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チャイルズ・ワールド  作者: サイタマメーカ
技術廃棄街への制圧を一時中止、監視に努める 行方不明者二名
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見送りと送迎の準備

「――ところで、だ。アマカワくん。おまえ、そのでっけえアタッシュケースはなんだよ」


 いつの間にか俺の名前を結構な高圧的な態度で、しかも「くん」の部分だけをこちらの名前を呼ぶときよりも数段弾ませて呼ぶようになった彼女は、俺の持っていた鉄製のケースを指さした。


「何が入ってんだよそれ。まさかお出かけに滅茶苦茶荷物を運ぶ性格か?」

「んー? コレ? ちょっとしたシークレットケースヨ。気にしないでオッケェイ」


 彼女は俺の手元にあるケースにしばらく目を向けた後、諦めたようにそれから目を離した。


「あ、ところでさあ、いい加減おねーさんの名前を教えてもらえない?」


 歩きながら、その話題を切り出す。まあ、ほとんどダメ元に近かったし、それに彼女を挑発するつもりで口にしたので、半分殴られる覚悟で言ったにすぎないのだが。それで、ついでに回避の体制をとっていたのだが。


 少し意外なことが起きた。


 彼女は確かにキレた。

 

 情状酌量の余地もなく、こちらを異常なまでの敵愾心で睨みつけた後、その空気感が圧縮されたようになった。


 いや、マジ怖えーこのヒト。


 ここまでは予想通りだ。至って、普遍的に、彼女の上っ面の性格を考えればそうなるだろう。


 しかし、ここで予想外な事態。

 彼女は拳を握ったはいいものの、その車輪を動かすことなくその拳を下げた。


「…………。名前のことは訊かないでくれる?」


 何か大量の言葉を飲み込んだような顔をして、彼女は俺から目を離した。

 その態度は意外だった。というより、獣のようなヒトだと思っていたが、その部分だけは理性的だ。


「つーか、あと数時間で別れる相手の名前なんてのはどうでもいいだろーが。おまえ訴えるぞ」


 調子を取り戻したらしい。絶好調である。

 まあ、訊くなってことね。了解です了解。


「そのワリには俺の名前普通に言うよネ」

「おまえが勝手に名乗ったんだろうが。――そう言えば、おまえ、苗字しか名乗ってないが、名前全部はなんていうんだよ」

「そんなの知りたいノ?」

「ああ、金銭面を押し付けるのに署名は必要だろ」


 ナルホド、納得だ。


「いいヨー。俺、アマカワ・フタリ。はい初めまして。スラム街で鎧狩りとかで収益挙げて、悠々自適に暮らしたりしてます」

「――て、オイコラ」


 彼女は異常な眼光でこちらを睨みつける。


「おまえやっぱ常習犯じゃねえかよ!」

「え? 別に隠してなかってデショ? 『良いお金になる』って言ったジャン」

「そこまで詳細な情報は訊いてねえよ。つーか、じゃなんだ。最初から私はおまえのカモだったわけかよ」

「カモとは人聞きが悪いね。鼠って言ったほうが近いよ」


 彼女は何かを言おうとしたようだが、口を動かそうとして、結局それは言葉にならずに霧散したようだ。


「――アマカワ・フタリね。字面は分からねえが、まあ有用に使うとするか」

「そりゃま、ご自由にドーゾ」


 スラムの人間に請求書が適用されるとも思えない。

 彼女から目を反して、向こうに存在する白い建設物に目を向ける。

 キカクの地域はその様相を如実に表しながら、俺達の目の前に立ちはだかっていた。


 それは昼の日差しを反射して、強い白の光を発している。それはなにか、巨大な人間の業のようなものとしてそこに存在しているように、俺には見えた。


 まあ、ゼンゼン文句を言うつもりなんてないんだけれド。


 今、俺の横にいる少女をキカクの病院に届けるだけの作業だ。特に危険は伴わないだろう。スラムへの介入がスタートしただけで、スラムの人間はすべて殺せという命令がされたわけじゃない。


