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チャイルズ・ワールド  作者: サイタマメーカ
――――報告なし
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親子喧嘩 前座

 それは、もう一本の熱刀だった。人的鎧(ヒューマノイド)を切断できる近接兵器が二つ。なるほど、確かに、これはこちらが不利であることには違いはない。


『相対的だな、復元身体くん。――けど』


 あちらの足が動く。三秒で)百mを走破可能なその俊敏は、一瞬にしてこちらの間合いに入る。


 初動は突き。こちらが躱すか受けるかした後に、もう一つの刃で体を捉えるつもりだろう。


 足の速度は瞭然。しかし腕の動きが鈍い。


 元々、復元身体という人物は運動に適した人物ではないのだ。その体も、ただの女性の研究者からの借り物でしかない。彼は本当に、兵器の性能に頼っただけの戦闘にしかならない。


 なので、その技術そのものは稚拙になることは分かっている。


 突きを躱す。当然、もう片方の手に握られている熱刀が横薙ぎに振られる。

 腕の肘が動く前に刀身の起動が読めた。その時点で、腕の動きよりも速く、振られたかれの手首をつかむ。


「…………っ!」


 そのまま関節に曲がらない方向に手首を捻り、その拘束から逃れようとしたところを側頭へ蹴りを叩き込む。


 バガム、という鈍い音がしたと同時に全身がぐらりと揺れ、小柄な女性の体躯が不安定になる。蹴りを行った足が地面に突くと同時に、片方の熱刀を持つ手を蹴り飛ばす。


 態勢を崩されてからの衝撃。思わず手の力を緩めたのか、比較的容易に彼は手に持っていた熱刀を離した。


 上空に晒される刀。その高熱を纏った物体は、熱の光を発しながら、空中でその身を躍らせる。


 刀の着地位置を確認。ダムの中には落下しないようだ。


 復元身体が態勢を立て直す。同時にこちらにその熱刀を構え直す。


 次の行動など決まっている。おそらくはまた同じ刺突か、大振り。この人物の運動把握は容易い。次の行動が手に取るように分かる。それほど、この人物の運動性能が稚拙だということだろう。


 空中をぐるぐると回っていた熱刀を掴み取る。そういった位置に飛ばしたのだ。手に取ると同時に、復元身体の持つ熱刀と刃を交えることになった。


 熱刀の熱刀の衝突。それはお互いの高音を交える結果となり、刃と刃の衝突によって反発する。触れ合った瞬間、膨大な光が、あたりの大気を喰って爆ぜるように。


『――っ』

『…………ふ』


 慣れない手つきで剣を握る両者。


 それは、彼らが等しくそういった人間ではないことを現している。


 稚拙で技術もなく、理解もない人間が武器を取ることは、武器の扱いに精通した人間が人に武器を向けることよりも危険である。


 昔にあった、昔にきいた理論だ。誰が言ったのかも、本当にそれが存在したのかも、ヒコボシと呼ばれていた自身には、すでに記憶が曖昧だ。


『――父さん』


 不意に、目の前の人物が声を発する。


『今は、アマカワ・フタリだ。言い間違えないでほしい』

『ボクはあなたのコピーとして生まれた。そして凍結した。元々はあなたという存在がいたこからこそ始まったことだ』


 ここにきて、何が言いたいのかは理解できない。


 まあ、しかし、蛇足として訊いてみてもいいだろう。


『それが?』

『つまり、この時点であなたを殺害すれば、ボクは、ヒコボシではない何者かになることができる』

『…………』


 存在の不明瞭化。


 自身が何かのスペアとして作られたならば、オリジナルが消えた際、そのスペアはオリジナルの役割を果たす。


 しかし。彼の目の前にいる私は、すでにスペアの側である。


 ということは、同じスペアであるところの彼は、もはや不要な存在でしかない。


 だが、私という存在がいる限り、彼もまた、「何かのスペア」であることに違いはない。


 その私を殺害することで、彼は自身を手にいれるつもりなのだろう。


 そして――。


『ボクは、ボクとしてボクの行動を行う。誰かに指示されたわけでもない、ボクの意思で』


 なるほど。そうでなければ、復元身体は、彼女に対して個でいられなかったのか。


 彼女に対しての自分。


 それは、結局のところコピーであるところの彼には持ち得ないものだった。


 だからこそ、彼は自身の血筋や、経歴に支配されない個人として生きようとしているのだ。


 そこにあるのは、単一の想い。


 やはり、彼はまだ子供だ。生まれて間もない、純然たる未熟でしかない。


 あちらの熱刀が振られる。


 よりにもよって大振りだ。腰から肩へ、肩から肘へ、肘から手へ、そしてその刀身へ力が流動する。


 軌道は単純。そんなもの、腕の方向を見れば容易に袈裟だと認識できる。


 右上から左下への振りおろし。刀身の長さが確認している。刀の切っ先に引っかからないよう、丁重に間合いを計り、訂正の聞かない速度に達した時点で身を引き、刃を躱す。


 当然、残ったものは大きく行動した後の、元の態勢に戻る前に一秒を要する、大きすぎる隙である。


『あ…………』


 その頭部に足刀を叩き込む。衝撃を与えられた全身はぐらりと揺れ、ダムの下へ、その貯水子へ落下しようとする。が、今度はすんでのところで踏みとどまった。


 態勢を立て直すまえに刀が振られる。だが受けるのは容易い。いくら人的鎧(ヒューマノイド)の運動補助が優秀であるからといって、体位の悪い状態からの一撃などたかが知れている。


 問題は、その先。


『――チ』


 熱刀と熱刀による、剣戟である。


 武道での話だが、結果的に、一人の人間が剣というものを持った際に。刃のみで行えることは十もない。


 結果的に、人体を一本の物質によって束縛しているようなものだ。単純な動作も、そのたった一本の不確定要素によって補わなければならない。


 そして両者がまったく同じ要素を持ちえた場合、それは古来の技術が必要になる。


 そも、なぜ剣という、丸腰の相手に対して絶対的有利な要素があるにも関わらず、剣術などというものが生まれたのか。


 理由は単純。あちらも同じ武器をもっていたからだ。


 兵器は人間の戦力を平均化する。同じ要素を持っていたのなら、ある程度の要素として関わってくるものは筋力くらいだろう。


 剣術とは、相対的に相手が自身と同等の要素を持った人間であった場合にのみ作用する。


 いかに効率をよく守り、その態勢を崩さずに行動するか。


 それを突き詰めた結果である。


 故に理念は一撃必殺。


 従来の武道のように、むしろ手加減を目的とした技術とは一線を画する。


 ただし――この場にその技術を習得した人間はいない。


 私は、技術としてはある程度間合いを測る技術を持っている程度である。剣の使いかたなど知らない。


 そのため、ここでの戦闘は、単純に人的鎧(ヒューマノイド)の性能に依存した、単純な武器の振り回し合いである。技術も理念もない。ただ「殺す」という一点にのみ目的が凝縮された、ある意味では本来あるべき戦闘行動。


 つまり――それは。


『ヂ――』

『……が』


 自身を護ることを放棄した、急速な傷つけ合いである。


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