親子喧嘩 絶叫
復元身体の剣を弾く。その瞬間、復元身体の胴体はがら空きとなる。
その部分に、熱刀を刺突する――!
『――ぐっ』
その切っ先は届かない。
刃の側面を、復元身体は蹴り飛ばした。結果として切っ先はあらぬ方向へ向かい、復元身体から狙いを外す。
復元身体は、こちらから距離を取る。このまま続けていても進展はないと見込んだのだろう。
『しかしおかしいものだよ。復元身体くん。視野はそちらのほうが圧倒的に広いのだがね。そのアーマーは、死角がない、ということで有名らしいんだが。きみはやはり戦うヒトではないんだ』
『――いいや』
そこで、彼は否定する。
『役割なんて知ったことか。ボクは、ボクとしての戦いをしている』
『そうかい』
『現在の世界はあなたによって作られた。彼女もボクも。あなたがいなければ存在しなかった』
『感謝でもしてくれるのかな?』
『ふざけるな』
そう、彼は現状の打破を目的として行動し、今に至る。
彼女、オリガ・カナエはその現状を変革しようとして、現在に至る。
そして『彼女』。オリガ・カナエのクローンは、こんな世界に生まれたことで、無為な命を無理矢理に作られ、自身の財産であるを命を失った。
『ボクは、こんな存在に生まれるなら生まれなければよかったと、ずっと思ってた。生まれてきてよかったと思えることなんてなかった。いや、ないように作られた。ボクは生きるために作られた訳じゃない。あなたの目的を継ぐために、ただその考えだけで作り出されたんだ』
『当然だな。初めからそのつもりで作った。人間としての喜びを与えるために作るのなら、もっと早い方法がある。古来からの方法がね』
そう、最初から道具として彼を作った。
だから感情、なんてものは本来不要だったわけだが。まあ、暴動を起こす存在は思惟的でなくてはならない。ただの機械のように行動する存在を作る意味はない。何事も、そこに意志が介在するからこそ、意味を持つのだから。
『それに従う気はない。もし、復元身体があくまでヒコボシのスペアとしての存在でしかないのなら、ボクは、ボクという存在から逸脱する』
『ほう、それは、興味深いな』
復元身体は、こちらに剣を向ける。そうして、再び剣戟を開始した。
『あなたは、あなたの事しか考えていない――!』
熱刀を振るいながら、彼は言う。
そうだ。何をいまさら。
『作ったもののことなんて眼中にもない! 傷つけた人間のことなんて記憶にもない! 自分一人が存在すればいいからと、自己という存在しか理解できないからと、そうやって周囲を巻き込んできた。その結果、ボクのようなものが生み出された! あなたの勝手でだ!』
刀は依然よりも激しさを増し、こちらの即死部位を狙ってくる。
首と頭と呼吸器官。そのすべては、殺意そのものによって成された行動だ。
『他者にむけた感情なんてない! だからこそそんなことができるんだ!』
だから、なんだと言うのだろうか。
今の人間に詫びろと?
それこそ、難儀というものだろう。
『でも、あなたは分かっていない。ヒトが、ヒトとのつながりというものをどのように捉えているか。その消失がどれほどの激痛か。痛みと繋がりを知らないあなたには!』
…………
ああ、そういうことか。
この子の言いたいことが、そこでようやく分かった。
つまるところは――。
『彼女はあなたに殺された。――許さないぞ。ボクは、あなたを一生許さない。何をしても償えないだけの罪だ。殺すだけの報復なんてさせない。意識だけを残して永久に自分の作ったものを破壊される光景を見せてやる。痛覚を保ったまま、この世の終わりまで最悪の苦痛を継続させてやる。最悪の凌辱を行ってやる。死ぬ程度で、解放されると思うなよ』
くだらない責任転嫁だ。
自身で手を下しておきながら、現状を作ったこちらの原因があるとして、都合のいいように曲解し、行動する。
自身に非がないようにと。
自身が傷つかないようにと。
そのために他者を攻撃対象に指定する。
都合よく、自身が生きられるように。
『――ハ』
笑う。剣を交えながら笑う。
『は、はは、ハハハハハハハハハハハハハハハハハハハアハッハハハハハハッハハアッハ』
こいつは確かに、私の子供だ。
私そっくりだ。その責任転嫁。誰かに重要なことを押し付ける、その精神。
それはまさしく、ヒコボシという男が、生きる上で信条にしてきたことだったのだから。
両者の剣戟が止む。互いに振った剣がようやくアーマーの中にある肉体の部分に届いたのだ。
あちらは左足。
こちらは脇腹。
『いいだろう、復元身体。今までのさんざ放任していた責任だ。ここで決着を付けよう』
存在への決着を。
ヒコボシという存在への、彼への決着を。
いや、それはもうついている。
彼は既に復元身体という個を獲得しているのだ。もう彼をどのように曲解したところで、ヒコボシではない。
熱刀を構える。刃を逆手に。刃物の持ち方としては、最も安定するその持ち方で。
あちらは両手でそれを持ち、刀を立てて自身の右側に構える。
八相の構え――と呼ばれるものだ。実用性は低いものの、攻防を兼ね備えた剣術の構えの一つ。
今まで復元身体が武道や戦闘技能に対して見せたものは少ない。したがって、彼にその知識はないだろう。
おそらくは彼の独断だ。長く戦時下に置かれた彼の経験と現在の状況から、自然にその構えに移行したのだろう。
次で終わる。
このくだらない鍔迫り合いも終了だ。
たぶん、どちらかは死ぬだろう。この状況下でどちらも一方を生かす手はない。
古代の日本の原理と同様だ。どちらも同じ刀という人用包丁を持った瞬間、どちらかの死は確定している。
この時点で、私と彼、どちらかの死亡は確定された。




