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チャイルズ・ワールド  作者: サイタマメーカ
技術廃棄街への制圧を一時中止、監視に努める 行方不明者二名
23/110

病院って大変ですね

「この中だよ」


 そういって、一人の私服姿の少年が指を指した場所は、キカク地域の片隅にある、地下医療施設だった。


 その様子を見ていた彼、アーマーを外したハリヤマは目を細めて溜息を吐く。


「いや、この中だよ、とか言われてもなあ。この先に入れって?」

「ま、医療機関のなかで暴れるのは拙いと思うが」

「思うんじゃなくてそうなの。ここからさきは人的鎧(ヒューマノイド)の侵入できないし。今のアーマーなし組で入るなら問題はないんだけど。――ラトくん、ホントにここなの?」


 医療機関を指さしたラトという少年は、わざとらしく敬礼をする。


「あっそう。いいよ、じゃあ他のアーマーあり組は病院の出口の見張り。間違っても医療機関に傷はつけんなよ。で、なし組は中へ。携帯銃器は発砲制限がかかるから、そのつもりで」


 彼らが所持している銃器は対人用のテーザー銃である。それもコンピューターを用い、より相手を迅速に無力化することを目的としたものだ。


 ただしこれにも欠点はある。この銃器は特定の場所へ入るとその機能にロックがかかるように設定されているのだ。故に、この医院の中も例外ではなく、ロックがかかるように設定されている。厳密に言えば、トリガーを二度しか引くことができなくなる。


「ま、拙くなったら退避な。仮にもスラムの住人なら、そいつは人的鎧(ヒューマノイド)を退けた奴かもしれん」


 事実、キカク地域から偵察を行った人的鎧(ヒューマノイド)が、スラムに入った途端に行方不明になる、などという話しは珍しくない。今まで人的鎧(ヒューマノイド)の紛失数は全体で八十一機。これはもう、どう考えても偶然の数値ではないだろう。


 この理由から、技術廃棄街というスラムに在住している人間は野蛮で暴力的であるという見識がキカクの住民には浸透している。無理もないことだが、教育上のシステムにまで組み込むというのはどうなのか。二十歳前後のハリヤマには判断のつかないことだが。


「病院は地上一、二階の、地下三階まで。じゃラトくんたちは地上二階。オレは地下三階まで見るよ。逃げたりしたら援護はアーマー組よろしく」

「地下はおまえ一人でいいのかよハリヤマ」

「ああ、だって一人のが気楽だし。ま、それにそこまで危険なことでもないだろ。気楽に頑張ろう気楽に」


 言って、彼は建物の内部に入って行く。その白く、均等化された室内は、隠していても明確に分かるほどに薬品の匂いに溢れていた。


「なんか、やっぱりオレこの匂い苦手だ」


 薬品と規則的な消毒液の匂い。そして視界全体に広がる白い壁と天井。何千人もの人間が足を踏み入れたと見えるタイルはすでに傷にまみれてはいるが、不思議と不潔感はない。


「とりあえずは両サイドからの攻めでいきますか――と、君達。勝手に行こうとしない。まずは病院に話を通してからだよ。ほら戻った戻った」


 勝手につかつかと上の階に行こうとした無礼者共を呼び止め、ハリヤマは病院の受付へ行き、事情を説明する。そうしてしばらくしてから少年の方へ戻って行き、指で丸を作って見せた。


「許可はもらえた。でもオレ達みたいなのがいたら患者さん方への悪影響になるから二時間で出てってくれってさ。早く済ませるよ」


 少年の一人は一階へ、もう一人は二階へ向かう。その姿を視野に入れた後、ハリヤマはもう一度受付へ向かった。


「あーえっと、すいません。ここにあのー、オリヒメさん? みたいな人が来ませんでした? あ、来た? どこへ行きましたかね。下? 分かりました。何階か分かります? 三階? 分かりました。どうもご親切に。患者さんと職員さんにご迷惑はかけませんので、ですぐに退散しますんで、それまでどうかご容赦」


 そう言って、地下へのエレベーターのスイッチを押した。

 その場に取り残された受付の女性が二人、その様子を見てから口を開く。



「あれ、何?」

「さあ。警察の人? えーと書名書名。Processing? え、マジで? 若かったけど」

「若かったねえ。まだ二十歳?」

「はーん、変なもんでも入れちまったかね。私たち」

「いや、わたしたちは従順に職務に従っただけだし。何の責任もありません」

「ま、本当に拙かったらあの子がなんとかしてくれるんじゃね」

「あの子も変な面倒起こしてくれなきゃいいけどね」


 そんなことを喋りながら、彼女達は下に進んでいくエレベーターを見送った。



 対して、小さな上下に動作する個室に足を付けていたハリヤマは自身の乗ったエレベータが落ちることを想定しながら、できれば面倒事が起きなきゃいいなぁという期待をしていた。


