統括者の遊び
「ところで、他の各々はどうなったのカナ?」
口調を戻してマイリに問う。ここから先は、アマカワ・フタリとしての質問だ。
「ん? 他って?」
「オリガ・カナエとか、ミシゲ・ツクリとか、ハリヤマ・ネズとか――ノウスイ・ソウフとか?」
「彼らか。いちいち説明するのは面倒だなぁ。ま、簡潔に言っちゃえば、傷を負った人は病院へお世話に。その他の人に限っては依然変わりなく生活を送っていると思うよ」
「思うよ、って。――きみ、キカクのことなら何でご存じの人じゃないノ?」
「そんなわけないじゃない。僕だってカミサマじゃないんだ。一人一人のことなんて細かく分類していられない」
これは嘘だろう。その気になればそんな規模の人間の情報を、この人物が集められないわけがないのだ。
それは、要するに――。
「興味が湧かなかったワケネ」
彼はその言葉には耳を貸さずにベッドの縁に座って、足をばたつかせる。
「ま、今回きみはよくやったと思うよ」
「上からだなー」
「上だもん」
モモタビ・マイリは、ベッドから地面に足を付き、こちらの枕もとへやってくる。
「本当なら、ここできみを殺害することもできるんだけどね。でもそれは保留にしておくよ。人類に対して大規模な変革なんてものを行った人間を、早々に排除してしまうのは勿体ないからね」
嫌な理由だ。
そんな理由で人の生死を決定しないでほしい。
「あ、それともう一つ」
モモタビ・マイリは、こちらに指を突きだして見せる。
「僕と友人になる、という件のことを訊いてもいいかな?」
「なに。なりたいの?」
「そりゃね。こんな機会滅多にないし。パイプは作っておくだけでいいのです」
パイプね。
打算的な思案がかなり大きい友情関係だが、まあ、いいだろう。
「そうだネ。よろしくお願いする」
言って、手を出す。無論、指がすべてついている左手だが。
「こちらこそ、どうも」
その手を、彼は握った。無機物の皮膚で作られた、冷たい手だった。
「あ、ところでマイリ。一つ気になったことがあるんだけど」
「ん? なに?」
「きみ、なんでオリガ・カナエを殺害した後に、彼女の死を報道なんてさせたの? きみの立場を考えれば、誤魔化しなんていくらでもできただろうに」
ああ、とマイリは口元を歪ませる。
「わざとだよ。あの時点で残った方のオリガ・カナエが本物だっていうことは分かっていたし。まあ傀儡として置いてもよかったけど、それじゃあ今までと同じだしね。だから僕は彼女を社会的に抹殺することで、オリガ・カナエの力を奪うことにしたんだ。どれだけ能力のある人間であろうと、その立場がなければただのか弱い少女にすぎないだろう、彼女は」
「それでも、合理的な行動とは呼べないんじゃないカナ」
その言葉をきいた彼は、なぜかそこで目を見開いて硬直した。
そして――。
「キ、キキ、キシシシシシシシシシシシシシシシシシシシシシシシシシシッ!」
悪趣味全開の笑いを展開した。
「騒ぐなよお偉いさん。ここ病院ですコトヨ」
「ごめんごめん。ちょっとおかしかったものだからっ……っ、っ、っ!」
言いながらも、笑いをこらえている。
「フタリ。きみの口から『合理』なんてものが飛び出した時点でそれは嘘だよ」
「嘘デスカ」
「そう。僕は合理なんてものを考えたことはないよ。いいかいフタリ。合理っていうものは行動という概念において無駄がないってことだ。理由が必ず介在するってことだ」
長い髪を揺らしながら、彼は笑う。
「そんなものを僕は求めた覚えはないよ。僕が求めているのは、『楽しさ』だ。行動の過程なんんてどうでもいい。その結果にも興味はない。ただ僕自身が楽しいと感じられれば、その時点でその物事の目的は果たされているんだよ。それはわざわざ合理化してしまったら、せっかくの楽しさも全滅してしまうだろう? 僕はただ楽しければいい! ただ目的を果たすためだけに行動するなんていうのは、時間というモノに追い回される人間だけで十分だ」
そうは思わないかい? と笑顔で聞かれる。
そうだね、としか答えようがない。
その快楽欲求には、否定意見も思いつかない。
「それじゃ、僕は戻るよ。色々仕事が残っているからね」
モモタビ・マイリは、そう口にして衣服の中から一つの端末を取り出す。
「それは?」
「きみへのプレゼント。僕のアドレスやらなにやが入ってるから差し上げよう」
「いらないよそんなの。俺の端末があるんだからそれにでもアドプリーズデス」
「ばっかだなぁ。僕がきみと連絡を取ること自体後ろめたいことなんだから、こういったことぐらいはしないといけないでしょう」
ああ、そういうことね。
つまりは保身。この人物、本当に抜け目がねえ。
「あ、じゃあ貰いマスワ」
「十万円ね」
「――え? お金取るワケ?」
「通信料もそっちの負担でお願い。僕はただ契約をしただけだ。料金は明後日まででお願いね」
そんじゃねー、と病室から出て行く少年の姿をした統括者。
自分の手元に残った端末を見つめながら、溜息を吐く。
「キカクに来てから、借金しか増えてなくナイ?」
てか、疑問に思うまでもなくそうだろう。
金がかかり過ぎるぞこの街。
「おっかしいなあ。そんな世界にするツモリじゃなかったんだけどなぁ」
そこは誤算だったということか。
いや、というより、やっぱり人間の街として機能する以上は、やはり経済的な動きがあることは必然だと言えるか。
いやなんというか、何度生まれ変わったとしても、人間に生まれついた以上はお金の問題がなくなることはなさそうだなぁ。




