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ヴィリジアン  作者: 千月志保
第16章 海に浮かぶ橋
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守るべき存在

 残っている力はわずか。もう一か八かでたたみかけるしかない。

 ソードは残っている魔力を全て手のひらに集中させた。

「来るよ、ヴィリジアン」

 グレンも静かに目を閉じ、意識を集中した。カッと目を見開くと、ヴィリジアンの瞳が輝いた。それに呼応するように剣の刃がくっきりとした緑色の光をまとう。

 ソードは残っていた魔力を一気に解放した。緑色の光が吹き飛ばされ、勢いをつけたソードの攻撃はそのまま一直線にグレン目がけて突進してきた。グレンはキッと鋭い目つきで攻撃を見つめ、強く素速く剣を振った。腕が折れそうな衝撃を感じながらも、ソードの攻撃を一瞬で振り払った。この一瞬に力を集中させなければ、押し切れないと思った。

「なんて、力だ……」

 力は足りていなかったかもしれない。ソードも覚悟はしていた。だが、グレンの先ほどの攻撃を蹴散らしたのだ。こんなに一瞬で振り切られるとは思っていなかった。そして、次の瞬間だった。

「あ……」

 素速すぎて動きが見えなかった。だが、確かに、ソードの胸に、緑色に輝くグレンの剣が刺さっていた。

 エルを失ったそのときから狂い始めた二人の時間。一方は、ヴァンパイアが来る前の何の変哲もない世界を取り戻すことによってその罪を償おうとした。そして、もう一方は、大切な存在をあらゆるものから守るだけの力を手にすることによってその罪を償おうとした。

 だが、その大切な存在は、守るべき存在は。

「ソード」

 グレンは穏やかな表情でソードを真っ直ぐに見つめた。

「エルさんは、もうこの世界のどこにもいない」

 すると、ソードは弱々しい、だが優しい笑みを浮かべた。

「違う。エルは、私の心の中に、記憶の中に確かにいる。だから」

 優しさに満ちた笑いが嘲笑に変わる。

「ただ生き残りたくて。心の中の、記憶の中のエルだけでも守りたくて、誰にも負けない強い力を求めた。私も消えてしまえば、エルは本当にいなくなってしまうから」

「ソード……」

「本当はどこかで気づいていた。強い力を手にすることで、逆に自分の身がより大きな危険にさらされる可能性も高くなるのだと。だが、引き返すには遅かった。もう強くなれるところまで強くなるしかなかった」

 涙が一粒、ソードの瞳からこぼれ落ちる。

「すまない、エル。これが私の力の、限界だ」

 緑色の光が消えるのと同時にソードは目を閉じた。魔力が完全に尽き、カーマナイトの核がヴィリジアンに侵食されるのを抑えることができなくなったのだろう。

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