親子喧嘩 終結
「やめてよ」
その、極限状態の中で、ひときわ小さな声が響く。
声の主は言うまでもないだろう。そんなことをこの状況で言う人間は彼女意外にあり得ない。
「こんなの、やめてよ。その体はノウスイさんのものでしょう? 復元身体さん、あなたはこんなことで死ぬ為に『彼女』に出会ったわけじゃないでしょう?
アマカワさん、あなただってこんなことの為に今までをやってきたわけじゃないでしょう? 私は――」
愚問だ。この場で彼女の言葉に頷く人間がどこにいるというのか。
そんな慈善で、一体何を止められるというのか?
彼女は、何も進歩してはいない。その時、彼女のクローンであるところの、オリガ・カナエを失った時から何一つ。
見れば、いつの間にか地面を張っていた彼女が、私の足を掴もうとしていた。
「私は――、あなた達を助けたいんだ」
『Starry sky backfire field Ⅲ、Ⅳ』
しかし間に合わない。
そんな静止は聞き入れられない。
爆発する背中。爆風が彼女を覆ったところで、こちらの視界は前面に集中する。
握った刀は全面に。態勢は若干悪いが、上半身を前に。
あちらは動かない。こちらの突撃を迎え撃つ方法を選んだのだろう。
ならばそれもよし。
迎え討つというなら、その機材の性能で勝るしかない。
こちらはただ、鎧の機能と速度でそれを凌駕するだけ。
刹那的な、コンマ一秒間にも満たない会合。
その瞬間に、両者の勝敗は決した。
互いが狙ったものは相手の急所。
人体の急所は限られてはいるが、日本人の特徴としての狙い。
すなわち、首。
両者は、ほとんど無意識で相手を断頭することを選んだ。
その結果――。
『――が』
『…………っ』
必然的に、両者の刃が激突することとなった。
片や音速。片や静止の態勢での衝突である。
その速度での衝突の結果は、両者の身を吹き飛ばすほどの衝撃を発生させた。
そのまま、両者は吹き飛ばされ、無理な行動を行ったことにより両者の腕の機能は失われる。
そう、なるはずだった。
誤算だったことは、その衝撃で両者の熱刀が折れたこと。
もう一つの誤算は、その熱刀を、瞬間の起点で、復元身体がこちらに蹴り飛ばしたことだ。
折れた熱刀の切っ先は、回転しながら宙を飛ぶ。その瞬間、両者は衝突の衝撃によって吹き飛ばされる。
地面に引き摺られる。しばらくの摩擦の後、体が停止する。
そうして、次に見たものは、自分の肩に深々と突き刺さっている、折れた熱刀の先端だった。
『…………』
刃の熱肩を伝わってくる。肉体には到達していないが、かなり近い部分にあることは分かる。
ジリジリと肩を焼く熱が、人的鎧の内部にまで到達している。
そうして、目の前に地面に伏せたままの彼女と、目前にみえる、見る影もなくボロボロになった人的鎧の姿を見た。
この時点で、勝敗は決した。
結論的には、私の敗北だろう。
『ようやくだね復元身体』
彼は答えない。その人的鎧は頭部を激しく損傷し、何重かの人的鎧の内二層が崩壊、のこりの一層も擦り切れ、その奥にある人体の頬が見えている。
彼が、彼女の顔でどのような表情をしているのかは分からない。
しかし、この時点で私はもう動くことはできない。少しでも動作を行えば、肩に突き刺さった熱刀の先端が肉体に到達してしまう。
高熱の刃が人体に侵入した時点で、ショック死の危険性もあるその要素は、私が敗北するには十分な理由だろう。
『どうした? きみが願い続けた結末だろう?』
彼の足元を張っている彼女は、絶望的な表情をしてその場に倒れ込んでいる。
もはや下半身の動かない彼女には止めることはできない。
この攻防の結果は、、我々の敗北だ。
しかしこれいでいい。
私の目的は変わらない。
ここで私を殺害すれば、それは復元身体という存在が、ヒコボシを継ぐということ。
なぜなら、彼がヒコボシという存在から逃れるためには、その存在を別の誰かが受け入れなければならないからだ。
彼はその一点において重大な考え違いをしている。
コピーであるのなら、そのオリジナルから逃れる術は、自己とは別の誰かが、その存在を継いでしまうこと。
それをもって、復元身体は復元身体として活動できるのだから。
彼は、私を殺害してから知るだろう。
それも、また楽しみだ。
彼がその状況下で、どのような変化を果たすのか。
さて、それを知るのは、もう一つのヒコボシとなったきみ自身だ。
実に――うらやましいな、復元身体。




