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チャイルズ・ワールド  作者: サイタマメーカ
技術廃棄街への制圧を一時中止、監視に努める 行方不明者二名
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視点移動終了――キカクの中の住民

 ノウスイはそんな私の顔を数秒凝視した後、小さく息をついてデスクから離れた。


「センセーって冷静っすよねー。自分の作った人的鎧(ヒューマノイド)が人殺しをしたって言うのにしらっとしてるんだから。少しは落ち込んでるかと思って、今日はあたしの方が勇気を持って寄ってみたんですけど、これなら大丈夫そうです」

「あなたは私の何なんだ」


 ひひひ、と妙な笑い方をして、ノウスイは手に持ったアタッシュケースを地面に置き、そこに座り込んだ。


 どう考えても、ここに居座る気がしてならない。


「私はあなたにとって『ついで』だった筈だが?」

「今日の予定ではそうでした。でも実際に見て事情が違いました。やっぱりセンセーを見てるのはオモシロイっす。一日中見ててもやっぱ飽きない。だから決めました。あたし、今日一日センセーの孤独な仕事ぶりを後ろで監視してます。さ、どーぞインスピしてください。ぶっとんだ発想を練ってください。あたしはそれを楽しみに見てますから」


「あなた、本当は私のことが嫌いなんじゃないのか?」

「ん? え? センセー、嫌いな人のところに足しげく通います?」

「嫌いな奴の節度によるな。そして強制でもないのなら、自発で行くことはない」


 でしょう、と彼女は言う。


「まあ、嫌いもコミュニティの一つの概念ではあるらしいですけど、今じゃ薄いですよね。人とそもそも関わりませんもんね。嫌いも好きもありませんもんね。個人教育ですし。あたしもそう育てられましたしぃ」


 そういうノウスイ自身は、かなりの変わり者である。わざわざ人間と関わらなくなった現代において、わざと人の渦の中に入って行こうとするのだから。


「見学会は本当にいいのか?」

「いいっすよあんなん。あたしは、優れたアーマーの機能より、型破りな物を作る方が好みなんです。お金は十分に溜まったから、そっちにシフトしたいんですけどねー。顧客は『もっともっとバージョンアップ』をって言うんですよ。いや、ていうか。そんなことするくらいならさっさと新型を作らせろ!」


 言って、彼女はアタッシュケースの上に乗り、低い天井に手を伸ばした。

 妙なテンションだ。こちらにとばっちりが来ないように配慮しなくては。


「ていうか、むしろ不謹慎なことを言わせてもらえば、あたしはあの博覧会は楽しかったですよ。商売側も、本気で売りたいならあーゆー催し物が必要だと思います。一つのアーマーが妙な機能でその性能を十分に発揮。それくらいしないとオモシロクありませんから。――まあ、人死にが出てしまったのは残念でなりませんけど」


