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チャイルズ・ワールド  作者: サイタマメーカ
技術廃棄街への制圧を一時中止、監視に努める 行方不明者二名
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少年達の活動

『オレ達の目標は、あのスラムでーす。――で、その中には約三つ、探すものがあるんだけど』


 知ってる? と彼は周りのformalを纏った人員に尋ねる。


『表向きの理由は、あのスラムの人間の身辺調査――だったっけ?』

『建前ね。それはお膳立てで、その他には理由が三つ。ほら、分かった奴から手を挙げること』


 その人物の周りにいた人物達が、皆formalを纏っていたが、その中で、一番初めに口を開いたものだけが、全く別種の人的鎧(ヒューマノイド)を纏っていた。

 それは、黒い、獣のようなデザインの人的鎧(ヒューマノイド)だった。


 Formalが天才人的鎧(ヒューマノイド)の技術者なら、その人的鎧(ヒューマノイド)は無銘の技術者が仕上げた作品の一つであり、高性能なアーマーとの差別化を図るために採用したものであった。


その、一見すると周りの白い背景と、その周りに白い人的鎧(ヒューマノイド)がいる中で、一人だけ完全に浮いている形になるその黒い人型は、しかし狂暴なデザインでその周りの最強のアーマーを威圧している。現に、そのアーマーを着た人物こそ、このProcessingという組織においてリーダーを務めている人物であった。


 集団の一人が手を挙げる。


『あい、ラトくん』

『行方不明の鎧の捜索すか?』

『そーな。まあ、「技術廃棄街」なんていうくらいだから、犯行に使用した後にあそこに廃棄した可能性が高いんじゃないって』


 他には? と訊く。しかし手は上がらなかった。恐らく、最初に手を挙げた人物が口にしたことが各人の頭にあったことだったのか。それとも自発性の不足か。もしくは、面倒な説明はいいからさっさとおまえが言えやという意思表示なのか。


 いずれにしても、確認をしないことには仕事が始められない。


『じゃあいいよ。代弁してやる。第二な。まず、一月前の犯人と同じ名前を名乗る奴がここ数日で一人見つかった。ということは、一月前の事件は何か組織的なものと考えて言い。でもキカク地域にはそんな集団が潜む場所なんてない。完全に管理されてるからな。だから潜むなら、誰にも管理のされていない技術廃棄街が適切なんじゃないか、と。――ま、つまるところはこっちに非はないから、問題があるとすればあいつらだ的な、責任転嫁的な思考だわな』


 で、もう一つと黒い人型は白い人型の群に呼びかける。


『数時間前に先にスラムに入ったcleanの構成員救出――は建前な。そんなんどうだっていい。ただ、こいつには用があるんだと』


 言って、黒い人型腕に付けた3Dホロから、一人の人物の画像を空中に出現させる。


 そこに映っていたのは、数日前に何者かによって殺害された、キカクという地域を含む東京都の統括者の一人である少女の画像だった。


『オリヒメだ』


 人員の中からそんな声が上がる。


 彼女の本名はオリガ・カナエ。

 彼女の優れた容姿からネット上で『オリヒメ』というふざけた渾名が作成された。故にこの『オリヒメ』という名称は、現実にいる人間を指す場合は彼女のことを指している。


『そ。でこのオリヒメちゃん、数日前に刺殺されただろ。――いや、ファンがどうしたとかそんなことはどうでもいいんだ興味ないし。重要なのは、このオリヒメちゃんなんだがな、こいつによくにた人が、今日cleanの派遣の人物として向かってるんだな。で、そいつを連れ戻して来い、だって』


