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ヴィリジアン  作者: 千月志保
第2章 サルニア
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人のものではない力

 同じ階のいちばん奥に王騎士専用の練習場がある。グレンは部下たちのいる一般の練習場で鍛錬していることが多いため、普段はあまり使わないが、今日は二人だけで話をする必要がある。まずはソードに見てもらわなければならない。

「なるほど。やはりそうだったか」

 グレンの剣から吹き出た閃光を自身の剣で振り切るなり、ソードは眉一つ動かさず、無表情のまま言った。

「力が……」

「そうだな」

 言葉は少なかったが、ソードはグレンの言わんとすることを誰よりも正確に理解していた。

「やっぱり……ヴァンパイアの、せいなの?」

「そう考えるのが妥当だろう」

「もしかして……ソードのその力は……」

 吸血されることによって得た人のものではない力。ヴァンパイアになったことによって得た力。ソードの桁外れの強さは、それがヴァンパイアの力だったからだ。そして、グレンも今、その力を手に入れた。望んだわけではないが。

「運命のいたずらだ。ありがたく使わせてもらえば良い」

 穏やかに言われると、少しだけ冷静になった。大きな力を得るということは、特に王騎士であるグレンにとっては、悪いことではない。むしろ魔獣やヴァンパイアを討伐し、人を助けるためには大いに役立つ。ヴァンパイアと戦うときにも、傷ついた人を癒すときにも力があった方がいいに決まっている。それでも、そのきっかけに戸惑いを覚えずにはいられなかった。

「グレン、急には無理だ。少しずつ、受け入れていけば良い」

 変わってしまった自分を、ヴァンパイアになってしまった自分を受け入れていく。どれほどの時間がいるのだろうか。ヴァンパイアになっても自分は自分。そう考えて生きていくしかない。ソードはヴァンパイアになったグレンをすでに受け入れてくれている。ソードが受け入れてくれているのに、自分の方は簡単に受け入れられない。


 ソードの言ったように、少しずつ受け入れていった。思ったほど時間はかからなかった。もう大丈夫だと思っていた。だが、改めて指摘されると、心が揺らぐ。

「どうかしたのか?」

 ウィンターが意地の悪い笑いを浮かべる。あるいはそう見えただけかもしれない。

「いや、何でもない」

 グレンは思ったことが顔に出やすい。まだ悟られてはならない。ウィンターはヴァンパイアのことをグレン以上によく知っている。もしかしたら、すでに気がついているかもしれない。そうだとしても、まだグレンの口からは言えなかった。見えない不安が口を割ることを阻んでいる。どうしたらいいのか、言ってしまったらどうなってしまうのか、グレンには予測がつかなかった。ソードもまだ明かさない方がいいと言っていた。もう少し、考えてからにしよう。

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