神殿の町
「きりがないわね」
ソフィアが苦笑する。
「まああの程度の魔物だったら、普通の冒険者やハンターが始末してくれるだろう。襲ってきた魔物にだけ対処することにしよう」
言いながら、エストルは剣を鞘に収めた。
「エストル様、心なしか剣を振るっている顔が生き生きとしているように見えますよ」
グレンが笑いかけると、エストルは苦笑いを浮かべた。
「かしこまった言葉遣いで皮肉を言われるのは気持ち悪いものだな」
横でくっとウィンターが笑う。
パイヤンに近づけば近づくほど魔物の数が増えていくと冒険者たちは言っていた。だから、最近はパイヤンには用がないかぎり近づかないようにしているとも。もともとパイヤンの神殿は巨大だが、ゲートを守ることのみを目的としているため、王家の関係者や神官以外の者が、例えば巡礼のために訪れるといったことはない。町に住む者はほとんど神殿の関係者で、その者たちが生活するための施設があるだけである。行き来する者といえば、商人と神殿に届け物をする飛脚くらいだ。
魔物を倒しながら森を抜けると、前方にパイヤンの外壁が見えた。遠目から見たところ、特に替わった様子はない。
パイヤンの方角から旅人が二人歩いてきた。一人はろばに荷車を引かせている。もう一人は槍と盾を持っている。
「失礼。パイヤンから来たのか?」
エストルが尋ねると、ろばの手綱を握っている方が答えた。
「そうです。農作物を納めに行った帰りです」
「そちらは護衛の者か?」
「ええ。パイヤンの周りは魔物が多いので」
「そうか。パイヤンでは何か変わったことはなかったか?」
「特にありませんよ。いつもどおりです」
「よく来るのか?」
「月一回くらいです」
「そうか。ありがとう。気をつけて」
エストルは聞きたいことを一通り聞くと、二人を見送った。
「分からないな」
ゲートの封印が解かれてテルウィングから魔獣が送られてくる。何の異常もないはずがない。
「とにかく行ってみましょうよ」
グレンはまだぼんやりとしているパイヤンの町を見つめながら言った。




