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ヴィリジアン  作者: 千月志保
第3章 エリー
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言葉をかけること

 ソードは納得したようにうなずいた。

「確かに。パイヤンのことは私に任せろ」

 凛とした表情で言われて、グレンの口元が少しほころぶ。

「無茶はしないでね」

 先ほどまで傷ついていた手首を握りしめ、グレンはソードの部屋から出た。廊下を曲がり、自室に向かおうとすると、途中でエストルに会った。

「またソードの部屋にいたのか?」

 平静な中にもいらだちが見える。

「怪我の治療をしていたんだ」

 さらりと言って通り過ぎようとすると、エストルがぎゅっと手首をつかんだ。グレンは驚いて立ち止まった。すると、握った手の力が急速に緩み、優しく柔らかな感触に変わる。

「魔剣の任務、あれは危険だ」

 険しい口調で言うエストルの表情が気になって、グレンは振り返った。

「気をつけて行ってきてくれ」

 エストルはグレンの返事を待たずに去っていった。

 報告会の前にセレストと打ち合わせをした。そのとき、魔剣の捜索をグレンに任せようとセレストが言った。誰一人として生還しない洞窟。いくら王騎士といえども、同じ人間だ。危険であることには変わりはない。エストルはグレンを行かせたくなかった。だが、何もできなかった。非力な自分のできる唯一の償い。言葉をかけること。

「これが一国の宰相だなんて。情けない」

 エストルは自嘲しながら自室に戻った。


 エリーに着いた。エリーは荒野の中にぽつんとある寂れた町だった。人影もまばらで砂をまき散らす風の音がよく聞こえる。夕暮れ時で地平線が少ない建物の間から見え、沈んでいく日がきれいに見えた。

「こんにちは」

 この町で唯一の酒場兼宿屋らしき建物に入る。

「いらっしゃい」

 カウンターとテーブル席が三席。こじんまりとした酒場だ。奥にある階段を上ればおそらく泊まれる部屋があるのだろう。

「何にしますか?」

「何か冷たい飲み物を。それと」

 グレンは中年の気さくそうなマスターに頼んだ。

「今晩泊めてもらいたいのですが」

「そうかい。荷物先に部屋に運ぼうか。どの部屋がいい?」

 マスターの口振りからして、どの部屋でも空いていそうな感じだ。まあこのような町に泊まるのは行商人と物好きな冒険者くらいだろう。


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