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チャイルズ・ワールド  作者: サイタマメーカ
技術廃棄街への制圧を一時中止、監視に努める 行方不明者二名
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お帰りくださいお客様

 手頃な車いすの骨組みと素材を発見し、そして部屋に戻ったのはそれから二十分後のことだった。


 そしてそれを人的鎧(ヒューマノイド)の素材と破損していなかったコンピュータを用いて電脳椅子を作り上げるまでに一時間。


 比較的時間をかけずに作った方だが、それでも彼女は不満そうだった。

いやまあ、不満と言えば、彼女に対しては何をしても不満だろう、この場合。


「できましたヨ。アマカワ的電脳椅子。モーターで動くタイヤと、それを操作するためのブレイン・マシン・インターフェースを使ってみた」

「――要するに、手で車輪を回さなくても、頭で進めだとか曲がれだとか考えるだけで、脳波を測定して行動を決めるって奴か?」

「そう、そういうヤツ」


 コンピューターの内部を調べて初めて気が付いたが、人的鎧(ヒューマノイド)もこれと同じことが行われているらしい。人的鎧(ヒューマノイド)動かす為に、それ自体が装着者の動きを読んで実行する必要があるのだと。


 彼女はその椅子を見て、じっと俺を凝視する。――そうだった。彼女一人の力では、そこに這い上がることすら不可能なのだ。


 仕方なく彼女に肩を貸し、こちらが持ち上げる形で彼女を椅子の上に乗せる。椅子のベルトを絞め、これでようやく、彼女が椅子に搭乗する。


「で、これが脳波の測定器ネ」


 言って、それを彼女に手渡す。俺が彼女の手に置いたものは、一つの簡易的な帽子だった。男性用の、紳士が被っているような山高帽。その中にびっしりと脳波を測定する電極が取り付けられている。


「これが操舵かよ?」

 言いながら、帽子を目深にかぶる少女。


 車椅子はその瞬間、前と後ろにそれぞれ動き始めた。彼女の脳による簡単な脳波を、コンピュータが解析して簡単なシグナルに変換する。そういった技術だ。


「おお」


 彼女もさすがにこれには驚いったような声を発した。そのことに対して誇っていいのか、最悪の裁定を回避できたと安心するべきなのか、迷うところではあるのだが。


 そうして自身の車椅子が自身の意思通りに動くことを確認すると、右手の拳を握り、車いすの車輪を高速回転させ、こちらの顔面をぶん殴って来た。


「ぶっ――!」


 まあ、読んでたけどさあ。


 五本の指の塊のようなものが鼻頭に衝突する。衝撃から背後に倒れるが、車椅子に乗っていた彼女は上手く車の軌道を調整し、俺の顔面を殴りぬける形となった。


「痛っ――てえんですケド。ナニ、それもしかして仲直りのシルシ的な?」

「いや、むしゃくしゃしたから殴ってやった。案外和柔らけえのなおまえの顔」


 言って、自分の手の甲の衝撃の少なさを語る。

 単純に殴っただけのようだ。鼻を切っていないことを確認して、鋭い衝撃を訴える鼻を抑える。いや、本当に容赦なく殴ったなこのヒト。


「これも教育制度の賜物カネ。キカクの教育はこういったことが?」

「知るかよ。私が生まれる数十年も昔に突然決まったことなんだから」


 ちょっとした歴史を紹介すると、以前の『学校教育』などというものは今から約六十年前に消滅した。世界的にある大きな事件が起こったからだ。とあるグループが作成したコンピューターウイルスが、機械技術が浸透していた世界のバランスを著しく崩してしまった。


 そんな、シナリオ的には陳腐の極みみたいな事件があり、結果的に、既存の価値観は消滅。今まで行われてきたことは否定され、別の為政者によって新しい制度が開拓された。それが現在までに変質と改良を重ね、「できるだけ個人の能力を尊重し、阻害しない」放心に切り替えた。


 これが日本国の状況であり、長らく集団としての人間観を持っていた日本人は、ここでようやく個としての人間性を獲得したのだといえるのです。


 そして、恐らくは目の前の少女も、その「個人の能力を重視する」といった方針に従い、他者の迎合を行わないまま生きて来た人間だ。そのために、彼女が自己で確立した能力は、どのようなものなのか、ということまでは分からないが、これはもしかすると「脅迫」の才かもしれない。


 歴史の補足をしておくと、グループは名前、組織共に公式には記録されていない。


唯一犯行声明を挙げた人間の名前は『ヒコボシ』と名乗っていた。

偽名であるのは分かり切っているが、彼が名乗った名前は後にも先にもこのただ一つ。騒動の最中に行方不明になり。現在でもその同行は不明であるが、現在、生きていれば八十歳を突破した老人であると考えられる。