 自分達に期待されているのはその程度のものだ、と自嘲的に暗喩して、彼は仲間内に問いかける。


「――ところで、おまえらの中でオリヒメのファンってどれだけいたの?」


 そういった瞬間、その場にいたProcessingの人員が彼以外全員が手を挙げた。


『ふーん。……おまえら実はそういう繋がりですか?』

 彼の嫌味に答えるものはいない。

 なぜなら、その質問自体が彼らの仕事以外での繋がりを示しているものだからだ。


『ま、今回の依頼はそんなところだから、後は好きにやること。別に詳細はもうけねえよ。おまえらのやりたい様にやれ』


 その場にいる全員は、三百六十を見渡すことのできるセンサーに捕らえた一人の黒い男の発言に無言で頷く。


『――で、それとこれは別なんだが』


 急に属的な口調に戻りつつ、黒い彼、その場にいる誰しものリーダーである男は言う。


『オリヒメってのは、オレ顔を三回くらいしかみたことないんだけど――何、おまえらが熱中するほどの女の人なの?』


 その場にいる全員が閉口する。仕事の時の閉口とは異なる、目の前の男の無関心さに対してのものだった。

 しかしそこで、各人は気が付く。

 三回? しかも見たというのは、どういうことか。そもそもオリガ・カナエの画像をこちらに見せたのは目の前の人物である。そんな男が「三回見た」という理由は、つまり。


『え? 会ったの?』


 その場にいた何人かが、それと同じ質問を同時にした。塔の黒い本人は、しらっとした口調で返答する。


『あ? それが?』


 一瞬、目の前の男こそを最初に排除してやろうかという奇妙な連帯感が各人に広がるが、その感情はすぐに霧散していった。


 目の前にいる男は、それこそ最強の人的アーマーを纏ってはいないものの、仮にも組織のリーダーである男だ。そんな人物を排除したところで、残った中間管理職という面倒極まりない椅子が空くだけである。


 そこに座る気は、その場にいた少年たちにはまだなかった。


『ハリヤマ、おまえどこでオリヒメと会ったんだ?』


 構成員の一人からそんな声が上がる。それに対して黒い男――ハリヤマと呼ばれた人物は、そこまでの興味もなさそうに腕を組んだ。


『あー、どうだったかなぁ。……あ、いや待て待て思い出すから。確か、うん、そう、五、六年前くらい前、この組織ができ始めの時に会食で会った。まあ、その時はただのガキだなぁ思っただけだったけどな』


 五、六年前ということは、オリヒメは当時十二歳になる。当時十五歳だったハリヤマがガキと認識するのも当然のことだ。


『二回目は?』

『発言が怖いんだけど。――そうな、確か、彼女が統括者に就いた時だよ。講演? てかまあ、就任祝いみたいなもんに出ろってんで行ったんだ。メシ食えたし。確か二年前だったか?』


『じゃあ、最後に見たのは』

『あー、それな。まあ、見たっつうか、会ったつーか』

『あぁ?』


 そこで、その場にいた全員から、物騒な声が上がる。その様子にハリヤマは明確に委縮を示した。それまでのリーダーとしての尊厳はどこにもない。


『いや、待て。落ち着け諸君。俺は何もしてない。――ただな、向こうから俺の住んでるところに来たっつうか。オレもかなりビビったつうか。――まあそんなわけで三回目だ』


『…………』

 各人は無言で、人的鎧(ヒューマノイド)の拳を握り絞める。その音は人的鎧(ヒューマノイド)を纏っていたハリヤマにも明確に届いた。


『よし待っただ諸君。おまえらが何をするのかは分かったから、どうかオレに弁解のタイムをくれ。というか、おまえらは絶対に何か重大な誤解をしているのだ』


 黒い男は目の前に手を出しながら、最低限の降伏を示す。

 この状況ではどう考えても排斥されるのは彼の方であった。

 人体に入った矮小な菌を、多すぎる白血球が取り殺すような、そんな図が。


『三か月前な、オリガ・カナエはオレに対して――というか、SPみたいなにーちゃん連れて俺の部屋に押し入って、それで帰って行っただけだ。彼女はあくまで仕事としてオレのところに来たんだよ』