 まあ、それなりに頑張ってみましょう。

 




 そこは一面の白だった。


 色などというものはとうに存在しない。肉眼で捉えれば、色覚異常を起こしていても不思議はない。それだけこの壁には色という色が一色に統一されている。


 表面の素材が紫外線にや埃によって変色すれば、その上から特殊素材を塗ることで色を保っている。塗っているのはすべて機械鎌瀬であり、故にその建造物の色素は何物にも染まりながら、色褪せない。


 そこに、数十人単位で同じ色をした人型のソレは存在していた

 formal。ある天才技術者が作成した、どのような人種にも適用し、誰にも操縦が可能なほどのシステムを装備する汎用性の高い人的鎧(ヒューマノイド)

 

 例え一度も人的鎧(ヒューマノイド)に乗ったことのない者でも、経験のみで一月もすれば実践に持ち込めるほどの操作性を着用者に与える、現在もっとも優れた人的鎧(ヒューマノイド)である。


 結果的に、この世でもっとも強い兵器とは量産が可能で、かつ誰にでも扱うことのできるものでなくてはならない。「formal」の作成者は無意識にその結論が見えていた。


 今キカクの建築物の上部に存在する『Processing』という治安グループは、その恩賜を十分に受け、そしてもっとも多くの人的鎧(ヒューマノイド)を保有する組織である。最強の人体兵器である人的鎧(ヒューマノイド)と、その人的鎧(ヒューマノイド)の最強系を、最も多く所有する組織。


 単純にProcessingがトップランカーと呼ばれる所以は、そのような単純な理由からに過ぎなかった。


 仕事に絶対性を求める時、言ってしまえば組織的にもっとも資金をつぎ込む場所は、その全体の中での治安でも正義でもなく、全体を生かすために害を排除するもの、不必要なものを排除する場所でなくてはらない。


 そういった意味でその組織に該当するものが、このProcessingであった。


 他者に干渉せず、正義といった信念はなく。


 ただ命令された仕事を、実直に行うだけの私兵集団。


 それがProcessing。キカク地域において、キカクの統括者の意向を、ただ行うためだけに存在している公的機関。


 しかし彼らは、今この場において、今回の上部の命令に疑問を感じつつあった。


 いや、今回の騒動には疑問しかない、と言っても過言ではない。


 そもそも一月前に行われた人的鎧(ヒューマノイド)の博覧会の襲撃。その捜査を打ち切ってまで、何故いまらスラムなどという場所に標的を定めたのか。


 博覧会を襲撃した人物は彼らが始末した。しかし、その人物と同じ名前を名乗る人物が、つい数日前に現れたのだ。そしてその人物は始末した。前のように。ならば彼らの仕事は、必然的にその事件の真相を追跡することにある。


  しかし今回彼らに与えられたのは、キカク地域外に住む技術廃棄街という、巨大なスラムにひっそりと住んでいる人物達の身辺調査――という名の強制連行だった。疑問を持つなという方が無理な話だ。


『あー、全員、聞こえてる?』


 集団の中の一人から声があがる。声――といってもそれは電波による受信である。人的鎧(ヒューマノイド)の機能の一つである、個人同士のネットワークを共有し、視覚、聴覚を共有し、かつ通話を可能にする、といったシステムだ。


『良好でさ』

『あいあい』

『確認の必要があるの?』


 そんな声が各々から個人に帰ってくる。

 そこにいるのはすべて、新たな教育方針であるセミナーを突破した少年たち。年齢にはバラけはあるが、すべての人員は二十歳が、それより下の年代が多い。


 そもそも、このProcessingという組織そのものが、formalという人的鎧(ヒューマノイド)の誕生と共に作られた新規の組織でしかないからだ。

 

 そこに大人は混じってはおらず、あくまで若年の人員がその処理を任されている。理由は多くあるが、最も簡単なことを述べれば、既存の価値観を変質化させないため、若者にはできるだけ政治的な決定権を与えたくないからである。


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