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ヴィリジアン  作者: 千月志保
第9章 スア
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できるだけのこと

 呪術を放とうとしたが、それよりも先にエストルが短剣を抜いて〈追跡者〉を斬りつけた。〈追跡者〉が咄嗟に避けると、その場所に青く輝く魔法陣が現れた。〈追跡者〉は呪縛された。

「ほう。まるでこうなることを予測していたみたいだな。用意が周到だ」

 すると、エストルは不敵な笑みを浮かべた。

「当然だ。クレッチが記憶をのぞかれたのに手をこまねいて見ているわけにはいかない」

「なるほど。さすがムーンホルン王国宰相。だがな」

〈追跡者〉は抗う腕を力尽くで上げ、宙をかき切る動作をした。腕の骨が折れる音がしたが、そんなことはかまわなかった。魔術を行使するにはさほど影響はない。一直線の光が飛んで、魔法陣の呪縛を断ち切り、そのままエストルを狙った。エストルは短剣を剣に持ち替えてそれをはね除けた。

「くっ、効かぬか」

 魔法陣の呪縛を強引に破られて、エストルは下唇を噛む。だが、すぐに連続して光が飛んでくる。エストルは何とか全てはね除けた。

「剣裁きもなかなかのものだな」

 感心したように言いながら、最後の光を放ち、〈追跡者〉は魔法陣を瞬時にしてエストルの方に移動させた。最後の魔法は威力が大きく、エストルの剣ではかなわなかった。エストルは吹き飛ばされ、魔法陣に放り出された。今度は逆にエストルの方が動けなくなる。

「なかなか強力な魔法陣だ。お前が作ったのだとしたら、相当な術士だな。いいできだ。せっかくなので、使わせてもらおう」

 青かった魔法陣の光の色が赤に変わった。頭が何かに圧迫されたように重くなる。

「さあ、見せてもらおう。全てを知るお前の記憶を」

 激しい頭痛がエストルを襲う。エストルは歯を食い縛った。負けてはいけない。できるだけのことはするとグレンと約束した。グレンのように耐えきれるかどうかは分からないが、とにかくできるところまでやってみる。

「抵抗するか。無駄なことを」

 頭痛が一層激しくなった。あまりの痛みに意識が遠のきかける。そのときだった。目の前に銀色の刃がきらりと光った。刺される、そう思ったその瞬間だった。

「エストル!」

 何が起こったのか一瞬分からなかった。理解するのに時間がかかった。自分をかばうようにして覆い被さってきた体。その背中に刃が妖しい輝きを放ちながら刺さり、真紅の血が溢れてきた。

「そん……な」

 頭が真っ白になる。胸に倒れ込んで苦しそうに息をしているのは紛れもなくグレンだった。

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