「抵抗とかしてほしくないな。怪我とかしたくないし。最悪この後の仕事の方がオレの本職なわけだし。まあ、抵抗されたらさっさと逃げてこよう」


 そんな計画とも言えない計画を立て、ハリヤマは自身の扉が開くのを待っていた。





「その子の名前をあなたは知っていますか? アマカワさん」

「いーや、知らんデス。つか、言ってくれなかったし」


 病院の地下三階。そのなかの談話室に俺達は徴収されていた。適度な広さの部屋に無造作に椅子が並べられたその部屋は、ネットもなければモニタもないという、ある意味ではこの病院の体質そのものを現しているような造形をとっていた。


 幾つもの椅子の上の一つ。そこにわざわざ足を乗せて立ち――我々との慎重さを埋めようという魂胆だろうか――をしている少年、モモタビ・マイリはにやりと笑って俺達に笑いかける。


「名前はね――と、教えていいかな、チープ」

「…………」


 彼女は彼女で、モモタビという少年を睨みつけている。その様子を見て、モモタビ・マイリは肩を竦めた。それはその小さな外見に似合わない、老齢の人物のそれだ。


「ごめんフタリさん、彼女は言わないでほしいらしいです。ま、言ったところで意味はないので、気にしないでください」

「――ソウスカ」


 まあ、訊いたところでどうでもいいので、別に知りたくもないのだが。


「名前を教えてくれないのか。じゃ、彼女は一体なんなの?」

「彼女は僕の秘書官だよ。で、必要だったからキカクの治安委員会のcleanに行ってもらってたんだ。で、まんまとあなたに仕留められた」


 何かうさん臭いのだが、ここは納得しておくことにしよう。


「それで、マイリくんの秘書官がこれで戻って来たワケね。じゃあとりあえず彼女、引き取ってもらうってことでオッケイ?」

「うん、最初からそのつもりだよ。――あ、でも今の状態じゃあ、ちょっとあなたに彼女を預けなきゃならないかな」


「えぇ?」


 続けざまにトンデモネー面倒事を言ってないかこのヒト。


「僕も少し、今は動けない状態なんだよね。なんで、彼女のお世話はフタリさんに頼むことになるかな。急に現れて、んで自己紹介もそこそこで申し訳ないけど」

「ふーん。ま、スキを見て逃げるつもりだったけど。別にイイヨ」


 その発言を受けて、少年の前に立っていた彼女がこちらへ非常に攻撃的な目を向けた。


「言わなきゃよかったのにフタリさん」

「いやー、きみに言っちゃったから、隠す必要もないカナって」


 あとさ、と少年に声をかける。


「その『さん』づけはいいよマイリ。一度呼んじゃったんだし、今更改まってもネェ」

「へえ、分かったフタリ。不思議とあなたとは親近感を感じるな。あなた若いのに」

「で、彼女は本当は何なの?」


「彼女は、僕の用意したデコイだよ」


 デコイ? どうやらコンピューターの用語のことではないらしい。


「ふーん。もしかして統括者としてのオシゴトに関係ある?」

「鋭いね。スラムにその歳で住んでいるわけだ」

「なーんかその発言は馬鹿にされている気がするワ。ま、いいけど。それで?」

「彼女は、僕の目的のために成された存在だ。フタリ、きみは一月前に殺害された統括者のことを知っているね」


「知ってるっていうか、今日初めて気が付いたって言うか。えーっと? オリガ・カナエさん? だっけ?」

「そう。史上最年少で統括者になった人物。しかし彼女は一月前に死亡した」

「あー、で、彼女のデコイが必要になった? それで彼女のそっくりさんを用意したって?」


 それが彼女の正体か? この人物の秘書官かつ、統括者オリガ・カナエの偽者だと。


「で、どうなのそこらへん」


 彼女に尋ねてみる。案の定、彼女は口をつぐんだまま黙っている。


「答えたくないみたいだよ。ま、この子自身シャイだから勘弁してあげて」

「ふーん。まあ、こっちが勘弁してほしいところはあるんだけど」


 失言したら殴られるし。


「そんなんじゃ、ないって」

「ん? やっと口を開いてくれたねチープ。なら、いい加減その口調やめてくれないか? それは本来のきみの口調ではないだろう」


 言われて、彼女はモモタビのことを睨みつけると、短い溜息を吐いた。


「分かった。分かりました。モモタビさん、でも私がこの人のお世話になるというのは?」


 彼女はそこで今までに聞いたこともないような声を出す。

 というか、それが本来の彼女の口調なのだろうか。まあ、等しくどうでもいいが。



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