「じゃあ、おねーさんをどうやってキカクに連れて行くかだけどね。方法は幾つか――」


 そこで、部屋の中にベルが鳴り響く。


 リリリリリリリリリリリリリリ。


 電話の着信のようにも聞こえ、一種の危険信号にも聞こえなくはないその電子音。


『問題提起。どったの?』

『重大事実がキカク地方から発表中。部屋主の保身にも関わることなのでご注意を』


 どーも、といって部屋にその情報の提出を要求する。

 部屋の壁という壁、空間という空間に表示される光の文字群。意外なことに、画像付きである。肖像権の問題で、現在ではこういったことはあまり行われないのだが。


「――ん? えぇ?」


 そこに映っていたものを確認する。


 一部始終を動画となってページに張り付けられていたのは、真っ白い人的鎧(ヒューマノイド)が、とある施設を襲撃している映像のようだった。


 場所は――人的鎧(ヒューマノイド)の博覧会と書かれている。新型の人的鎧(ヒューマノイド)を展示し、その性能と価格、商品コストなどを吟味する。


 はっきりいって物騒極まりない場所が、一体の人的鎧(ヒューマノイド)によって蹂躙されている映像がそこに映されていた。たった一体の人的鎧(ヒューマノイド)。しかしその兵器に、周りの人間はただ足を使って逃げることしかできていない。当然である。数時間前の俺が等しくそうだったのだがら。


 そして、そこに映っていたものは。


 俺のすぐ後ろにある、あの白い人的鎧(ヒューマノイド)だった。


「ん? ――ん? え? どゆこと?」

 

 状況が呑み込めない。この記事そのものには見覚えがある。人的鎧(ヒューマノイド)の技術試験会のような場所において、単一の人的鎧(ヒューマノイド)が突如会場に侵入し、その中を滅茶苦茶にした。


 今朝に見た情報だ。しかしこの情報は、すでに一ヵ月も前のもので、しかもこの人的鎧(ヒューマノイド)に乗っていた人物は捕縛され、殺害されたのではなかったか。


 しかし、その人的鎧(ヒューマノイド)そのものの所在は不明、と記されている。


 どういうことだ? つまり、あの殺人犯が使ったアーマーを、俺が拾った、ということか?


「あ、これ」


 そこで、椅子にのった少女が部屋の一帯に表示された情報に目を向ける。


「知ってる知ってる。結構有名になったやつだ。――ん? これって」


 部屋の中心に表示された動画を見て、彼女はゆっくりと俺と、俺の背後にあるモノに目を向ける。


「やったの、オマエだったの?」

「誤解、誤認、とんでもない濡れ衣だ」


 身に覚えがないし、なんで俺がそんなことをしなくてはならないのか。

 俺自身はただここで暮らせればそれで満足なのだ。どうして向こうの地域の人間を攻撃する必要があるのか。


 周りに表示された記事にはスラム街の人間の嫉妬による行動であると報じられていた。適当なこと言ってんなよ報道陣(マスメディア)。それは確実にアナタガタの偏見じゃないですか。


「ねえ、もしかしておねーさん達の人的鎧(ヒューマノイド)って、見たものを記録するシステムとかってついてたりする? あの、ショートしても結果的には残るようになってつヤツ」

「さーなー」


 明確な悪意を持った顔で彼女は言う。ああ、有るなコレハ。しかし焦ることはないだろう。現在瓦礫の中に埋まっているヒトの人的鎧(ヒューマノイド)には、俺が発見した人的鎧(ヒューマノイド)は映されていない。実際に目にしたのは、目の前にいる少女が乗っていたアーマーのみなのだから。


 そちらはこちらで分解した。いや、売ろうとしていたらその情報がどこかでサルベージされ、そこから足が付いた可能性もあるわけかアブネエ。


 最大の問題にすべきなのは、あの人的鎧(ヒューマノイド)の内部には俺の生身の姿そのものが記録されていることか。そこからデータを取り除き、静止画にしてキカク全域に流布されればあっという間に指名手配と変わらない。


 面倒なものを拾って来てしまった、と考えていると、部屋の内部に新しい情報が追加される。


そこには、派遣させた人的鎧(ヒューマノイド)部隊cleanが行方不明になった、という記事が飛び込んできた。原因は、いうまでもなく技術廃棄街に行ったカラ。


「また評判悪くなるなコリャ」

「最初からテメエらの評判なんて最悪だけどな」


彼女から突っ込みが入る。嫌だなあ、その共通認識。


cleanの構成員二名が行方不明になったことに対して、向こうは大規模な捜索を開始するらしい。これによって、技術廃棄街の不信感というものは、より一層に高まってしまったといえる。適当な社会評論家なんかが、ここのことを散々酷く罵ってくれることだろう。まあ、別にかまいやしないのだが。