 彼女の発言に他意はない。単純に、彼女は人的鎧(ヒューマノイド)いう兵器に対しての可能性を信じている。


 例えそれが人殺しの道具に使われようと、その製作者は、あくまでその技術の果てを目指すのみ。使用の果てに残るものなど知ったことじゃない。


 それが彼女、ノウスイ・ソウフの技術感なのだ。


「それで、私のアーマー作成を見るのは構わないが、きみはその一月前の話題について、私に訊くことなどがあってここに来たんじゃないのかな」

「え? 聞いていいんですか? それってセンセーの地雷なんじゃ?」


 地雷と訊いている時点ですでに地雷を踏んでいるようなものだが。


「別に、あの人的鎧(ヒューマノイド)が何なのか。そして何を行ったのか。全世界を探しても、おそらく答えられるのは私だけだ。聞く気があるのなら、話すが」


「お、おおおおおう。ここに来て滅茶苦茶有用なお話しがっ。お金を払って休んだ甲斐がありました! 太っ腹ですセンセー!」


 その表現の仕方は、かなり間違っていると思う。


「――で、まず何が訊きたい?」

「じゃまず、商品名――あ、でも売ってないから商品じゃないのか。そうですね。あのアーマーの名前から教えてください」


「あれの名前は、Starry sky。一年ほど作成されたものだ」


 彼女を信用していないわけではないが、一応証言を取られていることを考えて、あくまで自白したようには喋らないこととする。


「へえ、なんか――その、ハズい名前っすね。オールドセンス?」

「それを言われている私が一番恥ずかしいからそう言う感想はやめてくれ」


 明確にネーミングセンスがないと言われているようなものだ。いや、私自身、名前などというものは大して考えてつけていないのだが。


「まあ、名称はStarry skyだが、あれにはその後にFailureが付く。あれは失敗作なわけだから、そう言った見識が必要だ」

「星空の失敗作って、できそこないのプラネタリウムですか」

「――まあ、そちらの好きなように取ってくれて構わない」


 無論、彼女の推測は何一つとして当たってはいない。というか、これは彼女自身がわざと外していると見ていいだろう。


「で、センセーが目指したニュー機能って何だったんですか?」

「新しい機能、か。まあ、あれはそんなものは一つしかないのだが」


 しかも、それが原因で廃棄するほかなかったものなのだが。


「あれは、人的鎧(ヒューマノイド)としては失格なんだよ。人体を護るべきアーマーが、むしろ着用者を殺してしまう。そういったものは鎧として機能しないだろう?」


 まあ、本末転倒ですよね、とノウスイは包み隠さずに言う。

 

 この女にオブラート、という言葉は脳内辞書に存在しないらしい。

 いや、この人物自体が、そういった一飲みの行為を嫌悪する人物でもある。理解しやすいことは嫌悪し、自身にしか分からないことを愛でる。そういった自己完結型の人間なのだ。


「機能は――と、そういえばだが、これは言っておく。あの映像に移っていたものが、必ずしも私の口にした人的鎧(ヒューマノイド)とは限らないので、あしからず」

「はい?」


 明確にノウスイは疑問符を浮かべる。


「え、どういう意味ですか、それ」

「そのままの意味だ。私の認識は、あくまで映像から輸出し、私の記憶の中から引っ張り出してきたものの該当に過ぎない。つまり、私の認識と事実は違うこともある、ということだ」


 ノウスイはぽかん、と口を開け、私を凝視して、口を開く。


「つまり、センセーが作った人的鎧(ヒューマノイド)のそっくりさんである可能性もあると」

「そういうことだ」

「解り難ぃー。もっと分かるように言ってくださいよぅ」


 彼女の理解力をもってすれば容易い理解だろう。

 そもそも彼女はどこかまだ若さを抜けだしていない部分があるので、物事の意味を深く導き出そうとする傾向がある。だからこそ、多少馬鹿みたいなことを言わないとあちらが飽きてしまうのだ。


「ところで、あなたは、あなたが作成した汎用人的鎧(ヒューマノイド)のformalに、どのようなバリエーションがあるか知っているか?」

「はい? 知りませんよ、そんなこと。あたしはただ技術を提供しただけで、デザイナーじゃないっす」


 実にその通り。

 技術者が行うことは技術の提供であり、それはデザインの作成ではない。実に正しく、商業的な戦略を行わない、非凡な人間の見解だ。


「キカクの治安委員会、あの胡散臭い連中の、セミナーを終えた少年少女の就職先として七割のシェアを持つ、ほとんど私兵化した部隊――cleanにあなたの人的鎧(ヒューマノイド)が採用されているらしいんだが、そこに文字がペイントされていることを知っているか?」

「いいえ」


  まあ、その返答が帰ってくることは知っている。


「まあ、これなんだが」


 私は、自分のコンピューターの画面を彼女に見せる。そこには、人的鎧(ヒューマノイド)の外装を映した、一つの写真が載っている。


 「こないだの、襲撃を受けた博覧会で展示されていたものだ。もっとも、あなたの作品はこれとは違うようだが」

「自分が数年前に作ったものなんて、もう古いっすよ。顧客が勝手にやったことですね、これ」


 彼女は見るからに興味のない眼をする。彼女は、そういった商業面の話には一切の興味を示さない人物なのだ。無論、その意図にも。


「――まあ、あなたが興味を示さないならいい。余計な話をして貴重な時間を潰して悪かったね。あとは、ノウスイさんの好きに時間を使ってくれ」

「ストップ。さらっと逃げようとしないでください。まだセンセーの人的鎧(ヒューマノイド)の話、聞いてないです。せっかく貴重な時間を過ごしているんですから、話してください」


 逃げられなかった。


 まあ淡い期待だったことは否定しない。彼女は自身に都合のいいことならいつまでも憶えていられる人物なのだ。自身の利己をそのまま貫いてきた、それが彼女なのだ。


「分かった。いいだろう。私がこの部屋にいる間は、あなたの質問に答えよう。それで? 何が訊きたいの?」


 そこでようやく、彼女の眼に光が宿る。それは技術者としてか、それとも創作者としてか。もしくは自身の脳内の渇望を求め続ける人物のそれか。


 この人物はつくづく私の邪魔をしたいのか、阻害をしなのかが分からない。

 窓の外を見ると、なぜかそこには数十体の人的鎧(ヒューマノイド)が見えた。今朝言っていた技術廃棄街への遠征だろうか。


 そんなことを考えながら、私は近くにいるノウスイの声に耳を澄ませた。


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