3体の上級ヴァンパイア
ウィンターは続けた。
「テルウィングが開発したヴァンパイアは全部で5体だ。〈001〉は試験段階で失敗。〈002 追跡者〉は最初に開発に成功した男性の容姿をしたヴァンパイアで、機動力が特徴だ。〈003 告知者〉はセレストと接触した少女の容姿のヴァンパイアだ。以前話したとおり、離れた場所からの干渉が可能だ。〈004〉は開発中に暴走し、開発が断念された。そして、〈005 執行者〉。〈002〉と同じく男性の容姿をしていて、機動力こそ劣るものの、力が桁違いだ。これまでの開発で培った最新の技術を詰め込んだ最強のヴァンパイアと言ってもいいだろう。つまり」
ウィンターは険しい目でグレンを見る。
「3体の上級ヴァンパイアが現存するということだ」
3体。あの強さのヴァンパイアが3体も。
「テルウィングも現段階で〈005〉を人目に晒すような行動は取らないと思う。お前が遭遇したのは、おそらく〈002〉だ」
機動力のいう点では納得だ。あの速度はやはり尋常ではない。
「戦ったのか? 〈002〉と」
「うん」
グレンは下を向いた。
「最初はね、攻撃をはねのけて応戦したよ。でも、結局力負けして」
「やはり人間離れした実力の持ち主だな、お前は」
グレンは少し動揺して顔を上げる。
「普通の人なら上級ヴァンパイアの攻撃をはねのけるなんてとても無理だ。ヴァンパイアの魔力に圧倒されて体を動かすことさえままならない」
それはまさにグレンが初めて上級ヴァンパイアに遭遇したときの状況そのものだ。
「一撃も加えられなかったけどね」
引きつった表情でグレンは言う。すると、ウィンターはにっこり笑った。
「とにかく殺さずに去ってくれて良かった」
「ウィンターが来てくれなくてこのまま放置されていたら、死んでいたと思うけど」
「そうだな。もうこのままでも自然に息絶えると考えたのか、他にやることがあったのか」
少し考えていたが、ふと何かに気がついたようにウィンターは口を開いた。
「グレン、魔力が全然戻っていないな」
「え?」
そういえば、ヴァンパイアと対話して意識がなくなって、そのときから奪われた魔力がほとんど回復していない。いつもなら自然回復する。しかも、グレンはその高い治癒力の効果で、他の人よりも回復が早いはずなのに。
「精神的なダメージを喰らってないか?」
グレンはびくっとした。確かに精神的なダメージを喰らうと、魔力が回復しにくくなる。