「それによって、こちらに約数十機の人的アーマー部隊を派遣する模様。懲りないねどうにも。つーかさ、ここに住んでる人間を全員排除して、キカクのカタガタは一体何がしたいワケ」


 それは、背後の少女への問いかけでもあったのだが、彼女は答えなかった。

 いや、答えなかったのとは少し違う。彼女は彼女で、こちらが見ていた方向とは別の方向に表示された情報を凝視しているだけだった。その顔は再び青いものに変わっており、今までの強気さが嘘のように驚愕している。


「嘘、――でしょ」


 なんだろうその反応。

 あまり尋ねたくはないが、仕方なく訊いてみる。


「どうしたの? 税金の値上げでも書かれてた?」


 彼女の方向に目を向けると、そこにはスラム派遣されるであろう部隊の名前が書かれていた。

 キカクの治安委員会の直属。Processingと銘打たれた部隊が、こちらにやってくるようだ。


 Processing? どこかで聞いたような名前だ。


「キカク地域のトップランカーだ」

「なにそれ? 一番最初にタスキ繋ぐヒト?」


 彼女はこちらを睨む。いや、そうは言われても本気で分からないのだからどうしろというのだろうか。トップは分かるがランカーが分からない。


「向こうで、一番やべぇ鎧乗りだよ」


 ランカーというのは、等しく人的鎧(ヒューマノイド)を扱う人間のことを指すらしい。

 つまり、キカク地域の切り札みたいなヒト達が、今からオナカマの仇討のためにここに大挙してくる、という、至極単純なことのようだった。


「でも、じゃあおねーさんがそんなにビビることはないんじゃないデスカ?」

「…………」


 彼女はその記事を見たまま黙りこくる。そうして、ほとんど怒りを伴った声を発した。


「こいつらはな、自分たちに敵対するものは一切の控訴も弁解も聞き入れない奴らなんだよ。私がここにいるって知れた時点で、それは私自身も処理の対象なんだ。キカクに戻らない者は等しく廃棄されたモノ、と見てやがる」


 あー、なるほど。


 自分たちのフィールドにいない人間は、等しく敵ってことですネ。


「それはまあ、御気の毒に」


 そう言うと、彼女がまた右の拳を握り始めたので、それ以上の言及は取り止めた。


「じゃあ、すぐにでもキカクに行かなくちゃいけないワケネ。ついでにこの人的鎧(ヒューマノイド)も隠しておかなきゃな」

「――ずっと、気になってたんだが、それ何なんだよ」


 俺が訊きたい。俺はただ工場の地下に廃棄されていたものを拾い上げて来ただけなのだから。 


「私のとはずいぶん違うみたいだけど。なんかそれ、目つきが悪いよな。正面しか見えねえんだろうし。まるで――白い、雌のライオンみてえだ」


 彼女のその表現には俺も同意する。目の前にあるこの正体不明の人的鎧(ヒューマノイド)は、何か獣のようなものを模されて作られている。製作者がどのような意図を持って作ったのかは分からないが。


「あ、でも機体名だけは分かるよ」

 いって、その白い装甲を叩く。

「こいつ、Starry skyっていうらしいよ。乗った時にそう視界モニターに表示された」

「スターリィスカイ?」

 聞いたことねえな、と少女は言う。


 まあ、彼女が言うのであればキカクの人間はこのアーマーの詳細を知らないと見ていいだろう。報道された人的鎧(ヒューマノイド)に名前がなかったのがいい証拠だ。


「それに、あのトンデモ機能はどう考えても無理難題だろ。あんなことしたら内部の肉体が持つ筈がねえ。坊ちゃん、おまえ、あれを使って負傷したんじゃないか?」


 さすがはランカー、着眼点が的確だ。当然、あんな、それも文字通りの爆発的な加速を体感して、傷を負っていないわけがない。現にあの爆発を起こした際に、肉体の一部に強烈な衝撃をくらっているような錯覚に陥った。ボクサーに殴られているみたいな。


「まあ、どこぞのバッタモンか、個人が遊びで作ったてところだろうな」

「それで、一月前に博覧会で使用されて、ここに棄てられた」

「そーなんじゃねえの?」


 そこで彼女は、必要以上に喋り過ぎたと感じたのか、彼女はそこから急に口を閉ざし始める。


「――まあ、私としてはキカクの近くにまで行ってくれれば文句はねえよ」


 下半身不随の少女をキカク地域の近くまで。まあ、そこまで大変なことでもない。それに、いざとなれば彼女を見捨てるだけのことなので、そこまで重要なことでもないか。


「あと、一つ言っとくがよ」


 そこで、彼女がこちらを睨む。


「次から私に目、向けたら殴るから」


 言って、右の拳を握り込む。


 うん、どう考えても失敗だったな。このヒトに椅子を渡したのは。


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