案じる者
それからだった。グレンがソードの血なしには生きられなくなったのは。
ソード、僕は一生こうして生きていくしかないのかな」
「必要ならば、いつでも側についていてやる。だから、お前はお前らしく生きろ。いいな、グレン」
ソードにそう言われると安心する。普段はあまり口数は多くないが、二人でいるときは優しい言葉をたくさんかけてもらえているような気がする。きっとグレンの不安はヴァンパイアに吸血されたことのあるソードにしか分からない。他の誰かが代わりになることはできない。
「ちょっと来い、グレン」
グレンの部屋のある廊下の角を曲がると、腕を組んで壁にもたれかかっていたエストルが急に起き上がって乱暴にグレンの腕をつかんだ。先ほどからここでグレンを待っていたらしい。
「何するんだよ、エストル」
動揺してグレンが切り返す。しかし、エストルは何も言わずにグレンの手を引いたまま自室に連れ込んで扉をばたんと閉める。
「またソードの部屋にいたのか?」
「……」
エストルはグレンがソードと二人だけでいることを快く思っていない。そのことは分かっている。
「あまりあいつには気を許すな」
この言葉を聞いたのはこれが初めてではない。
「あいつは……信用できない」
どうして。ソードが冷酷な性格だからか。眉一つ動かさずにヴァンパイア討伐に行くような人だからか。
「ソードは……優しい人だよ」
言っても無駄だということも分かっている。ソードがあのように優しく振る舞ってくれるのは自分の前だけだ。
エストルは最初からソードに対して不信感を抱いていたらしい。というのも、ソードというのは国王がパイヤンという町に行ったときに自ら連れてきて王騎士にした者で、素性がよく分からないからだ。性格の変わり果ててしまった国王が自ら選んだ冷酷な王騎士。エストルはそんなソードをずっと警戒している。
「グレン、分かってくれ。お前のことが……心配なんだ」
普段あまり感情を表に出さないエストルからそう言われると、さすがにグレンも口答えできない。だが、ソードは絶対に必要な人なのだ。
「君の言ったことは覚えておくよ」
差し障りない言葉でグレンは逃げる。
「ああ。どこかに覚えておいてくれ」
エストルは扉を開けてグレンを解放する。自室に向かうその背中をじっと見送る。




