間はすべてで二千人だ。午前十時二十七分十三秒。彼女は統括者としての職務を遂行するために、とある会場に来ていた最中だった。いつもなら付いていたSPは会場のセキュリティを信用して約三分ほど外していた。そしてその三分の間に――」


 刺された。そして失血死。実に分かり易い。疑いようもないほどに明確な死因だ。


「行った犯人は逮捕された。その会場にきていた、報道陣の女性だったよ。分解した刃物をカメラの部品に見立てて会場を突破し、手洗いの個室でそれを組み立てた。そして報道陣として彼女に走って近づき、他のレポーターを押しのけて彼女に接触。腹部に刃物の切っ先を入れた」


 何が面白いのか、彼はキシシとそこで笑った。少女は、ただ気まずような顔してそこに立っている。――見れば、なぜか自身の腹部を指で軽く撫でていた。


「で、その人は逮捕されたんデショ? なら何も危惧することはなくない?」


 モモタビは、そんな馬鹿丸出しの質問をした俺に対して笑いかける。


「そうだね。本来は。でも彼女が名乗った名前が問題だったんだ」


 統括者、オリガ・カナエを殺害した人物は、名前を『復元身体』と名乗った、という。


「フクモト・カラダ?」

「そう、それが彼女の証言だ。もちろん、彼女の本名は違った。けど彼女は、自身の肉体が死亡するまで、頑なにその名前を名乗っていたよ」


 それはまあ、何か不吉なハナシではありますが。


「それとあんたらの危惧と、何の関係が?」

「一月前に起きた、人的鎧(ヒューマノイド)の博覧会襲撃事件。フタリはご存知かな」

「あー、それなら知ってる。あれデショ? 一人のランカーが会場に侵入して滅茶苦茶したっていうアレ? 被害総額がとんでもなくて、技術者みんなが迷惑したっていう」


「そうだ。そしてその犯人も逮捕された。人的鎧(ヒューマノイド)は見つからなかったけど、でもその当人は特定できた。そしてその人物は、自身の名前を『復元身体』と発言した」


 ――なるほど。それで。


「マイリ達統括者は、自身の狙っている集団的な人物達がキカクの中にいることを特定した?」

「そんなところだね――と」


 そこで、彼は俺達の背後――からその上部。病院の上を見上げて、呟く。


「来ちゃったか。まあ、打倒な時間かな」


 何か納得したようにつぶやいて、彼は椅子の上から飛び降りる。それでようやく、彼の小さな体躯がこちらの目線より下に来るようになった。


「なのでまあ、僕は今ここから出られない。医療機関っていうのは、あらゆる武器がロックされるから、案外安全なんだ。僕のSPなんかもいるわけだけど、それもこの状況下じゃ信用できないしね」


「どこの誰とも分からない奴が、いつマイリを襲いに来るか分からない?」

「そーゆーこと」

「で、おねーさんの方はどうして病院に置いておかないの?」

「そりゃ顔が割れてますもの。僕は統括者ではあるけど、人形の身体を脱ぎ捨てられるからね。いくらでも逃げられる。でもその子は違う。僕が用意したとはいえ、完全な生身だ。現に、その足がいい証拠だろう?」


 言って、彼は椅子の上からぶら下がっている彼女の脚を指す。

 少女自身は、それに対して睨むという行為で反撃した。


「その子は逃げるしかない。でもその様子じゃ、一人での逃走はできない。だからフタリに頼むんだ。彼女の身の安全を保障してほしいってね」

「なーんか駒扱いされているようで釈然としませんが、ま、いいでショウ。分かりマシタ。でも期間を訊いていないなんだけど、それっていつまで?」

「そうだね。彼女の様態が回復するまで――は行き過ぎか。この騒動が収束するまで――」


「待った。勝手に話しを進めないで」


 そこで、彼女が俺とモモタビの間に割って入る。


「私の所在は私が決めます。モモタビ・マイリはそこに干渉しないでいただきたい」

「んー? 別にいいよ。僕の助けはいらないならいらないで。君の治療費を一体誰が払うのかは、甚だ疑問ではあるんだけど。何か作戦でもあるのかな?」


 彼女は舌を巻いて、その場で顔を下げてしまった。


「と、いうわけなので、フタリ、彼女をお願いできるかな。治療費はまあ、こちらで払っておくからさ」

「まあ、そういう運びになっているなら何も文句は言いませんが」


 あの治療費は馬鹿ならなかったし。そういう都合でお金が浮くのはありがたい。


「どこでもいいから彼女の身を隠せる場所を探してくれ。キカクの中じゃ危険かもしれないが、それでもスラムよりはましかもしれない。――と、うん、お二人さん」


 そこで、モモタビは談話室の向こう側を凝視して、口を開いた。


「君達を追ってここに入って来た人間があと数分でこの部屋にくる。申し訳ないが、この病院からの脱出を行ってくれないか? 手引きはするよ」


 彼はそう言って、俺に一つのトランシーバを渡してくる。衛星経由で他国にまで届く、という触れ込みの、長距離通信装置だ。携帯電話などのシステムとは違い、特定の社のプロバイダを経由しないということで、主に秘密の通話に使われることが多いという、本当に馬鹿みたいなものだが。


 ――こういうのに限って高いんだよね。


「チープ。帽子は深くかぶっていてね。見つかっても動揺しないように」

「……ワカリマシタ」


 ほとんどカタコトのようにそう呟いて、彼女は自身の長い髪をすべて帽子の中に隠し、帽子を目深にかぶって目元を隠し、そうして電子の車椅子を動かし始めた。


「ね、あの子本当になんなワケ? オリガ・カナエの影武者?」

「それに近いかな。でもただの偽者じゃない」


「ところで、きみはどうするノ? モモタビ・マイリ」

「ここに隠れているよ。それで、あなた達の動向を、この病院を出るまでは見守らせてもらう」

「いい観客だネ。チケットはいくらかな」


 そう言うと、彼は談話室の向こうで車輪を止めている少女に指を向けた。


「早く行ってあげて。あー見えて彼女、結構寂しがりだから」

「ほいよ。そんじゃ、また今度会いまショ」



「うん、また今度ね」



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