 仕事として、ではなく、SPが付いていた、という発言に若干数の各人は肩を降ろす。


『で、何の用で?』

『それがな、彼女、オレ達を自身の傘下に入れないかと言ってきた』


 再び、その場の空気が硬直する。


『いやーだーかーらーさ、待て諸君。そう殺気立つなよ。詳細としては、キカクの治安委員会に入ったまま、彼女の傘下にも入らないかと言って来たんだよ。どうよ、この提案』


 そこで、各人の空気が緩和されたことを確認する。

 人的鎧(ヒューマノイド)の集団は、しばらく思考するように黙った後、口を開く。


『論外だな』


 実際に口に出したのは数人だが、ほとんどの構成員がその意見と同じようだ。


『だろ? 俺達はあくまで、キカクという地域の集団だ。治安委員会という場所の方針に従う犬みたいなもんだが、それでもまあ、方針は揺るがない。ほとんど私兵と同じだという場所もあるが、それとは違う。だけど、彼女の下に就くことで、本当に私兵になってはどうしようもない』


 たった一人の人間の意思で動く組織など、ただの傀儡にすぎない。ラジコンと同じだ。


『だからオレはその誘いを蹴った。あれはでも物分りのいいお嬢さんだな。断ったらごねずにすぐに帰ってったよ。ついでに土産も貰った。――よし待て。そのことについて責められる理由はオレにはないぞ。その差し入れ、もうおまえらに渡してるから』


 そのことについては、彼らとしても追及するつもりはなかった。第一そんなものはもう腹におさまっている。


『しかし、彼女ほどの人間ならば、この組織の私兵化がどれだけ不毛なものかも分かっているだろうに。それが判断できなかった訳ではなく、別の理由があったからこそそんな話を?』

『完全に彼女寄りの発言だぜハツカくん。まあ、かもしれないけどな。いずれにしても、もう死んだ人間のことをとやかく言っても仕方がねえだろう』


 言って、黒い男は背後に見えるスラムに目を向ける。距離千m弱。

 人的アーマーの視覚保護を受けなくても視界に入る位置だが、スラムの全体は五㎞にも及ぶ。元々はあちらに住んでいた人間が、こちらに移住し、キカクという名称を付けたのが最初だ。つまりあの場所は、旧世代の人間が、まだ全盛期であったときに賑わっていた都会であり、その残骸なのである。


『まだ待機だ。作戦は夜に行う。それまで、キカク地域に外部から入って来た人間を見張れ、だとよ。まあ、検問の方に任せればいい話なんだが、なぜかそのおこぼれの仕事がこちらにもやってきている――と』


 そこで、彼らはキカクに近づいてくる、一つのトラックを目撃した。旧世代型のワゴン車、と言えばいいのか。それが、スラム街から一本の道路を渡ってこちらにやってきている。


『ハリヤマ、あれはどうする?』

『まあ、一応監視だけはしておけよ。じゃラトくん、見つけた人間が行ってくれる?』


 構成員の一人が、言わなければよかったという空気を出しつつ、白い建造物から落下する。数十mから飛び降りた白い人型は、ほとんど無音で地面に着地し、無限に続く十字路を走って行った。その姿は肉眼で見れば残像を残しながら走る駿馬に見えたことだろう。


『拙いようならオレも行ってやるよ。だからまずは現状確認な。普通にスラムへの廃棄物を棄てに行く係り員だったら戻ってこい』

『了解』


 通信でそれを伝え、彼、ハリヤマは白い街を駆けていく一人のランカーを視野に収めた。


 アーマーがキカクからくるワゴン車に衝突するまで、あと十分。


『ここでずっと待ってるってのも退屈だな。おまえら、なんか暇潰せるもんで持ってない? 端末でもなんでもいいからさ』


 殺人を容認されている組織は、そのような脱力感剥き出しのリーダーを交えながら、確かにキカク地域から、向こうに見える灰色の標的を見据えていた。

 

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