読まれた記憶
「何でしょう? 変な威圧感が」
デュランは辺りを見回した。グレンは見回すよりも気配を感じ取ることに集中した。焦りが見え始める。
「まさか。そんな」
どさっと何かが大きな音を立てて落ちる。慌てて足下を見ると、そこには倒れたクレッチがいた。
「クレッチ? おい、しっかりしろ、クレッチ」
デュランが揺り動かすが、答えがない。意識を失っているようだ。
「〈追跡者〉、ここで何をしているの?」
気配の正体を正確に把握したグレンは、確信を持って問うた。すると、闇の中から金色の瞳の上級ヴァンパイアの姿が現れた。
「さすがグレン。私の気配を覚えていたか」
「忘れるはずがない」
グレンはヴァンパイアを睨みつけた。
「まあそう怒るな。少し遊びに来ただけだ。例えば」
〈追跡者〉はにやりと笑った。
「このクレッチとかいう男の記憶を覗いてみたりな」
「何だと?」
デュランの顔から血の気が引いた。
「なかなか興味深かった。今日はもうこれで帰る」
「待て」
グレンは手を伸ばしたが、〈追跡者〉はすぐに消えた。
分からない。クレッチが何かヴァンパイアに有利な情報を握っていたというのか。
それよりも先にクレッチの状態を確認しなければならなかった。グレンはクレッチの横に屈み、手を握ってみた。
「意識を失っているだけみたいだね。あとは魔力がほとんど残っていない」
おそらくグレンが以前そうしたようにヴァンパイアに抵抗して、記憶が読まれないようにしたのだろう。
「部屋に運んで休んでもらおう。直に意識が回復するはずだから」
「はい」
気丈そうに答えるが、デュランの顔色はまだ戻っていないような気がした。
「行きましょう」
逆に声をかけられて、グレンははっとしてクレッチの左肩を持つ。
二人はクレッチを部屋に運んだ。




