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ヴィリジアン  作者: 千月志保
第13章 魔術研究所
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実験

「グレン?」

 どうしていいか分からずとまどっていると、握ったままのグレンの手が震えだした。力が入りすぎて来る震えだ。何もできずにただ様子をうかがっていると、グレンが手を上から押さえつけてきた。

「なっ」

 エストルは何か言おうとしたが、首筋に痛みを感じて発しようとしていた言葉を忘れた。

 グレンが首筋にかぶりつき、夢中になって血をすすっている。

 突然後ろから頭を首筋にふわりと押しつけられ、グレンははっとする。だが、それがエストルの手だと分かり、安心したように全身の力を抜き、ゆっくりと血をすすり続けた。

 唇を静かに放し、傷口に手を当てようとしたが、先にエストルが自分の手を当て、傷口を塞ぐ。

「なんで? なんで……」

「なぜ吸血されたのに意識があるのか、か? なぜだろうな」

 エストルは立ち上がって、つかつかと静かな足音を立てながらゆっくりと棚の方に歩いていった。その後ろ姿をウィンターも驚いた顔で見ている。

 棚から小さな皿を二枚と針を二本出して、エストルは台に置いた。針を一本手にすると、その針で自分の左手の人差し指を軽く刺した。針を置き、ぎゅっと人差し指の先を右手の二本の指で押さえて、小皿に血を絞り出す。指を清潔な布で軽くぬぐう。

「グレン、お前の血も少しもらっていいか?」

「う、うん」

 何となくエストルのしようとしていることが分かって、グレンはあわててうなずく。グレンが指を差し出すと、エストルは同じようにもう一つの小皿にグレンの血を採った。

「ヴィリジアン、だよね?」

 そう言ってグレンは剣を握る。二つの小皿の上を一振りすると、グレンの血の方が緑色に発光し、黒ずみ、そして元の赤い色に戻った。エストルの血の方には何の反応も見られなかった。

 グレンはもう一振りしてみた。今度はどちらの血にも反応は見られなかった。

「これは」

 後ろからのぞいていたウィンターが驚きの声を上げる。

「これって、つまりエストルがヴァンパイア化していないってことだよね」

 グレンが少し熱のこもった口振りで尋ねる。

「どうやら一度ヴィリジアンで浄化されると、吸血されてもヴァンパイア化しない体質になるようだな」

 エストルは吸血されてにもかかわらず、意識を失わなかった。加えて、ヴァンパイアであるグレンの血はヴィリジアンで浄化されたのに対し、エストルの血はヴィリジアンに反応しなかった。つまり、エストルは吸血されたにもかかわらず、ヴァンパイア化しなかったということだ。

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